Newfangled Audio徹底解説:ElevateとCodecを軸にした設計思想・技術・実践ガイド
Newfangled Audioとは何か──概要と立ち位置
Newfangled Audioは、オーディオプラグインを中心に開発を行う小規模なソフトウェアメーカーで、実用性と音質にフォーカスした設計でプロ/ホームスタジオの間で評価されています。特にマスタリング用途に向けた「Elevate」と、配信/プロダクションでの劣化シミュレーションを行う「Codec」といった製品が知られています。ここでは既存製品の技術的特徴、制作ワークフローへの組み込み方、他社製品との比較、活用上の注意点まで、できる限り客観的に深掘りします。
代表製品の概要:Elevate(マスタリング向け)
Elevateはマスタリング向けのマルチバンド・マキシマイザー/リミッターで、周波数帯域ごとのダイナミクス制御と全体のラウドネス最適化を同時に行える点が特徴です。一般的なマキシマイザーと異なり、マルチバンド処理によって特定帯域の過度な持ち上げや歪みを抑えつつ、全体の音圧を上げることを目的としています。
主な機能(製品ページや配布資料から確認できる共通的な説明)としては、帯域ごとのリミッティング/ダイナミクス調整、LUFS(放送や配信におけるラウドネス指標)を意識したターゲット設定、True Peakの監視・制御、さらにはスペクトル的なバランスを整えるための補正機能などが挙げられます。これらを組み合わせることで、マスタリング作業で求められる“音圧と透明感の両立”を目指しています。
Elevateの技術的観点:仕組みを理解する
Elevateの肝は「周波数分割+個別処理+統合」のワークフローです。以下はこの方式の一般的な利点と注意点です。
- 周波数分割(マルチバンド)による局所最適化:低域の太さを保ちながら中高域をリフトして音圧を稼ぐ、といった処理が可能。単一バンドのリミッターよりも特定帯域の歪みやポンピングを抑えやすい。
- 遅延・ルックアヘッドと位相整合:バンド分割を行う際に位相ずれが起きるため、線形位相フィルタや位相補正技術を用いて時間軸の整合を保つ設計が重要。位相管理が甘いと定位や高域の違和感が出ることがある。
- ラウドネス最適化:LUFSターゲットやTrue Peak制御を備えることで、ストリーミング配信で求められる基準に合わせやすい。ただしLUFSに合わせるだけで音楽的に良くなるとは限らないため、耳での確認が不可欠。
実際のアルゴリズム(例えばどのような検出器や仲介フィルタが用いられているか)は各社のブラックボックスですが、Elevateはスペクトル的な観点とラウドネスメトリクスを同軸で扱うことで“聴感上の最適化”を目指している点が設計思想として確認できます。
代表製品の概要:Codec(配信・制作での劣化シミュレーション)
Codecは、配信で使われる実際のオーディオ圧縮(低ビットレートMP3/AAC相当や電話回線など)で発生する音質劣化やアーティファクトをリアルタイムでシミュレーションできるプラグインです。制作段階で配信環境下での最終的な音質を想定して調整を行うために使われます。
この種のツールを使う利点は、マスタリング/ミックス時に発生する“配信後の致命的な劣化”を未然に防げる点です。例えば高域のエネルギーが過剰だとエンコード時にビット不足でブリブリした歪みが生じることがありますが、事前に検出して対処できます。
Codecの技術的観点:何をシミュレートしているのか
圧縮コーデックによる音質劣化は、量子化ノイズ、窓関数によるアーティファクト、帯域制限、ビットレートに起因する時間/周波数領域の再分配など複合的です。Codecのようなシミュレータは、以下の要素を再現します。
- 帯域制限(低〜中ビットレートでの高域落ち)
- ステレオ幅や位相の影響(中低周波や高域でのステレオ成分の損失)
- 量子化や符号化による歪みや“バコバコ”としたアーティファクト
- 遅延やフレーム境界に起因する短時間の不連続性
こうした挙動を理解しながら制作することで、ミックス時にEQやステレオイメージ、リバーブの設定を配信先に最適化できます。
実践的ワークフロー:Elevateの使いどころ
Elevateをマスタリングチェーンに組み込む際の基本的な考え方と具体的手順の例を示します。
- プラグイン配置:最終段に挿すのが一般的。ただし途中での色付け(例えばサチュレーション後)を狙う場合はその前段に置くこともある。
- LUFSターゲット設定:配信先の基準(SpotifyやApple Musicなど)に合わせる。LUFSの目標値に近づけつつ、ダイナミクスやインパクトを保つことを優先する。
- バンド調整:低域は大きく圧縮しすぎない、スネアやボーカル帯域は透明感を残す、という方針で各バンドのしきい値/比率を設定する。必要ならバンドに対して軽度のEQで補正。
- True Peak抑制:ストリーミングや放送でのクリッピングを避けるため、-1dBTP(True Peak)前後を目安に設定することが多い。
- 最終チェック:メーターだけでなく必ずモノラルチェック、様々な再生環境(ヘッドフォン、スマホスピーカー、車載など)で試聴する。
実践的ワークフロー:Codecを使ったチェック手順
Codecはミックスやマスタリングの途中で挿入して、配信圧縮後の聴感を確認するために使います。典型的な使い方:
- 主要な配信フォーマットや低ビットレートを選び、エンコード後の音をシミュレート。
- 問題のあるトラック(高域成分の強いシンセや過度なリバーブをかけたバッキング)を検出し、EQやサイドチェイン、ステレオ幅の調整で対処。
- 最終マスターをシミュレーションして、配信時に顕在化するノイズや音場の崩れを修正する。例えばリバーブのプリディレイやダンピングを見直す、あるいは高域のピークをソフトに抑えるなど。
Elevate/Codecの実務上の利点と限界
利点:
- 配信環境や最終再生環境を想定した調整ができるため、公開後の「思ったより音が潰れた」問題を未然に防げる。
- マルチバンド処理によって、従来の単一バンド・リミッターでは困難だった局所的な制御が可能。
- ラウドネスメトリクス対応により、配信規格への準拠が容易になる。
限界・注意点:
- 過度にメーターへ依存すると音楽的判断を誤ることがある。最終判断は必ず耳で行う。
- マルチバンド処理や位相補正は万能ではなく、極端な設定は定位の崩れや不自然な音色変化を招く。
- Codecのシミュレーションは実エンコード環境に近くなるよう設計されているが、実際の配信プラットフォームのエンコード設定やその後の処理(プラットフォーム固有のノーマライズや再エンコード)と完全一致するわけではない。あくまで“近似”として利用する。
他社製品との比較(実務的観点)
Elevateは「マルチバンドでのマキシマイズ」を重視する設計です。対して、FabFilter Pro-Lシリーズは透明性やアルゴリズムの切替(モード)による音色制御の自由度が高く、iZotope Ozoneは総合的なマスタリングスイート(EQ、ダイナミクス、ステレオイメージャー等との連携)として強力です。どれが良いかは用途によりますが:
- 透明性と単体のリミッター性能重視ならFabFilter Pro-L
- マスタリング全体をワンストップで行いたいならiZotope Ozone
- 周波数ごとの“聴感上の最適化”を手早く行いたいならElevateが有利なケースがある
重要なのはツール選択ではなく“目的に対する最適な使い方”です。複数ツールを比較して自分の音楽ジャンルや制作手法に合うものを選びましょう。
クリエイティブな応用例とTips
- トラックの仕上げ前にCodecで低ビット圧縮をチェックし、意図的なLo-fiサウンドの方向性を確かめる。
- Elevateを使ってスニペット単位(ボーカルサビのみ等)で最適化を行い、アルバム全体の音圧感を均一化する。
- マスタリングの最後に軽くCodecを通してみることで、配信後の音を想定した最終の微調整ができる。
批評的視点:どんなときに注意が必要か
いくつかの批判的観点として、マルチバンド処理は適切に設計されていないと音像の不自然さや位相問題を招く可能性があります。また、ラウドネス至上主義に陥るとダイナミズムを犠牲にしてしまい、長期的に聴き疲れする音になりかねません。ツールは“手段”であり、最終的な音楽表現を損なわないように使うことが重要です。
今後の展望とまとめ
Newfangled Audioのようなニッチなプラグイン開発者は、特定の問題(ラウドネス管理、配信圧縮の可視化など)に焦点を当てたツールを提供することで、制作現場に即したソリューションを提供しています。ElevateやCodecは、その設計思想が実務上のニーズに直結している典型例です。正しく使えば時間の節約と仕上がりの向上に寄与しますが、メーターに頼りすぎず“耳”を最終判断にすることを忘れないでください。
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参考文献
Elevate 製品ページ(Newfangled Audio)


