FabFilter Pro-MB徹底解説:マルチバンドダイナミクスの使いこなしと実践テクニック

序文:Pro-MBとは何か

FabFilter Pro-MBはオランダのプラグインメーカーFabFilterが提供するマルチバンドコンプレッサー/エクスパンダーです。ミキシングからマスタリングまで幅広い用途で使える高機能ツールとしてプロのエンジニアにも広く採用されています。本稿ではPro-MBの基本機能、内部動作の概念、具体的な使用例、他のマルチバンド系プラグインとの比較、よくある設定上の注意点までを深掘りします。

Pro-MBの「売り」となる特徴

  • ダイナミックスなバンド分割(Dynamic Split)による透明性の高い処理:Pro-MBは従来の固定クロスオーバー型マルチバンドとは異なり、プログラムに応じてバンドの動作が滑らかに行われる設計により、位相やフィルタリングによる不自然さを最小限に抑えます。

  • 柔軟なバンド数と自由な帯域設定:任意の周波数にバンドを追加・削除でき、各バンドはコンプレッサーまたはエクスパンダーとして動作させられます。

  • ミッド/サイドおよびステレオ/モノ処理:マスターやバスに対してM/S処理が可能なため、ステレオイメージを維持しながら中心と側方で別々にダイナミクス制御できます。

  • 外部サイドチェイン対応、ビジュアライゼーション機能:バンドごとのゲインリダクションメーター、スペクトラム表示、ソロ機能など視覚的に把握しやすいインターフェースが特徴です。

内部動作の理解(技術的な深掘り)

マルチバンド処理の肝はバンド分割と検出回路です。従来の方式は固定クロスオーバーフィルタで信号を分割してそれぞれ独立に圧縮を行いますが、クロスオーバー部で位相ずれや濁りが生じやすい問題がありました。Pro-MBは入力信号の周波数成分に応じてコンプレッション検出を柔軟に行うことで、クロスオーバーでの不連続を減らすアプローチを採っています。結果として、クロスオーバー周辺での音像の崩れや不自然なピークの出現が抑えられます。

また、各バンドにはしきい値(Threshold)、レシオ(Ratio)、アタック(Attack)、リリース(Release)、レンジ(Range)など一般的なパラメータが揃っており、エクスパンダー(上方向/下方向の動作)、ソロ、ミュート、ゲイン補正が個別に行えます。M/S処理では、中域(モノ成分)と側域(ステレオ成分)を別々に検出・処理できるため、ボーカルはセンターを保ちつつサイドの楽器に対して異なるコンプレッションを適用する、といった柔軟な操作が可能です。

実践的なワークフローとプリセット活用法

ここではよくある用途ごとにステップと注意点を示します。

1. マスター/ステレオバスでの使い方

  • 目的を明確に:透明なラウドネスアップ、ミックスの整列、低域の制御など目的に合わせてバンドを設定。

  • 低域(20〜150Hz):サブベースのブーミーさを抑えるためにゆっくりとしたアタックと比較的速いリリースを設定。レンジは必要最小限に。

  • ロー・ミッド(150〜800Hz):混濁を取る帯域。軽めのレシオでソフトに働かせると自然。

  • 高域(3kHz以上):明瞭さを出すための控えめなコンプレッション。過度な処理はステレオの広がりを失わせるため注意。

2. ボーカル処理

  • デエッシング代替:シビランス帯域のみを狭いバンドで検出して強めにかけ、必要に応じてソロで確認。

  • ダイナミクス整形:ボーカルのピークをコントロールしつつ、下のレンジは自然に残すためにバンドを複数に分ける。

3. ドラム/パーカッション

  • スネアのアタック強化やキックのアタック抑制など、個別トラックで用途に合わせて複数バンドを用いる。

  • 細かいトランジェント操作を行う場合は、アタックを速く、リリースを短く設定して瞬発的な抑制を行う。

効果的に使うためのテクニック

  • ソロ/バイパスを頻繁に切り替える:処理の効果を耳で確かめながら、処理前後の違いを常にチェック。

  • レンジで上限を決める:深く掛けすぎないためにRangeを狭めに設定し、過度な変化を防ぐ。

  • M/S処理で定位を整える:低域はモノにまとめ、サイドは高域で広げるなど、ステレオイメージの調整に活用。

  • 外部サイドチェインを活用:特定のトラックの情報に基づいてバンドが動くようにすることで、より音楽的な反応を得られる。

よくある応用例とクリエイティブな使い方

Pro-MBは単なる問題修正ツールに留まりません。以下のような応用も可能です。

  • マスキングの解消:複数トラックでマスクし合う帯域を狙ってコンプレッションし、各楽器の輪郭を明瞭にする。

  • ダイナミックEQ的な使い方:瞬間的に持ち上げたり下げたりすることで、固定EQよりも自然に周波数バランスを整えられる。

  • トラック毎のカラー付け:意図的に極端な設定でダイナミクスを強め、音色やグルーヴを変化させる(ただし位相や音像への影響をチェック)。

比較:他のマルチバンドツールとどう違うか

代表的なマルチバンドプラグインにはiZotope Ozoneのマルチバンドダイナミクス、WavesのC4/C6、そしてマルチバンドEQ機能を持つツール群があります。Pro-MBの強みは操作の直感性と視覚フィードバック、そして「音楽的に透明に」動くアルゴリズムです。極端に色付けしたい場合は別の色付け系プラグインを組み合わせることも有効です。

注意点と落とし穴

  • 過度な使用は音楽性を損なう:マルチバンド処理は便利ですが掛けすぎによる過度な圧縮は定位やダイナミクスを失わせます。

  • クロスオーバー設定の盲点:バンド幅や位置により思わぬ帯域が二重に処理される場合があるため、ソロやゲインリダクションを確認すること。

  • 遅延やレイテンシー:プラグインの内部処理でレイテンシーが発生する場合があるため、ライブ用途やゼロレイテンシーが必須の状況では注意。

まとめ:Pro-MBを最大限活用するために

FabFilter Pro-MBは、正しく使えばミックスとマスタリングの両方で強力な武器になります。ポイントは目的を明確にすること、視覚的フィードバックを活用して耳で確認すること、そして必要以上に深く掛けすぎないことです。M/S処理や外部サイドチェイン、柔軟なバンド設定を組み合わせれば、単一トラックからステレオマスターまで幅広い問題を自然に解決できます。

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参考文献