音楽で使うデシベル完全ガイド:聴感・測定・デジタル音量の基礎と実践

デシベル(dB)とは何か — 音楽で最も使われる単位の本質

デシベル(dB)は音の大きさを表す対数目盛の単位で、物理量の比率を扱うために使われます。音の世界では主に音圧(Pa)や音響パワーを基準にして表現され、音圧レベル(SPL: Sound Pressure Level)は次の式で定義されます。

音圧レベル(dB SPL) = 20 × log10(p / p0)、ここで p は測定音圧、p0 = 20 μPa(人間の可聴域での基準音圧)です。音のエネルギー(パワー)で表す場合は 10 × log10(I / I0) を用います。対数スケールのため、比率を直感的に扱いやすく、非常に大きなレンジの音圧を表現できます。

対数スケールの実務的な意味と簡単な換算

デシベルは比率の対数であるため、以下のような便利な近似が成り立ちます(厳密値も併記します)。

  • 圧力が2倍になると約 +6.02 dB(20×log10(2) ≒ 6.02)。
  • 音響パワー(あるいは電力)が2倍になると +3.01 dB(10×log10(2) ≒ 3.01)。
  • 10倍は圧力で +20 dB、パワーで +10 dB。

人間の主観的な「聴感上の大きさ」は物理レベルとは異なり、一般に約 +10 dB の増加が「ほぼ2倍の大きさに聞こえる」目安とされています(ラウドネス理論、sone/phon尺度)。つまり、物理的に +6 dB(圧力2倍)でも必ずしも“倍に聞こえる”とは限りません。

よく使われるデシベル表現(dB SPL、dBFS、dBu/dBV)

音楽制作やPA、録音では用途に応じて複数のdB表記が混在します。主な種類と意味は次の通りです。

  • dB SPL(Sound Pressure Level): 空気中の音圧を表す物理単位。0 dB SPL は 20 μPa(可聴閾近傍)。日常音(会話60 dB、静かな図書館30 dB、騒音で85 dB以上は聴力障害リスクが高い)を示します。
  • dBFS(decibels relative to Full Scale): デジタル音声で使う基準。0 dBFS がデジタルの最大レベル(クリッピングの境界)で、それより上は表現できません。多くのDAWやプラグインで使用。
  • dBu / dBV: 電気信号(ラインレベル、機器間の基準)で使われます。dBu は 0.775 Vrms を基準(伝統的な基準)、dBV は 1 V を基準。

音の合成とレベルの足し算 — 合算の正しい方法

複数音源の音圧レベルを合成する際、人は単に数値を足せないことに注意が必要です。2つの同一音源が完全に相関(位相揃い)している場合は圧力が単純に足され、最大で +6 dB 程度の増加が起こり得ます。一方、位相や波形が無相関(普通の独立した音源)ならば、エネルギー合成で +3 dB(2 倍のパワー)になります。

一般的に複数レベルの合成は次の式で行います(パワーレベルで扱う):L_total = 10 × log10(10^{L1/10} + 10^{L2/10} + ...)。これにより、異なる音源の正確な合算が可能です。

距離による音圧の変化 — 逆二乗則

点音源から自由空間に放射される音は、距離が2倍になるごとに音圧は約 -6 dB(音圧レベルで)下がります(厳密には放射条件や反射に依存)。ステージやPAの実務では反射や拡散、指向性でこの単純な法則から外れるため、現場では測定と調整が必要です。

測定器と重み付け(A特性・C特性)

SPL計には周波数重み付け(A、Cなど)があります。A特性(dBA)は人間の聴感に近い感度を模し、環境騒音や労働安全基準で多用されます。C特性(dBC)は低周波にも寛容で、ピークや衝撃音の評価で使われます。計測精度にはクラス1/クラス2 などの規格があり、音楽用途や法的用途で適切な計器を選ぶことが重要です。

聴覚保護と法的基準

長時間の大音量曝露は聴力損失の原因になります。代表的な基準は次のとおりです。

  • NIOSH(米国国立労働安全衛生研究所): 推奨曝露限度は 85 dBA を基準に、3 dB エクスチェンジレート(許容時間はレベルが3 dB上がるごとに半分)。
  • OSHA(米国労働安全局): PEL(許容曝露限度)90 dBA、5 dB エクスチェンジレートを採用することが多い。

音楽やライブ現場では 85 dBA を目安に個人保護(耳栓、インイヤーモニター、休憩)を導入するのが現実的です。短時間のピークが高くても平均(RMS/A加重)での管理が重要です。

デジタル音楽制作でのdB扱い — ピーク、RMS、LUFS

DAWで扱うレベルはピーク(瞬間値)とRMS(平均的なパワー感)やラウドネス(LUFS, LKFS)で評価されます。デジタルの天井は 0 dBFS で、これを超えるとクリッピングします。マスタリング時の実務上の目安は「真のピーク(True Peak)を 0 dBTP 以下(多くは -1 dBTP 余裕を持つ)」にし、ストリーミング配信向けにはプラットフォームの正規化基準に合わせて統合ラウドネス(Integrated LUFS)を調整します。

主要な標準・勧告:

  • ITU-R BS.1770 および EBU R128: 音声ラウドネスの測定と正規化の国際基準。多くの放送局やストリーミングがこの規格で正規化を行う。
  • ストリーミングプラットフォーム: Spotify はおよそ -14 LUFS を目安に正規化(プラットフォームや設定で変動)。YouTube も同等レンジ、Apple Music などはプラットフォームによって異なる。プラットフォームごとの目標に合わせることで不必要なラウドネス競争を避け、音質を保てます。

ミキシングとマスタリングでの実務的なルール

ミックス時はヘッドルームを残して作業するのが鉄則です。一般的なワークフローの例:

  • トラック録音・編集: クリップを避け、ピークに余裕を持たせる(例えば -12 ~ -6 dBFS の間で平均稼働)。
  • ミックス: バスやマスターでのピークを避けつつ、RMS と瞬間ピークのバランスを確認。必要ならリミッターやトランジェント処理で整える。
  • マスター: 配信先の LUFS 目標に合わせ、真のピーク(True Peak)を超えないようにする(例: -1 dBTP)。また過度なリミッティングはダイナミクスを失うため注意。

実例で見るdBの感覚(身近な比較)

  • 0 dB SPL: 聴覚閾に近い。20 μPa を基準。
  • 30 dB SPL: 静かな図書館レベル。
  • 60 dB SPL: 日常会話。
  • 85 dB SPL: 長時間曝露で聴力リスクが生じ始める目安(職場規制での基準に相当)。
  • 100–110 dB SPL: ライブコンサート、近距離のPAスピーカー。短時間でも耳の保護が必要。
  • 120–130 dB SPL: 痛みの閾(threshold of pain)に近く、即時の聴力損傷リスクあり。

測定・現場でのチェックリスト(ミュージシャン / エンジニア向け)

  • 公正なSPL計(A特性)で観客位置とステージ上をチェックする。
  • インイヤーモニターや耳栓を用意し、85 dBA を超えないように平均レベルを管理する。
  • 録音時は 0 dBFS を絶対限界とし、ピークに対して十分なヘッドルーム(-6 dBFS 前後)を取る。
  • マスター時は LUFS と True Peak を確認し、配信プラットフォームに応じた目標に合わせる。

まとめ — デシベルを味方にするために

デシベルは音楽制作・ライブ運営において不可欠なツールです。対数的な性質を理解すれば、音の合成、距離減衰、測定、さらには聴覚保護やデジタル処理の最適化まで、理論と実務を結びつけて扱えます。単純な数値の増減だけで判断せず、ピーク/RMS/ラウドネスの各指標を見比べ、聴感と物理値の関係を意識することが良い音作りにつながります。

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参考文献