音楽制作で差がつく「ベロシティ」徹底解説:MIDI・ピアノ・表現技法と実践テクニック

ベロシティとは何か — 基本定義と誤解しやすい点

音楽における「ベロシティ(velocity)」は、文脈によって意味が少しずつ異なります。電子音楽/MIDIの世界では、ノートオン時に送られる数値(通常は7ビット=0〜127)で、打鍵や発音の強さ・速度を表すパラメータです。一方、アコースティック楽器や演奏技術の文脈では「打鍵や弓の速度」「タッチの強弱」を指し、音色やアタック、残響感に影響します。

重要な点として、MIDIのベロシティは“絶対的な音量”を直接示すものではなく、機器や音源がその値をどのように解釈するかによって出力が変わります。つまり、同じベロシティ値でも音源や設定によって違う音量・音色になるため、制作側での調整が不可欠です。

MIDIベロシティの技術的背景

MIDI 1.0の仕様では、ベロシティは0〜127の7ビット値で表現されます(注:ノートオン・メッセージにおけるベロシティが0のとき、多くの機器はそれをノートオフ相当と扱います)。MIDI自体は1980年代に定義されたプロトコルで、ベロシティの解釈(音量・フィルターの開度・サンプルの選択など)は各音源に委ねられています。

近年ではMPE(MIDI Polyphonic Expression)やMIDI 2.0といった規格拡張により、より細かい表現やノート単位のコントロールが可能になってきています。MPEは複数チャンネルを使って各音符に独立した表現を与え、MIDI 2.0は表現の解像度やプロパティのやり取りを拡張することでベロシティやその他表現を高精度に扱えるように設計されています。ただし、実際の運用では機材・音源の対応状況に左右されます。

ピアノや生楽器におけるベロシティの物理的意味

アコースティックピアノでは、打鍵の速度はハンマーの速度と力に直結し、ハンマーが弦に与えるエネルギーが音の大きさと倍音構成を決めます。速い打鍵は強いアタックと豊かな倍音を生み、遅い打鍵はソフトな音色になります。また、弦楽器や打楽器でも弓の速度やスティックの強さが音の立ち上がりやサスティン、倍音分布に影響します。したがって「速さ=ベロシティ」は音色的な変化をもたらす要素です。

聴覚とベロシティ — 音量感の非線形性

人間の聴覚はデシベル(dB)で表される物理的音圧と一致しません。ラウドネスの知覚は周波数や音色の影響を受け、同じ物理量の変化でも感じ方は非線形です。MIDIベロシティを音量に単純に線形マッピングすると、表現が不自然になることがあるため、実際の音作りでは対数的/指数的なスケーリングやカーブの適用が多用されます。

音源・シンセにおけるベロシティのマッピング

音源はベロシティをさまざまに解釈できます。代表的なマッピング先は次のとおりです。

  • 音量(アンプのゲイン)
  • フィルターのカットオフ(明るさの変化)
  • サンプルのレイヤー切替(ソフト/ハードのサンプル)
  • エンベロープのアタックやリリースの変化
  • ディレイやリバーブのドライ/ウェット混合比

良い音源やサンプラーは、複数のパラメータを同時に連動させることで自然なダイナミクスを再現します(例:ベロシティが上がると音量と倍音が増え、アタックが鋭くなる)。音源側で用意された“ベロシティカーブ”や感度(sensitivity)を調整することが、自然な演奏感を得る鍵です。

制作現場での実践テクニック

以下はDAWやサンプラーで直ちに使える実践的なテクニックです。

  • ベロシティレンジを意識する:全鍵で1〜127を使うのではなく、パートごとに実用的なレンジ(例:30〜90)に収めるとコントロールしやすい。
  • レイヤードサンプリング:同一音色でベロシティに応じて別サンプルを切り替える(通常は3〜6レイヤー)。
  • カーブ調整:線形のままでは不自然な場合、対数やS字カーブを使用して感覚に合わせる。
  • ベロシティをCCやフィルターにルーティング:ベロシティを音量以外に割り当てると表情が豊かになる(例:高いベロシティでLPFの開度を増やす)。
  • ヒューマナイズ:完全な機械的反復を避けるために、ベロシティに微小なランダム変動を加える。ただし過剰は注意。
  • サイドチェインやグルーヴ感のための強弱設計:ベースやキックなどは特定の拍でベロシティを強めにしてビートを際立たせる。

演奏表現と解釈上の注意

演奏家視点では、ベロシティは単なる“強弱”以上の意味を持ちます。アクセント、フレージング、テンポ感のコントロールに関与し、同じ強さでもどの時点で力を入れるか(アタックの位置)で音楽の意図が変わります。DAWでプログラムする場合も、メカニズムを理解した上で“人間の意図”を模倣することが重要です。

測定・解析とツール

ベロシティ自体はMIDIの数値なので簡単に可視化できます。DAWのMIDIエディタでヒストグラムを見たり、MIDIモニタでリアルタイムに値を確認したりするのが基本です。音量の物理的測定を行う場合はLUFSやdBFSメーターを用いて、ベロシティ値とラウドネスの相関を確認すると調整がしやすくなります。

よくある誤りとその回避策

  • 全てをベロシティで解決しようとする:音量以外の表現(フィルターやエンベロープ)も活用する。
  • 最大値に頼る:常に127を使うとダイナミクスが失われる。レンジ設計が重要。
  • 音源のデフォルトカーブだけに頼る:曲や楽器ごとにカーブを調整する。

応用例:ジャンル別の運用アイデア

ポップ/ロック:スナップ感を出すためにスネアやキックのアタックを強める。ベロシティはグルーヴの強調に使う。

クラシック/ピアノ:細かなニュアンスを重視し、広いベロシティレンジとレイヤーの多いサンプルを利用すると自然な表現が得られる。

エレクトロニカ:ベロシティをフィルターやディストーションの量に割り当てて音色の変化を作るとダイナミックな展開が生まれる。

将来展望 — MPE・MIDI 2.0 と表現の拡張

MPEやMIDI 2.0の普及はベロシティ表現をさらに豊かにします。ノート単位のコントローラや高解像度の値によって、従来の7ビットベロシティでは難しかった微細な強弱表現や音色変化が可能になります。ただし、制作ワークフローやコラボ相手が新仕様に対応しているかの確認が必要です。

まとめ — ベロシティは道具であり表現の鍵

ベロシティは単なる数値ではなく、音色・強弱・演奏感を決める重要なパラメータです。正しく理解し、音源や楽器の特性に合わせてレンジやマッピングを設計すれば、表現の幅は格段に広がります。まずはMIDIの値を可視化してみて、音源のカーブやレイヤー構成を試行錯誤することをおすすめします。

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参考文献