クラスDアンプ完全ガイド:原理・設計・実用上の注意点を徹底解説
概要
クラスDアンプは、スイッチング方式を用いることで高効率を実現する音声用パワーアンプの一種です。リニア動作のクラスA/Bとは異なり、出力素子(通常はMOSFET)を高速にオン/オフすることで平均出力電圧を制御し、出力段の損失(熱)を大幅に低減します。これによりポータブル機器や車載機器、アクティブスピーカー、サブウーファーなどで広く採用されています。
基本動作原理
クラスDの基本は、入力信号をパルス化(変調)してスイッチング出力を作り、それをローパスフィルタ(通常はLC)で平滑化して音声帯域に戻すという流れです。最も古典的な方式は三角波(キャリア)と入力音声を比較してPWM(パルス幅変調)を生成する方法です。デジタル系では1ビットΔΣ(シグマ・デルタ)変調やパルス密度変調(PDM)も良く使われます。
代表的なトポロジー
- ハーフブリッジ(片側ブリッジ): 単電源系での簡易な構成。出力はブリッジ接続より低い電圧振幅。
- フルブリッジ(Hブリッジ/BTL: Bridge-Tied Load): スピーカをブリッジ接続して差動出力を得るため、同じ電源電圧で2倍の振幅が得られ、出力パワーが向上します。
- フィルタレス(フィルタ軽減)方式: 出力にLCをほとんど置かず、スピーカのインダクタンスで高周波を減衰させる設計。小型化とコスト低減が可能だがEMIや高周波ノイズ制御が難しい。
変調方式と周波数設計
変調は音質や実装面に大きく影響します。代表的なものは次の通りです。
- PWM(連続キャリア比較): 三角波キャリアと比較してパルス幅を変える方式。アナログ入力からの実装が簡単で、設計の経験値が豊富です。
- ΔΣ(シグマ・デルタ)/1ビット変調: 高速でノイズシェーピングし、デジタル信号処理と親和性が高い。出力は1ビットのストリームなので、デジタルアンプと組み合わせやすい。
- PDM(パルス密度): 入力の振幅をパルスの密度で表現する方式で、デジタルマイクやコーデックとの親和性があります。
スイッチング周波数は一般に数百kHz〜1MHz程度が使われます。高周波にするほど出力フィルタの要件は緩和されますが、スイッチング損失やEMI対策、ゲート駆動の負担が増えます。設計ではトレードオフを検討することが重要です。
出力フィルタ設計のポイント
LCローパスフィルタは高調波(スイッチング成分)を除去して音声帯域のみを通過させます。設計では次を考慮します。
- カットオフ周波数: 音声帯域の上限(約20kHz)より十分高く、スイッチング周波数より十分低くする。実際にはフィルタ特性やスピーカのインピーダンス特性も考慮して決定します。
- インピーダンス依存性: スピーカのリアクタンス(周波数依存)によりフィルタ特性が変わるため、実負荷での評価が必要です。
- 位相遅延: フィルタは位相特性に影響し、低域の位相遅延がクロスオーバ設計やマルチウェイでの位相整合に影響します。
MOSFETとゲートドライバの重要性
出力段のMOSFETはRds(on)、ゲートチャージ(Qg)、スイッチング速度、ボディダイオードの逆回復特性が重要です。低Rds(on)は導通損失を減らし効率を改善しますが、ゲートチャージが大きいと駆動損失が増大します。高速スイッチングではリンギングとEMIが問題になりやすく、ゲート抵抗やスナバ、適切な基板レイアウトで抑える必要があります。
ゲートドライバはハイサイド/ロウサイドの駆動、ブートストラップ回路、デッドタイム制御、短絡保護などを担います。デッドタイムはショート(クロス導通)を防ぐために必要ですが、長すぎるとデバイスのボディダイオード通過により歪みや効率低下を招きます。
効率と熱設計
クラスDは理論上高効率(しばしば90%以上)を実現しますが、実効効率は出力レベル、周波数、負荷インピーダンス、スイッチング周波数やMOSFETの特性に依存します。設計では熱解析(損失分布)を行い、パッケージの熱抵抗、基板の熱拡散、放熱機構を検討します。さらに保護回路(過電流、過熱、低電圧ロックアウト)を実装して信頼性を確保します。
歪み・ノイズの発生メカニズムと対策
クラスD固有の歪み要因としては、スイッチング遅延・デッドタイムによる非線形性、MOSFETのスイッチング遷移に伴う高周波歪み、出力フィルタと負荷の相互作用による周波数特性の変動などがあります。対策としては以下が有効です。
- 高精度のタイミング制御と低ジッタクロック
- 適切なデッドタイム最適化
- ネガティブ・フィードバック(電圧帰還、または出力電流検出を用いたフィードバック)で歪みを低減
- スルーレートやスイッチングエッジを制御してEMIとリンギングを抑制
EMI対策と実装上の注意
高速スイッチングはEMIの主原因です。対策としては基板レイアウトの最適化(GNDプレーン、帰還ループの最小化)、出力側のスナバ回路やRCダンピング、コモンモードチョークの使用、シールド、スプレッドスペクトラムスイッチングなどがあります。また、測定時は高周波成分を含むため、測定法(フィルタリング、差動プローブ使用など)に注意が必要です。
現代の応用と進化
近年は、単体ICにゲートドライバ、プロテクション、さらにはDSPやイコライザを統合したソリューションが主流です。また、車載やプロオーディオ向けには高電圧・高耐圧設計の製品が出回っています。デジタル入力(I2SやPDM)から直接駆動する“デジタルアンプ”も一般化し、システム全体での電力効率と小型化が進みました。
設計上のチェックリスト(実務向け)
- 要求出力と負荷インピーダンスから必要な電源電圧と電流を算出する。
- スイッチング周波数とフィルタ特性のトレードオフを明確化する。
- MOSFETのRds(on)とQgをバランス、ゲートドライバの能力を確認する。
- 基板レイアウトで高電流ループと感受性の高い信号経路を分離する。
- EMI対策(フィルタ、チョーク、シールド)を初期段階から計画する。
- 歪み測定やSNR測定は適切なフィルタや測定器で行う。
- 保護機能(過電流、短絡、過熱、UVLO)を実装して安全性と耐久性を確保する。
まとめ
クラスDアンプは、効率・小型化という利点から現代の音響機器で不可欠な技術です。一方でスイッチングノイズ、EMI、設計の難易度など特有の課題もあります。高品質な音を得るには、変調方式の選択、出力段とフィルタの設計、MOSFETやドライバの選定、実装レイアウト、入念な測定とフィードバック設計が求められます。最新の集積化ICやDSPと組み合わせることで、従来よりも扱いやすく高性能なシステムが構築可能です。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- Wikipedia: Class-D amplifier
- Texas Instruments: TPA3116D2 Class-D Audio Power Amplifier
- Electronics-Tutorials: Class D Amplifier
- Analog Devices / Analog Dialogue: Class-D Audio Amplifier Basics


