AWB(自動ホワイトバランス)完全ガイド:仕組み・設定・実践テクニック
はじめに:AWBとは何か
AWB(Auto White Balance、オートホワイトバランス)は、デジタルカメラやスマートフォンが撮影時に色合いの偏り(色温度の違い)を補正して、被写体の“白”を自然に見せるための自動機能です。光源ごとに色温度やスペクトル分布が異なるため、同じ被写体でも光源によって色味が大きく変わります。AWBはその違いを自動的に検出・補正することで、JPEG撮影時に望ましい色合いを得やすくします。
色温度と基礎理論
色温度(ケルビン、K)は光源の色味を数値で表したもので、低い値は赤みのある暖色(例:ろうそくやタングステン電球)、高い値は青みのある寒色(例:曇り空や日陰)を示します。カメラはこの色温度を推定して、赤・緑・青のゲインを補正することでニュートラル(白や灰が色かぶりしない状態)を目指します。ただし、実際の光源は理想的な黒体放射とは異なり、蛍光灯やLEDはピーク成分があり“メタメリズム”という現象で同じ色温度でも見え方が変わります。
AWBの仕組み(アルゴリズムの概略)
- グレイワールド仮説:画像全体の平均色が中立(グレー)と仮定して補正するシンプルな手法。シーンが偏った色調だと誤動作しやすい。
- グレーエッジ/色分布解析:エッジや色の分布を使ってより頑健に推定する手法。局所的な情報を参照することで誤補正を減らす。
- 顔・人物検出:肌色に基づく補正。人物が写っている場合、顔の色を基準に調整することで自然な肌色を優先する。
- シーン認識・学習ベース:風景、室内、夕景などシーンタイプを判別して最適な補正を選ぶ。最近は機械学習を用いたモデルが多く採用されている。
- マルチスペクトル・センサーデータ:一部の高級機はRGB以外の情報や複数のセンサーを使い、より正確に光源スペクトルを推定する。
カメラ内設定とプリセット
一般的なホワイトバランス設定には、AWBの他に「太陽光(Daylight)」「曇り(Cloudy)」「日陰(Shade)」「白熱灯(Tungsten)」「蛍光灯(Fluorescent)」「フラッシュ(Flash)」などのプリセットがあります。さらに、ケルビン(K)で任意入力できる機種や、カスタム(グレーカードやニュートラルカードを使って測定)を保存できる機能が搭載されています。
JPEGとRAWの違い
RAWデータはカメラ内でのホワイトバランス補正を未適用の生データなので、撮影後に自由に色温度やティント(緑〜マゼンタの補正)を変更できます。JPEGはカメラ内で既に補正・画像処理された結果が保存されるため、AWBの挙動がそのまま最終画像に反映されます。プロワークフローでは、可能ならRAW撮影を行い、後処理で正確に補正するのが推奨されます。
AWBが苦手な状況と対策
- 単色に偏ったシーン(夕陽や大きな赤い被写体):AWBは中立を期待するため、暖色の雰囲気を消してしまうことがある。対策はAWBをオフにして意図的な色温度を設定するか、RAWで後処理する。
- 混合光源(窓からの自然光+室内灯):光源が混在するとAWBはどちらに合わせるか迷い、結果が不自然になりやすい。現場ではグレーカードでカスタムWBを作るか、主要光源(人物に当たる光)に合わせる。
- 蛍光灯やLEDのスペクトル問題:色飽和や特定波長が欠落する場合、単純な色温度補正でうまく行かない。蛍光灯プリセットや特定の蛍光灯タイプを選ぶ、RAW補正で細かく調整する。
- 動きのあるビデオや照明のちらつき:AWBがフリッカーや暴れを起こす場合がある。ビデオでは手動でWBを固定し、カメラのフリッカー低減設定(50/60Hz選択)を使う。
実践テクニック:撮影前の準備
- グレーカード/ホワイトカードを使う:最も確実な方法。カメラでカスタムWBを撮影して登録するか、RAWで現像時にピッカーで基準にする。
- Expodiscや色温度センサーの活用:レンズ前に装着して光を測定することで、正確なホワイトバランスを得られる。
- ケルビン入力で微調整:状況に応じてKelvin値(例:3200Kで暖かめ、5600Kで昼光)を直接設定することで意図的な色味を得られる。
- AWBロック/プリセット保存:カメラのAWBロック機能で一度測定したWBを固定する、またはカスタムプリセットを複数登録して使い分ける。
ポートレート/商品撮影のコツ
人物の肌色は鑑賞者にとって違和感が出やすい部分なので、顔色に合わせたWBが重要です。スタジオではモノブロックやストロボの色温度を基準にし、カスタムWBを設定。商品撮影では被写体の「真っ白」を基準にして色再現性を優先します。製品撮影ではグレーカード+カラーチャート(ColorCheckerなど)でプロファイルを作ると最も正確です。
動画撮影での注意点
動画は連続したフレームで色が変動すると視聴者に違和感を与えます。AWBを常にオンにしていると照明が変わるたびに色が揺れることがあるため、撮影開始前に手動でホワイトバランスを固定するのが基本。スタジオ照明が無いロケでは、撮影中の照明条件の変化に注意し、必要に応じてカットごとにWBを合わせるかRAW動画(対応機種のみ)で後処理する。
実際のワークフロー例
屋内で人物撮影(窓から自然光あり+室内電球):まず主要光源(被写体に当たる光)を決め、グレーカードでカスタムWBを取得する。複数光源で混在する場合は、RAWで両方の色味を撮り分け、後処理で肌色を基準に仕上げる。
夕景の風景写真:AWBだと夕日の暖かさが薄れることがあるため、Daylightよりも低め(暖色を残す)に設定するか、AWBをオフにして意図的な色温度を選ぶ。RAWならあとで暖色を強めに調整できる。
よくある誤解とFAQ
- AWBは常に“正しい”色にするか?:必ずしも正しくない。AWBは視覚的に自然に見えることを優先するが、表現意図(暖かさを残すなど)や正確な再現性(製品写真)では手動やカスタムが必要。
- RAWならWBを気にしなくていい?:RAWは柔軟性があるが、撮影時に極端に外れた色(強い色被り)があると後処理でのノイズや色再現に影響が出る。適切な露出とできる限り正しいWBで撮るのが望ましい。
まとめ
AWBは便利で多くの場面で有効ですが、万能ではありません。シンプルな風景や屋外撮影ではAWBが正確に働くことが多い一方、混合光源や表現重視の撮影では手動設定やカスタムWB、RAW現像での調整が不可欠です。正確な色再現が重要な仕事写真や商品の撮影では、グレーカードやカラーチャートを用いたワークフローを取り入れることを強くおすすめします。
参考文献
- Cambridge in Colour: White Balance
- Wikipedia: Color temperature
- Nikon: White Balance(Tips & Techniques)
- X-Rite: What is White Balance?
- B&H Explora: What is White Balance?
- Adobe Help: Adjust white balance in Camera Raw and Lightroom
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