モーダルインターチェンジ徹底解説:理論・コード例・作曲での活用法
モーダルインターチェンジとは何か
モーダルインターチェンジ(modal interchange、別名:borrowed chords/modal mixture)は、ある主音(トニック)を共有する複数のモード(特に長調と短調)の和音を相互に借用して用いる和声技法です。最も基本的には、メジャーキー(長調)においてその平行短調(パラレル・マイナー)から和音を借りることを指します。借用される和音は、曲の色彩や感情を大きく変化させるため、ポップス、ロック、ジャズ、映画音楽など幅広いジャンルで多用されます。
理論的な背景:音階と和音の関係
長調と短調は同じトニックを持ちながら構成音が異なります。例えばCメジャー(C D E F G A B)の平行短調はCマイナー(C D Eb F G Ab Bb)で、E→Eb、A→Ab、B→Bbといった変化が生じます。結果として、平行短調には長調に存在しない和音(例:bIII=Eb、iv=Fm、bVI=Ab、bVII=Bbなど)が現れ、これらを長調に取り込むのがモーダルインターチェンジです。
主要な借用和音とその機能(キー:Cメジャーを例に)
- iv(Fm):長調のIV(F)を短三度化したもの。儚さや哀愁を与える。メロディの3度を半音下げるイメージ。
- bIII(Eb):サブドミナント系の色を持ち、豊かな響き。IV→bIIIの動きはしばしば大きな色彩変化を示す。
- bVI(Ab):強い感情的な重みを持つ和音で、バラードや劇的な箇所で使われることが多い。
- bVII(Bb):ロック/ポップで頻出。ドミナント的なテンションを強調せずにルート進行を推進する。
- i(Cm)の利用:メジャー曲の一時的な短音化(暗転)を演出するために、完全に平行短調のトニックを挿入する場合もある。
モード間の借用:短調から長調への一方向だけではない
モーダルインターチェンジは必ずしも長→短の借用だけに限定されません。平行モード同士(例:リディアン、ドリアン、ミクソリディアンなど)からの借用も可能です。具体例:
- Lydian(リディアン):#4 を含むため、IVが#IV(例:CならF#音の含意)に由来する和音を用いることで明るさや浮遊感を得られます。
- Dorian(ドリアン):短調系だが6度が長6度(例:DドリアンのBはナチュラル)で、短調の暗さに若干の明るさを加える用途に向きます。
- Mixolydian(ミクソリディアン):短7度を持つため、Vの変形やb7を活かしたドミナントの替わりに使えます。
表記と分析(ローマ数字、コード記号)
モーダルインターチェンジを明示する際は、ローマ数字表記が便利です。CメジャーでFマイナーを借用する場合は"iv"、Ebメジャーは"bIII"、Abメジャーは"bVI"、Bbメジャーは"bVII"と表記します。コードシンボルではそれぞれFm、Eb、Ab、Bbとなります。楽譜やリードシートでは、借用の起点(例:"from C minor")を注記することもあります。
典型的な進行例と解説(キー:Cメジャー)
C → bVII → bVI → C(C - Bb - Ab - C)
ロックやポップで典型的。トライアドの並びが順次下行し、強いセンチメンタルさを作る。Bb(bVII)がプラトニックな前進感を作り、Ab(bVI)が厚みを与える。C → iv → I(C - Fm - C)
短三度のivを挟むことで一時的な転調感や感情の深まりを演出。Fmの中にあるAbが曲に“暗さ”を加える。C → bIII → bVII → IV(C - Eb - Bb - F)
bIIIが非定型の和音色を与え、それがbVIIへ落ち着く。最後にIVで戻すことで”外来の色”をうまく制御する。
ジャズにおける応用:テンションとコード・スケールの関係
ジャズではモーダルインターチェンジを利用して、より豊かなテンションや代替和音を導入します。例えばCメジャーに対してAbmaj7(bVImaj7)を用いるとき、ソロはAbメジャースケールやCナチュラルマイナースケールの要素(特にb6, b3など)を含めると響きが自然になります。また、bIIImaj7(Ebmaj7)はLydian的な扱いで#11や9などを調整すると効果的です。Mark Levine等のジャズ理論書では、借用和音を用いたコンピングやソロのサンプルが多数紹介されています。
ボイスリーディングとアレンジの実践的コツ
- 共通音を保つ:借用和音と元の和音に共通する音を維持すると自然な流れになる(例:C→FmではC音を保持しない場合が多いが、和声的にはGやCの保持が有効な場面あり)。
- 半音移動を活用する:メロディや内声を半音で動かすとスムーズな色彩変化が得られる(例:E→Ebの半音下行)。
- ベースラインで借用を示す:低音で平行短調の根音を打つと聴感上のモード変化が明確になる。
- テンションの扱い:ジャズやコンテンポラリーではborrowed chordに対してその和音のテンションを積極的に用いる(例:bVImaj9など)。
ジャンル別の使用例と効果
- ポップ/ロック:bVIIやbVIの使用でアンセミックな大らかさ・ドラマ性を演出。ギターのパワーコード進行でも効果的。
- ジャズ:色彩豊かな代替和音、テンション導入、モーダルセクションへの移行で即興の幅を広げる。
- 映画音楽/ゲーム音楽:短調的な借用で瞬間的な不安や郷愁を表現することが多い。
作曲ワークショップ:実践練習メニュー
- まずはCメジャーで基本進行(I - V - vi - IV)を作る。
- 各コードに対して平行短調からの候補(bIII, iv, bVI, bVII)を一つずつ置き換えてサウンドを比較する。
- 異なるモード(ドリアン、リディアンなど)からも1つずつ和音を借用して、どの色味が楽曲に合うか試す。
- ボイスリーディングを工夫して、指向性のあるベースラインや内声の動きを作る。
注意点と落とし穴
モーダルインターチェンジは強力ですが、乱用すると楽曲の調性感(トナリティ)が失われることがあります。特に頻繁にコロコレート(和音置換)を行うと、聞き手が調を把握しにくくなるため、必要な場面でのアクセント的使用が有効です。また、編曲上の音域や音色(弦楽のオクターブ、ブラスの響きなど)を考慮し、借用和音の3度や5度が別の楽器とぶつからないようにしましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q:モーダルインターチェンジは転調と何が違う?
A:転調は長期間にわたって別の調に移るのに対し、モーダルインターチェンジは一時的な和音の借用であり、中心のトニックを保ったまま色彩を変える技法です。 - Q:借用は必ず平行短調から行うべき?
A:平行短調が最も一般的ですが、他のモードから借用することも有効です。目的に応じて選んでください。
まとめ
モーダルインターチェンジは、楽曲に一瞬の色彩変化や感情の起伏を与える非常に実用的で表現力の高い手法です。基礎としては平行短調からの和音借用が基本ですが、他のモードを活用することでさらに独自性のあるハーモニーが作れます。実作業ではボイスリーディングやベースラインの管理、テンションの選定が重要です。まずはシンプルな進行で置き換え実験を重ね、耳で違いを確認しながら自分の語彙を増やしていくことをおすすめします。
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参考文献
- Modal interchange — Wikipedia (英語)
- MusicTheory.net — 基礎理論(各種レッスン)
- Mark Levine, The Jazz Theory Book — ジャズ理論における借用和音の応用
- Kostka & Payne, Tonal Harmony — 調性と和声の基礎
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