プラルトリラーとは何か:歴史・表記・演奏法を徹底解説

プラルトリラーとは:定義と基本的な性質

プラルトリラー(ドイツ語: Pralltriller)は、西洋音楽の装飾音(オーナメント)の一種で、主音(長い音価の音)とその上方補助音(上隣接音)を素早く交互に演奏する短い反復的な動きとして理解されます。一般には「上方モルデント(上モルデント)」「上向きの短いトリル」に相当する演奏効果を指し、時代や楽器、地域によって用語や解釈がやや異なります。

重要なのは「プラルトリラーは単なる技術的な飾りではなく、楽曲の表情やフレーズの語りを補強するための音楽的手段である」という点です。テンポや拍節、和声の進行、演奏される楽器の特性によって、長さや開始位置(主音から行うか、補助音から行うか)、反復回数が変化します。

記譜と呼称の違い

プラルトリラーは楽譜上でさまざまな記号で表されます。一般的なトリル記号(tr)に小さな線やフレームが付される場合や、独自の符号(短い波線や逆向きの符牒)で示されることがあります。バロック期の写本や版では、作曲家や写譜者によって記号が統一されていないため、同じ記号が異なる演奏解釈を要求することもあります。

また、用語面でも国や時代で差があり、ドイツ語圏では「Pralltriller」、英語資料では「upper mordent」や「short trill/start with upper auxiliary」と説明されることがあります。一方で「mordent(モルデント)」は地域や時代によって上隣接音を用いる場合(inverted mordent)と下隣接音を用いる場合(ordinary mordent)に分かれるため、注意が必要です。

歴史的背景:バロックから古典派までの用法

バロック期(17–18世紀)は装飾音が作曲と演奏の重要な要素であり、作曲家や演奏家は様々な装飾法を語法として共有していました。特にJ.S.バッハやC.P.E.バッハなど鍵盤作曲家は、装飾法に関する表や注記を残しており、プラルトリラーの扱いが文献として示されています。C.P.E.バッハの『クラヴィーア奏法の真髄(Essay on the True Art of Playing Keyboard Instruments)』は、18世紀後半の装飾演奏法を理解する上で重要な資料です。

古典派(モーツァルト、ハイドン期)になると、装飾はより明確に楽譜上に書き込まれる傾向が出てきますが、演奏習慣としての解釈の幅は残りました。19世紀・ロマン派以降は作曲家が詳細に指示することが増えますが、バロック的な短いトリル類は当時とは別のニュアンスで用いられることが多くなります。

作曲家別の特徴的な扱い(概要)

  • J.S.バッハ:装飾表や手稿に基づく実践が研究されており、文脈に応じて短く素早い上行的装飾として用いることが多い。演奏学的研究で現代的解釈の手掛かりが得られる。
  • C.P.E.バッハ:装飾に関する具体的な指示を残しており、特に鍵盤における実践(どのように短く、どの拍につけるか)に関する記述が豊富。
  • ハイドン/モーツァルト:短いモルデントやトリル類をフレーズの装飾として用いるが、楽曲の文脈次第で開始音や長さの扱いが変わる。

演奏法の実際:何を意識して演奏するか

プラルトリラーの演奏では以下の点を意識すると効果的です。

  • 開始音:多くの伝統的な解釈では上補助音(上隣接音)から始めることが多い。ただし楽譜や作曲家の慣習によっては主音から始める場合もあるため、原典や版注を確認すること。
  • 長さと回数:テンポや拍の位置で変わる。速いテンポでは1回ないし2回の交互で十分なことが多く、遅いテンポではやや長めに取ることもある。
  • 音価の配分:装飾全体を何分音符に当てるかを決め、前後のフレーズとの連続性を保つ。拍を越えないようにするのが基本だが、作曲上の指示によっては例外もある。
  • ニュアンス:アーティキュレーション(短く切るか滑らかにするか)によって意味が変わる。歌わせたい場合は柔らかめに、尖らせたい場合は明確に。

楽器別の取り扱い

プラルトリラーは楽器特性によって具体的な実行方法が変わります。

  • チェンバロ/クラヴィコード:鍵盤楽器特有の減衰やレスポンスを考え、鍵で明確に切るよりも指の接触でスピードと長さをコントロールする。チェンバロでは音の減衰が早いため、短めに処理することが多い。
  • フォルテピアノ/モダンピアノ:ダイナミクスとサステインの扱いが異なるため、和声の響きを損なわないように注意。指の連続性とアームに頼るタイミング調整が必要になる。
  • ヴァイオリン/弦楽器:弓の分割や指の反復で表現。弓の位置(フロントかトウ寄りか)や圧力によって色彩が変わる。
  • 木管・金管・声楽:舌の使い方や息の流れで短い反復を作る。声楽では装飾が歌詞理解を阻害しないように注意を払う。

練習のための具体的なアドバイス

プラルトリラーの習得には次の練習法が有効です。

  • メトロノームで基礎速度を決め、小さな反復(1→3回)から始めて徐々に長さと速度を調整する。
  • 上補助音から始めるか主音から始めるか、両方試して音楽的にどちらが自然か判断する。
  • 隣接する和音の中でどの音が補助音になるかを理解し、和声の枠内で装飾を行う練習をする。
  • 録音して聴き比べ、前後のフレーズとのつながりや強弱のバランスを確認する。

現代演奏における解釈上の注意点

現代のピアノ演奏では、歴史的奏法に忠実であるべき場面と、現代的な音楽観で処理すべき場面とが混在します。原典主義に基づく演奏では、作曲当時の発想や装飾法を尊重することが重視されますが、リスナーの耳や現代楽器の特性を考慮して柔軟に解釈することも一つの選択です。重要なのは楽曲の文脈を第一に考え、装飾がフレーズの意味を高めるように用いることです。

聴きどころと実際の作品例(参考)

プラルトリラーやそれに類する上行的な短いトリルは、バロック鍵盤作品(J.S.バッハのインヴェンションやフランス風序曲、ゴルトベルク変奏曲の一部の楽章など)、チェンバロ小品、バロック室内楽、古典派のピアノソナタの装飾的場面などでしばしば登場します。楽曲ごとに装飾の意味が変わるため、スコアや原典、作曲家の文献(例:C.P.E.バッハの『クラヴィーア奏法の真髄』)を参照して解釈の根拠を持つとよいでしょう。

まとめ:プラルトリラーを使いこなすために

プラルトリラーは短いが表現力豊かな装飾の一つであり、歴史的な資料を参照しつつ楽器と音楽的文脈に合わせて柔軟に演奏することが求められます。始める点(上補助音か主音か)、長さ、アーティキュレーションはすべて曲の文脈に依存するため、原典や演奏慣習の調査、そして実践的な耳での判断が重要です。

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参考文献