MIDIデータ徹底解説:仕組み・規格・制作ワークフローと最新動向
はじめに:MIDIとは何か
MIDIはMusical Instrument Digital Interfaceの略で、楽器や音源、コンピュータ間で音楽演奏情報をやり取りするための規格です。MIDI自体は音声データではなく、音の高さ(ノート)、開始・終了のタイミング、ベロシティ(強さ)、コントローラ操作、プログラムチェンジ(音色選択)などの演奏情報をデジタル化した命令列を扱います。そのためデータ容量が小さく、編集や自動処理が容易である点が最大の強みです。
MIDIの歴史と標準化
MIDIは1980年代初頭に複数の電子楽器メーカーの協力で開発され、1983年に事実上の標準として広まりました。代表的な提唱者にDave SmithやIkutaro Kakehashiがいます。以降、MIDI規格はMIDI Manufacturers Association(MMA)やThe MIDI Associationなどの団体により管理・拡張されてきました。重要な拡張としてGeneral MIDI(GM、1991年頃)やMPE(MIDI Polyphonic Expression、2010年代に仕様化)、そして近年のMIDI 2.0(2020年以降に仕様公開)などがあります。
基礎技術:MIDIプロトコルの構造
古典的なMIDI信号はシリアル通信で送られ、DIN 5ピンコネクタを介した31.25 kbpsの仕様が基本でした。USB-MIDIやBluetooth Low Energy MIDIなどが登場し、より高速で扱いやすい接続方式が普及しています。
MIDIメッセージは大きく分けてチャンネルメッセージ、システムメッセージ(システム・コモン、システム・リアルタイム)、およびSysEx(機器固有データ)に分類されます。チャンネルメッセージは16チャネル(番号としては0-15、ユーザー向け表記では1-16)を持ち、各チャネルごとに独立した演奏情報を送れます。
メッセージはバイト列で表現され、最上位ビット(MSB)が1のバイトがステータスバイト、MSBが0のバイトがデータバイトです。代表的なステータス例:0x8n Note Off、0x9n Note On、0xAn Polyphonic Key Pressure、0xBn Control Change、0xCn Program Change(1データバイト)、0xDn Channel Pressure、0xEn Pitch Bend(2データバイト)。Pitch Bendは14ビット値で中心が8192(0x2000)です。Note Onでベロシティが0の場合はNote Off扱いにする実装が一般的です。
Standard MIDI File(SMF)の仕組み
MIDIデータをファイルで保存・共有するためのフォーマットがStandard MIDI File(SMF)です。SMFは複数のトラックを持つヘッダチャンクとトラックチャンクで構成されます。ヘッダチャンクは識別子MThd、長さ6、フォーマットタイプ(0/1/2)、トラック数、そしてタイムディビジョン(分解能)を含みます。タイムディビジョンはPPQN(Pulses Per Quarter Note)で表現されるのが一般的で、96, 120, 240, 480, 960などが使われます。代わりにSMPTEベースのフレーム/サブフレーム方式もあります。
各トラックはMTrkに続く長さとトラックデータ本体を持ち、トラック内の各メッセージはデルタタイム(前イベントからの差分時間)を可変長数値(Variable Length Quantity)で表現します。メタイベント(SMF固有)はステータスFFで始まり、タイプと長さ、データが続きます。代表的なメタイベントにテンポ変更(タイプ51、3バイトでマイクロ秒/四分音符)、トラック名(タイプ03)、エンド・オブ・トラック(タイプ2F)などがあります。
タイミングと同期:クロック、テンポ、MTC
MIDIの演奏タイミングはPPQNとテンポ(microseconds per quarter note)で決まります。SMF内のメタイベントでテンポを指定し、これに基づいてデルタタイムが実時間に変換されます。リアルタイム同期にはMIDIタイミングクロック(0xF8、24パルス/四分音符)やStart/Stop/Continue(0xFA/0xFC/0xFB)が用いられ、外部機器同士の同期で広く使われます。
MIDI Time Code(MTC)はSMPTEベースのタイムコードをMIDIメッセージで伝送する方式で、映画・映像との同期に使われます。
システムエクスクルーシブ(SysEx)と拡張機能
SysExは0xF0で開始し、0xF7で終端されることが多い、メーカー固有のメッセージを運べる領域です。パッチのバルクダンプやファームウェア、細かなパラメータ送受信に利用されます。機器によって互換性が無いことから、SysExは注意して扱う必要があります。
コントロールチェンジ(Control Change)は0-127のコントローラ番号と0-127の値で、モジュレーション(CC1)、モジュレーションホイール、ダイナミクス、エクスプレッション(CC11)などを操ります。RPN(Registered Parameter Number)/NRPN(Non-Registered)を通してより高解像度のパラメータも扱えます。
ファイル形式のバリエーション:Format 0/1/2 と互換性
SMFフォーマットタイプ0は全データを単一トラックにまとめます。タイプ1は複数トラックをタイム同期して扱う方式でDAWやスコアアプリで一般的です。タイプ2は独立したシーケンスを複数格納する珍しい形式です。多くのソフトはタイプ0/1をサポートしますが、タイプ2は対応が限られます。
MIDIデータの編集・制作ワークフロー
MIDIは、DAWやシーケンサーでのノート編集、ピアノロールやスコア編集、ベロシティ分散やモジュレーションの自動化に優れます。MIDI情報を便利に使うコツ:
- 演奏のニュアンスはベロシティとタイミングの微小な揺らぎで表現する。
- Humanize機能は乱雑になり過ぎない範囲で使用する。
- Quantizeは音楽的グルーブを損なわない最少分解能にする。異なるトラックで異なる量子化を設定すると自然なアンサンブル感が出る。
- コントローラデータ(CC)でフィルタ、リリース、エクスプレッションを動かして演奏の表情を作る。
MIDIからオーディオへ:レンダリングと音源
MIDIは音色情報を持たないため、最終的な音は音源(ハードウェアシンセ、ソフトシンセ、サンプラー)によって決まります。PC上ではSoundFont(SF2)、KontaktやVSTインストゥルメント、DAW内蔵音源などでMIDIを再生してオーディオにバウンスします。良いサウンドライブラリやアンビエンス処理(リバーブ、コンプ、EQ)で同じMIDIでも大きく印象が変わります。
最新技術:MPEとMIDI 2.0
MPE(MIDI Polyphonic Expression)は各ノートに対して独立したコントロールを割り当てる手法で、タッチベースのコントローラ(例:Seaboard、Roli)や高度なパフォーマンス表現に使われます。ピッチ、スライド、圧力などを各ノート単位で制御できるため、より有機的な演奏表現が可能になります。
MIDI 2.0は従来仕様との下位互換性を保ちつつ、解像度の向上、双方向通信、プロファイルとプロパティ交換(MIDI-CI)、および新しいパケット形式(UMP:Universal MIDI Packet)を導入しました。高解像度のコントロールやタイムスタンプを持ち、モダンなネットワークやUSBベースの伝送に適合します。MIDI 2.0対応機器やソフトは増えつつありますが、完全普及には時間がかかる見込みです。
伝送手段:物理層とネットワーク
主な伝送手段は以下の通りです。
- DIN 5ピン(古典的なMIDIケーブル、31.25 kbps)
- USB-MIDI(USBクラス・デバイスとして実装、プラグ&プレイ)
- Bluetooth Low Energy MIDI(ワイヤレスでのMIDI伝送)
- RTP-MIDI(ネットワーク経由、低遅延でのスタジオ用途)
各方式で遅延やジッタの特性が異なるため、ライブ用途では遅延の少ない接続が求められます。USB-MIDIは普及率が高く、スマートフォンやタブレットでも使いやすい選択肢です。
互換性・注意点・トラブルシューティング
機器間の互換性で注意すべき点:
- プログラムチェンジ番号やGMパッチマップは機器によってオフセットがある(UIでは1-128表記だが内部は0-127)ので音色がズレることがある。
- SysExはメーカー固有で扱いに注意。誤ったSysEx送信は機器の設定を壊す可能性がある。
- ランニングステータスは古典的な最適化機構で、ステータスバイトを省略して帯域を節約する機能。シンプルなデバイスで不具合を起こすことがあるため、デバッグ時に意識する。
デバッグ方法としては、MIDIモニタ(ソフト/ハード)で実際のバイト列を確認する、ルーティングを1対1にして問題切り分けを行う、テンポやクロックの送受信設定を見直す、などが有効です。
著作権と配布に関するポイント
MIDIデータは演奏情報の記述であり、音声ファイルとは異なりますが、曲そのもの(メロディ、アレンジ)が著作権で保護されている場合、MIDIファイルの配布や公開は著作権法上の扱いを受けます。商用配布や第三者の楽曲のMIDI化・公開を行う場合は適切な許諾が必要です。
実務的なベストプラクティス
- プロジェクトはSMFやDAWセッションでバックアップを取り、メタデータ(テンポトラック、トラック名)を丁寧に付ける。
- 外部音源を使う場合はパッチの再現性を考え、SysExでパッチバンクを保存するか、代替音源のプリセットを用意する。
- MPE/MIDI 2.0のような新機能を導入する際は、下位互換のために通常のMIDIチャンネル出力も用意する。
- ライブ用には単純化されたMIDIルーティング、明確なクロックの供給元を確保する。
まとめ
MIDIは40年以上にわたり進化を続け、作曲、演奏、制作、ライブパフォーマンスにおける不可欠な基盤技術となっています。音そのものを記録するのではなく演奏情報として扱う特性が、柔軟な編集性と軽量さを実現します。SysExやコントロールチェンジ、SMFの取り扱いに習熟すれば、表現の幅は格段に広がります。近年のMPEやMIDI 2.0の登場で、さらに高解像度で豊かな表現が可能になりつつあります。今後も新技術への対応と既存規格の理解が重要です。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- MIDI Association / midi.org(公式サイト、仕様書やニュース)
- MIDI Specifications(Standard MIDI Files、MIDI 1.0 Detailed Specificationなど)
- Wikipedia: MIDI(日本語版)
- Wikipedia: Standard MIDI File(SMF)
- MIDI 2.0(MIDI Association解説ページ)
- MIDI Polyphonic Expression(MPE)解説(MIDI Association)


