音楽機器選びで重要な「IPX4」を徹底解説:防水性能の実態と音質・運用で気をつけること
はじめに — 音楽リスニングと“防水”の関係
アウトドアでの音楽再生やトレーニング中のイヤホン利用が当たり前になった現代、製品選びのキーワードとして「防水」「耐汗」「IPX」表記を目にする機会が増えました。本稿では、とくに多くのワイヤレスイヤホンやポータブルスピーカーで採用されている「IPX4」を中心に、規格の意味、実際の利用での注意点、音質やメンテナンスへの影響、製品選定の考え方までを詳しく解説します。
IPコード(IP規格)の基礎:IPX4はどの位置にあるのか
IPコードはIEC(国際電気標準会議)の定める「IEC 60529」に基づく保護等級の表記で、一般には固形物(第1桁)と水(第2桁)への保護等級を2桁で示します。例えば「IP67」は防塵(6)かつ水没(7)に耐えることを示します。
「IPX4」の場合、第一桁が『X』であるため固形物(防塵)については評価が行われていない、または表示していないことを意味します。第二桁の『4』は『あらゆる方向からの飛沫(はね返り/水の飛散)に対して有害な影響がないレベル』である、という意味です。
IPX4の試験の趣旨(概要)
IPX4は製品が“あらゆる方向からの水の飛まつ”に耐えることを求める試験です。標準では噴霧・飛沫を想定した条件下での動作確認が行われ、「外部からの水の飛沫によって製品が故障しない」ことが合格条件です。ここで重要なのは『飛沫』が想定されている点で、強い水流や高圧噴射、浸水(沈めること)は対象外だということです。
音楽機器におけるIPX4の実用的な意味
- トレーニング中の汗:多くのワイヤレスイヤホンの利用シーンである汗(軽度〜中等度の発汗)には概ね耐えうる。
- 屋外での小雨や傘なしでの利用:軽い雨や運動での水はね程度は問題なく使える可能性が高い。ただし長時間の豪雨や直接シャワーを浴びせるような状況は想定外。
- シャワーやプールでの使用は不可:シャワーの強い水流やプールの水没はIPX4の保護範囲外であり、故障リスクが高い。
- 充電端子・接点の扱い:端子カバーがあるとしても、接点部が濡れたまま充電すると危険。防水等級は電気系統の完全密閉を保証するものではない。
「IPX4」と他の等級(IPX5、IPX6、IPX7等)との違い
IPX4はあくまで“飛沫”への耐性を示します。一方で上位等級との主な違いは水の強さと状況です。
- IPX5/IPX6:水のジェットやより強い噴流に耐える等級。屋外での激しい雨や高圧の水しぶきに耐える用途向け。
- IPX7:一定深さ(一般に1m前後)での短時間の浸漬(サブマージ)に耐える等級。水没からの復帰が可能。
- IP6Xとの組合せ:完全防塵(6)と水没(7)を併せ持つ製品は、過酷な環境でもより信頼性が高い。
IPX4が示さない項目 — 誤解しやすい点
- 防塵性能は不明:『X』は検査を行っていないか表示していないことを示す。砂埃や粉塵に弱い可能性がある。
- 耐久性の限界:長期間の塩分を含む汗や海水への曝露は腐食を引き起こす可能性がある。
- 保証の範囲ではないことが多い:メーカーの保証規定で水濡れは対象外となる場合があるため、仕様と保証条件は必ず確認すること。
音質への影響 — なぜ水や汗が音に悪影響を与えるのか
水がドライバーや音孔、メッシュ、パッシブラジエーターの内部に入ると、以下の問題が起こり得ます。
- 物理的な抵抗変化:振動板周辺に水分が残ると振動特性が変わり、高域の減衰や音の濁りが生じることがある。
- 内部回路の短絡や接点不良:ナノコーティングなどで保護されていても、長期的な水分曝露は配線や接点を傷める。
- マイク感度の低下:外部マイクや入力端のメッシュに水が詰まると通話やノイズキャンセリング性能が落ちる。
したがってIPX4は日常使用における安心感を高めますが、「濡れても音はまったく変わらない」と断言できるものではありません。
どのような技術でIPX4相当の防水を実現しているか
メーカーは複数の手法を併用して防水性能を確保します。
- ケースや筐体のシーリング:樹脂成形による一体化やゴムパッキンで外部水分の侵入を抑える。
- 撥水/撥油コーティング:内部基板や振動板に特殊な撥水処理(ナノコーティング)を施す。
- メンブレンや防水膜:マイクや通気孔に防水透湿膜を用いて、音の透過性を保ちながら水の浸入を阻止する。
- 排水設計:水が入っても自然に抜ける構造や、電子部品を高い位置に配置することで致命的な浸水を回避。
実際の使用での注意点(音楽をより安全に楽しむために)
- 充電は必ず乾いた状態で:濡れたまま充電しない。充電端子が湿っている場合は完全に乾かしてから。
- 海水は避ける:塩分が材料を腐食させ、保護コーティングを劣化させる。
- 長時間の水濡れは避ける:短時間の飛沫や汗を想定しているため、濡れたまま放置しない。
- メンテナンス:使用後は柔らかい布で拭き、イヤーチップやイヤーパッドも清潔に保つ。
- 保証を確認:水濡れ故障が保証対象か否かは製品ごとに異なる。
購入時のチェックポイント — 用途別の推奨等級
- ジョギングやジムでの使用:IPX4〜IPX5が一般的に十分。汗や小雨に耐える。
- 屋外で長時間使用、激しい雨が想定される場合:IPX5〜IPX6を検討。
- シャワー利用・水没可能性がある場面:IPX7以上(サブマージ耐性)を選ぶ。
- アウトドアで砂埃が問題となる場合:第一桁の防塵等級(例:IP67など)を重視する。
よくある誤解とQ&A
- Q:IPX4は完全防水ですか?A:いいえ。『防水』と表現される場合もありますが、IPX4はあくまで飛沫耐性であり、浸水や高圧の水流は想定外です。
- Q:IPX4でもシャワーで使えますか?A:おすすめできません。シャワーの水圧・温度やせっけん成分は想定外です。
- Q:IPX4のイヤホンは海で使えますか?A:海水による腐食リスクがあるため避けるべきです。
まとめ — IPX4は利便性と限界を理解して使うのが肝心
IPX4は、汗や小雨といった日常的な水濡れシーンに対応できる有用な防水等級です。音楽機器を日常的に持ち出して使う人にとっては安心感を与えてくれますが、「防水=何をしても大丈夫」と考えるのは危険です。使用シーンを想定して、必要な等級を見極めること、そして濡れた後の取り扱い(乾燥・清掃・充電のタイミング)を守ることが長く良好な音質と機器寿命を保つ鍵になります。
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参考文献
- IP Code — Wikipedia
- IP Ratings — TÜV
- Apple サポート:水や汗に対する耐性について(AirPodsなど)
- IP Ratings Explained — B&H Explora
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