フォノブースター徹底解説:アナログレコード再生の要を知る(選び方・設置・音質向上の実践ガイド)
はじめに — フォノブースターとは何か
フォノブースター(phono booster/フォノイコライザー、フォノプリアンプ、ステップアップトランス含む)は、アナログレコード(LP)再生においてレコード針(カートリッジ)から出力される非常に小さい電圧信号(ミリボルトオーダー)をラインレベル(約1 V)まで増幅し、さらにレコードのカッティング時に施されたイコライゼーション(主にRIAA)を補正する機能を持つ装置です。現代のオーディオ機器にはフォノ入力が搭載されていないものも多く、外付けのフォノブースターはターンテーブルを現代機器に接続するための必須アイテムになっています。
歴史的背景とRIAAイコライゼーションの起源
レコードはソースの低域をカッティング時に抑え、高域を強調して溝の物理的制約とノイズを低減する「イコライゼーション(プリエンファシス)」を施して刻まれます。再生時にはその逆補正(デエンファシス)が必要です。現在の標準であるRIAAイコライゼーションは1950年代に音楽業界の合意により策定され、これに準拠した補正を行うのがフォノブースターの役目です(RIAA=Recording Industry Association of America)。
フォノブースターの基本機能と種類
主な機能は以下の通りです。
- 微小信号の増幅(ゲイン):MMカートリッジやMCカートリッジの出力をラインレベルに引き上げる。
- RIAAイコライゼーション補正:再生時に低域をブーストし高域を削ることで、カッティング時の補正を元に戻す。
- インピーダンス整合および負荷設定:カートリッジ(特にMC)に適した入力負荷(抵抗・容量)を提供する。
- グラウンド処理:ハムやノイズを低減するための接地端子やスイッチを備える機種が多い。
分類すると大きく次の3タイプがあります。
- パッシブ(ステップアップトランス、SUT):トランスで電圧を上げる。電子回路を介さないため位相やダイナミクスに有利な場合があるが、周波数特性や利得の自由度で制約を受ける。
- アクティブ(トランジスタ/IC):オペアンプやディスクリート回路で能動的にゲインとイコライゼーションを行う。利得やイコライゼーション精度を高く取れる機種が多い。
- ハイブリッド:SUTとアクティブ回路を組み合わせ、SUTで低ノイズ化しつつアクティブ側で正確なRIAA補正とゲイン調整を行う。
カートリッジ別の扱い(MM vs MC)
カートリッジの方式によってフォノブースターに求められる性能が異なります。
- MM(Moving Magnet):出力は概ね2〜5 mV程度。入力インピーダンスは一般的に47 kΩが標準で、入力容量(ケーブル+回路)によって音が変わる。多くの内蔵フォノ段や外付けユニットはMMに対応。
- MC(Moving Coil):出力は0.2〜1 mVなど極めて低く、より高いゲイン(40〜60 dB)が必要。インピーダンスも低く、ステップアップトランス(SUT)を使うか、ハイゲインの専用フォノブースターを使うのが一般的。MCは情報量や微細感に優れるがノイズ対策が重要。
技術的ポイント(音質に直結する要素)
- ゲインとノイズ:必要なゲインが上がるほど回路のノイズフロアの管理が重要になる。MC向けに設計された低ノイズ入力段やSUTはS/N改善に有効。
- RIAAカーブの精度:周波数応答の偏差が少ないほど原音に忠実。ハイエンド機ではRIAA再現が±0.1 dB程度に管理されることがある。
- 入力インピーダンスと容量:MMカートリッジではケーブル容量(一般に100〜200 pFを目安)とプレーヤー側の容量が音色に影響する。MCでは適切なロード抵抗が音質に直結する。
- 位相線形性と歪み:トランス式は音の厚みや自然さに定評がある一方、周波数応答の位相特性が異なる。アクティブ回路はTHD(総高調波歪み)やクロストーク、チャンネルバランスも評価点。
フォノブースターの選び方(実践ガイド)
選択時のチェックポイント:
- カートリッジの種類(MM/MC)と出力レベルを確認する。MCならSUTを検討するかMC対応の高ゲイン機を選ぶ。
- RIAAの正確性・周波数特性・ノイズフロア(S/N)・THD値をスペックで比較する。
- 実際に聴いて判断する。音の厚さ、解像度、低域のコントロール、空間表現が機器ごとに異なる。
- 接続性(ラインアウト、ヘッドホン端子、グラウンド端子)、本体サイズ、電源方式(トランス電源や外部アダプタ)も考慮する。
- 取り回し:ターンテーブルからのケーブル長は短めにして、シールド性の良いケーブルを使うとハムやノイズが減る。
設置とセッティングの実践的アドバイス
- グラウンド(アース):多くのターンテーブルとフォノブースターにあるグラウンド端子を接続し、ハムの発生を防ぐ。接続してもハムが残る場合は接地ループの可能性を調べる。
- 入力負荷の調整:MCではメーカー推奨のロード抵抗やSUTのタップを選ぶ。MMでは47 kΩとケーブル容量の合算が重要。
- ケーブルの品質と長さ:RCAケーブルは短く、シールドが良いものを使う。フォノ線はラインケーブルよりも信号レベルが非常に低いためノイズに敏感。
- 電源ノイズ対策:電源回路がシンプルでノイズ対策がしっかりした機種を選ぶ。外部電源やトランス給電は効果的。
トラブルシューティング
- ハムが出る:ターンテーブルのグラウンドワイヤーが未接続、またはグラウンドループ。グラウンド端子を確認し、他の機材との接続順を見直す。
- 音が薄い/高域が強調される:RIAA補正が正しく働いていないか、入力がライン入力になっている可能性。正しいフォノ入力に接続しているかチェック。
- 左右バランスが悪い:カートリッジの配線、ヘッドシェルの接触不良、RCAケーブルの不良が考えられる。
- ノイズが多い(特にMC):SUTの接続や高ゲイン回路の接地、ケーブル長、周囲の電磁環境を確認。
フォノブースターで音を改善するための上級テクニック
- SUTとアクティブの併用:SUTで初段のノイズを低減し、アクティブで正確なイコライゼーションをかける組み合わせは高音質を狙える。
- カートリッジに合わせたロード最適化:特にMCではΩ単位での微調整が有効。音の輪郭、低域の締まり、倍音の出方が変わる。
- ケーブルと容量の最適化:MMではケーブル容量が高すぎると高域が落ちるため、ターンテーブルの仕様に合わせたケーブルを選ぶ。
- 部屋の音響と機器の配置:フォノブースターは微細信号を扱うため、スピーカーやアンプとの位置関係や振動対策も音に影響する。
まとめ — フォノブースターは“再生の心臓部”
フォノブースターは単なる増幅器ではなく、レコード制作時の等化を正確に補正し、カートリッジが掬い取った音の細部を正しくライン機器へ伝える重要な役割を持ちます。SUTのようなパッシブ方式から高精度なアクティブ回路まで、機種選びはターンテーブルとカートリッジの特性、設置環境、求める音質に依存します。初めて外付けフォノブースターを選ぶ場合は、カートリッジの仕様を確認し、可能なら試聴して自分のシステムとの相性を確かめることをおすすめします。
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参考文献
- Phono preamp — Wikipedia
- RIAA equalization — Wikipedia
- Recording Industry Association of America (RIAA)
- Sound On Sound — Phono amplifiers
- Ortofon — カートリッジおよびステップアップトランス 関連情報
- Audio‑Technica — カートリッジの基礎情報


