モジュラーシンセ完全ガイド:歴史・仕組み・実践テクニックとEurorack導入法
モジュラーシンセとは何か—自由度の高い音響合成のプラットフォーム
モジュラーシンセは、音源(オシレーター)・フィルター・エンベロープ・VCA(ボリューム)などを独立したモジュールとして組み合わせ、ケーブルで接続(パッチ)して音を作る合成方式です。固定構成のシンセサイザーと異なり、信号や制御電圧(CV: Control Voltage)を自在にルーティングできるため、構造そのものを作曲や即興の一部として扱えます。音響設計の自由度が高く、実験的なサウンドやライブパフォーマンスにおいて強力な表現手段になります。
歴史的背景(概観)
モジュラー方式の電子楽器は1960年代に商業化されました。ボブ・モーグ(Bob Moog)はモーグ・モジュラーを、ドン・ブクラ(Don Buchla)はブクラ・システムをそれぞれ発表し、これが同時代の電子音楽やミュージック・コンクレートの発展を支えました。1980年代以降のデジタル化で一時的に影が薄くなったものの、1990年代以降にDoepferらによる小型モジュール規格(後にEurorackとして普及)が登場すると再び隆盛を迎え、現在は多様なメーカーが独自のモジュールを提供しています。
主要モジュールと役割
基本的なモジュール群とその役割を理解することがモジュラー入門の第一歩です。
- VCO(Voltage Controlled Oscillator):波形を発生するモジュール。サイン・ノコギリ・パルスなど。ピッチはCVで制御。
- VCF(Voltage Controlled Filter):周波数成分をフィルタリング。ローパス・ハイパス・バンドパス、共振(Q)を持つものが一般的。
- VCA(Voltage Controlled Amplifier):音量をCVでコントロールする。エンベロープと組み合わせて音の立ち上がり/減衰を作る。
- EG/ADSR(Envelope Generator):時間変化する制御信号を出す。アタック・ディケイ・サステイン・リリースなど。
- LFO(Low Frequency Oscillator):周期的な低周波信号を生成し、ピッチやフィルターなどを周期的に揺らす。
- Sequencer / Clock:CVやGateを順次出力し、リズムやメロディを作る。クロック同期が重要。
- Utilities(マルチ、アッテネーター、ミキサー、オフセット、インバーター):信号の分配・調整を行う。
- 特殊モジュール:サンプル&ホールド、ロジック、リングモジュレーター、ウェーブフォルダー、サンプラー/グラニュラーなど。
CV/Gateと信号の種類
モジュラーでは「音声(オーディオ)」と「制御(CV/Gate/Trigger)」が同一ライン上で扱われます。CVは連続的な電圧でピッチやフィルターなどを制御し、Gate/Triggerはノートのオン/オフやクロック信号に使われます。代表的なピッチ規格には1V/オクターブ(Moog系やEurorackで事実上の標準)と、Buchlaで採用されたHz/Vがあります。CVは±(バイポーラ)や0〜+(ユニポーラ)などレンジが異なるため、アッテネーターやオフセットで調整するのが基本です。オーディオ帯域までCVを上げると音色変調(FM、AM、リングモジュレーションなど)が可能になります。
フォーマットと規格—Eurorackを中心に
現在もっとも普及しているのはEurorackフォーマットです。主な特徴はモジュール高さ3U(ラック高さ)で、幅はHP(Horizontal Pitch、1HP=5.08mm)で表されます。電源は通常ケース側のバスボードから供給され、±12Vの電源レール(多くのモジュールが+12V/−12Vを使用)を要求します。モジュールはリボンケーブル等で接続され、電流の消費量(mA単位)を事前に把握してケースの電源能力を合わせることが重要です。
ほかにもMoogの5Uフォーマット、Buchlaの独自規格、あるいはRackmount規格などが存在しますが、Eurorackは互換性と多様なサードパーティ製モジュールの豊富さで人気です。
パッチの基本ワークフロー
典型的な信号の流れは「VCO → VCF → VCA」で、エンベロープはVCAを制御します。まずは1V/オクターブでVCOのピッチをシーケンサーやキーボードに接続し、Gateでエンベロープをトリガー、エンベロープ出力をVCAに入れて音を形作ります。ここにフィルターを挟み、LFOでフィルターカットオフに揺らぎを与える、あるいはVCOにピッチモジュレーションを加えることで動的なサウンドになります。
上級テクニック—音響設計の深堀り
モジュラーの表現力は「信号を音域外で干渉させる(オーディオレート変調)」や「複数のCVを掛け合わせる(CVミキシング/スケーリング)」などにあります。FM(周波数変調)はVCO同士を使って複雑倍音を生成し、波形整形(ウェーブフォルディング)やリングモジュレーションでさらに硬質な音や金属的な倍音を作れます。シーケンサーとランダマイザー(Sample & Hold)を組み合わせれば確率的なメロディ生成が可能です。クロック分周・倍速やロジック演算(AND/OR/XOR)をリズムに応用すると演奏的な変化を生み出せます。
ライブと制作の実用知識
ライブではパッチの再現性が課題になります。パッチシートにケーブル位置やモジュールのつまみ位置を記録する、またはモジュラーを複数のプリセット可能なユニット(モジュール自体にメモリーを持つタイプ)と組み合わせると便利です。外部機器との連携はMIDI→CVコンバーター(MIDI-CVモジュール)やオーディオインターフェイス経由で行い、音の録音はアウトプットをラインレベルに合わせる(モジュラーは場合によって大きな振幅を出すため、レベル調整が必要)ことが重要です。
導入ガイドと初期構成の例
初めてモジュラーを始める場合、まずはケース(電源付き)と以下のような最小構成を検討してください:VCO ×1、VCF ×1、VCA ×1、Envelope ×1、LFO ×1、Mixer/Atten ×1、SequencerまたはMIDI-CV ×1。最近はMake NoiseのようなセミモジュラーやMoog Mother-32のようにパッチなしでも音が出るモジュールが入門に適しています。また、仮想モジュラー(VCV Rackなど)でパッチを試作してからハードを揃えると経済的です。ケース選びでは電源容量(mA)とHPの余裕を見越して選びましょう。
メンテナンスと安全上の注意
モジュールの差し込み向き(リボンケーブルの赤線は一般に−12V側を示す等)を守る、電源を切ってからモジュールの着脱をする、モジュールの消費電流がケースの供給限界を超えないようにする、異臭や発熱があれば直ちに電源を切るといった基本的な注意が必要です。デジタルモジュールは+5Vを要求するものもあるため、仕様をよく確認してください。
クリエイティブなパッチ例(短いガイド)
- ドローンサウンド:複数VCOを微妙にデチューン→ローパスフィルターを低く設定→長めのアタック/リリースのエンベロープでVCAを制御→ゆっくりLFOでフィルターを揺らす。
- パーカッシブシーケンス:トランシー系の短いパルスをVCOで矩形波出力→エンベロープを短くしてVCAに入力→シーケンサーのGateでリズムを駆動→VCFにエンベロープを割り当ててトーンを変化させる。
- ランダムメロディ:シーケンサーのCVをQuantizerでスケール化→Sample & Holdをクロックでトリガー→ランダムかつ調和的なパッチが得られる。
まとめ
モジュラーシンセは「何をどの順で繋ぐか」を作曲や演奏の核にできる強力なツールです。基礎的なモジュールと信号の流れを理解し、小さく始めて徐々に拡張するのが安全で効率的です。ハードウェア特有の物理的な操作感や意図しない相互作用が創造性を促すため、デジタル・ソフトウェアとは異なる魅力があります。
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参考文献
- Modular synthesizer — Wikipedia
- Moog Music(公式サイト)
- Buchla Electronic Musical Instruments(公式サイト)
- Doepfer A-100 / Eurorack information(メーカー情報)
- VCV Rack(仮想モジュラーソフトウェア)
- Sound On Sound: Modular synthesis(解説記事)
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