チャイム（チューブラーベル）完全ガイド：歴史・構造・奏法・選び方まで詳解

2025年12月16日 最終更新日時 : 2025年12月16日 エバープレイ編集部

チャイムとは何か──呼称と範囲の整理

「チャイム（chime）」という呼び名は日本語で広く使われますが、音楽・楽器の世界ではいくつかの意味が混在します。一般には金属製の音響体を打撃して鳴らす“鐘（bell）”に近い音色を持つ楽器群を指し、オーケストラで使われるチューブラーベル（tubular bells、管状のチャイム）、手で持って演奏するハンドチャイムやハンドベル、建物や学校で使われる電気式チャイム音、さらには塔に吊るされたカリヨン（carillon）などが関連します。本稿では主に“チャイム＝チューブラーベル／ハンドチャイム”という楽器的な意味合いを中心に、その歴史、構造、音響特性、奏法、楽曲での使われ方、選び方・管理方法まで詳しく解説します。

歴史と発展

鐘そのものの歴史は古く、宗教や時刻告知、儀礼で用いられてきました。打楽器や金属製の音体を楽器化して旋律用途に用いる流れは、ルネサンス以降に発展しました。近代における“チューブラーベル（tubular bells）”は19世紀後半から20世紀初頭にかけて、金属管を音高ごとに切り出してフレームに吊るし、叩くことで鐘に似た音を得る楽器として普及しました。学校音楽や教会音楽、オーケストラの特殊効果として採用され、特に20世紀以降の吹奏楽・オーケストラ作品や映画音楽で鐘の音を模す際に重宝されています。1973年にはマイク・オールドフィールドのアルバム『Tubular Bells』が世界的に有名になり、チャイム（チューブラーベル）の名はポピュラー文化にも浸透しました（参照：Mike Oldfield「Tubular Bells」）。

種類と分類

  • チューブラーベル（tubular bells）: 金属の円管を垂直に吊るし、外側をマレットで打って鳴らす。オーケストラ・バンド用のプロ仕様から学校用の簡易版まである。
  • ハンドチャイム: アルミや真鍮の管をハンドル付きで保持し、手で振るか打って演奏する合奏用の楽器。ハンドベルに似るが形状や発音機構が異なる。
  • ハンドベル: 伝統的な鋳造鐘型のベルを手で振って合奏する楽器。チャイムと混同されることがあるが構造は異なる。
  • カリヨン（carillon）: 鐘楼に据えられた鋳造ブロンズ製の多数の鐘を専用キーボードで演奏する大型楽器。チャイムと用途は重なるが別系統。
  • 電子・機械式チャイム: 電子音源や電磁アクチュエータで鐘音を再現する装置。設置や管理が容易で公共施設で広く使用される。

構造と素材

チューブラーベルは基本的に同一断面の金属管を音長に合わせて切り、上部を固定／吊り下げて叩く構造です。素材は鋼、真鍮、アルミニウムなどが使われ、素材・厚さ・長さが音高と音色を決定します。管の長さが長いほど低音、短いほど高音になります。管を閉じるか開放するか、打撃位置、管の直径や壁厚によって倍音（部分音列）の構成が変わり、鐘らしい“包絡の急な立ち上がりと豊かな余韻”が生まれます。ハンドチャイムやハンドベルは個々の音高を持つ単独の音体を各奏者で分担して演奏します。

音響特性と調律

鐘類は弦楽器や管楽器と比べて倍音列が不規則（非整数倍音）が含まれるため、独特の色彩を持ちます。特にチューブラーベルは金管や鋳物の鐘よりも倍音がやや整って聞こえることが多く、音の立ち上がりが明瞭で残響が比較的長いのが特徴です。チューニングは管の長さ・厚み・打撃点の設計で行われ、製造段階で精密に調律されます。演奏者側でピッチを大きく変えることはできないため、楽曲の編成時にはピッチ（A=440Hzなど）や調律の差に注意が必要です。電子音や録音と混ぜる場合はサンプリングのピッチ整合も重要です。

奏法と演奏表現

  • マレットの選択: 硬めのマレットはアタックを強調し、柔らかめのマレットは輪郭を和らげてより鐘らしい余韻を得られる。複数のマレットを組み合わせて音色を作る。
  • ローリング（ロール）: 手またはマレットで素早く交互に叩いて持続音を作る。オーケストラ的な効果やサスティン表現に用いる。
  • ダンピング（ミュート）: 持続時間が長い楽器なので必要に応じて手や布で停止させる。特に小規模の編成や録音ではコントロールが重要。
  • 配置と打撃位置: 管の上部近傍を打つのが一般的だが、打つ位置で倍音の比率が変わるため表現の幅がある。

楽譜表記とオーケストレーション上の扱い

楽譜では通常「Tubular Bells」「Chimes」などの表記が用いられ、拍子や和音の持続に合わせてロールやダンピング指示が書かれます。チャイムは混濁しやすいため、和音数を絞る、楽曲中の他楽器のレジストレーションを落として“空間”を作る、残響の少ないタイミングを選ぶといった配慮が求められます。映画音楽や劇伴では鐘音を象徴的に使って時間・儀式・神秘性を表現することが多く、混声合唱やシンセサイザーと組み合わせる場合もあります。

教育・合奏での利用

学校や地域の音楽活動では扱いやすいハンドチャイムやハンドベルのアンサンブルが普及しています。楽譜の割り当てを分担して演奏するため、合奏教育の導入楽器としても有効です。ハンドチャイムは持ち運びや音量面で扱いやすく、子どもや一般参加者でも比較的短期間で合奏が成立します。

購入・管理・メンテナンスのポイント

  • 用途に合った種類選び: オーケストラ用途ならプロ仕様のチューブラーベル、教育用途ならハンドチャイムや簡易セットが現実的。
  • 保管と湿度管理: 金属・木製フレームは湿度や温度変化で変形・腐食する可能性があるため、乾燥気味で安定した環境が望ましい。
  • 輸送と取り扱い: 管は曲げや打撃に弱いので専用ケースやパッドで保護する。現場でのセッティング時は振動や転倒に注意。
  • 調整と修理: マレット交換、支持点の調整、錆びの除去など定期的な点検が必要。大きな調律変更は製造元や専門技術者に相談する。

代表的な使用例・レパートリー

クラシックや現代音楽、映画音楽、ポピュラー音楽まで幅広く使用されます。具体的には映画音楽や劇伴で鐘の象徴性を活かした用途が多く、20世紀以降のオーケストレーションでは特殊効果として用いられてきました。1970年代以降のポップ／ロックでもチューブラーベルの明瞭な打撃音が楽曲の印象を強めるケースがあります（例: Mike Oldfieldの『Tubular Bells』）。

チャイムを選ぶ際のチェック項目

  • 音色（硬さ・余韻の長さ）: 実際に試奏して楽曲に合うか確認する。
  • 音域（カバーできる音の範囲）: 必要な最低音・最高音が揃っているか。
  • 耐久性とメンテナンス性: 学校や移動が多い用途なら頑丈な作りと交換可能な部品が望ましい。
  • 予算: プロ用は高価だが音質・耐久性に優れる。教育用は廉価で扱いやすい。

まとめ

チャイム（特にチューブラーベルやハンドチャイム）は、鐘に似た独特の響きを持ち、場面の象徴性や幽玄性を演出する強力な音響素材です。種類や素材、奏法によって音色は大きく変わるため、用途（オーケストラ、教育、録音、屋外設置など）に応じた選択と適切な管理が重要です。楽曲に取り入れる際は残響や和声のクリアネスに配慮し、必要ならダンピングや編成の工夫で音の混濁を避けましょう。

参考文献

カテゴリー
楽器
前の記事
The O.C.徹底解説：制作背景・人物相関・音楽・文化的影響まで読み解くNew!!
2025年12月16日
次の記事
仕入先選定と管理の完全ガイド：リスク低減・コスト最適化・持続可能な調達戦略New!!
2025年12月16日