ブークレ織り(ブークレ生地)を徹底解説:構造・製法・着こなし・ケアまで

ブークレ織りとは何か

ブークレ(bouclé)とはフランス語で「輪」や「カールした」という意味を持ち、繊維や糸にループ(輪状の突起)をつくることで独特の表面感を生む素材を指します。ファッション分野では「ブークレ織り」や「ブークレ生地」と呼ばれることが多く、ループヤーン(ループ構造を持つ特殊な糸)を用いて織られる・編まれることで、暖かさと表情のあるテクスチャを持つ生地が出来上がります。

構造と製法の基本

ブークレ生地の特徴は、糸そのものにループを持たせる点にあります。一般的には以下の3本の糸を組み合わせて作られます。

  • コアヤーン(芯糸): 生地の強度と安定性を担う糸。
  • エフェクトヤーン(ループを形成する糸): 太さや撚りの変化で輪を生み出す部分。
  • バインダーヤーン(結束糸): ループを固定し、全体をまとめる糸。

ループの形成方法にはいくつかあり、製造機械や工程によって違いが出ます。代表的な方法は次の通りです。

  • テンション差を利用する方法:一方の糸のテンションを緩め、他方と差をつけることで自然にループを作る。
  • スラブや不均一撚りを用いる方法:糸に意図的な膨らみや節を作り、それがループ状の表情となる。
  • ニット(編み)とウーブン(織り)の両技術:ニットでループを活かすもの、織りでループヤーンを緯糸や経糸に組み込むものがある。

素材とバリエーション

ブークレには原料による多様性があります。主な原料としてはウール、アルパカ、モヘア、コットン、シルク、ポリエステルやアクリルなどの化学繊維があります。天然繊維は保温性や風合いに優れ、合成繊維は耐久性やコスト面で有利です。近年は混紡やリサイクル素材を使ったブークレも増えています。

見た目のバリエーションも豊富で、ループの大きさ(小さいピッチの繊細な表情〜大きなループで強い立体感)、色の配合、スラブ(節)やネップ(小さな粒)を組み合わせた複合的なエフェクトなど、デザイナーの意図によって多彩に変化します。

特徴と機能性

  • テクスチャ(表情): ループによる凹凸が生地に豊かな立体感と視覚的な温かみを与える。
  • 保温性: ループの間に空気を含むため断熱性があり、コートやジャケットなど保温が必要なアイテムに適している。
  • 伸縮性と柔らかさ: 編みのタイプのものは伸縮性に富み、着心地が良いものが多い。
  • 耐摩耗性・引っかかり: ループ形状ゆえに引っかかりやすく、摩擦に弱い部分が出やすい。ピリング(毛玉)も発生しやすい。
  • ドレープ性: 原料やループの大きさによっては重厚になりやすく、ドレープ感が限定されることがある。

歴史とファッションでの位置づけ

ブークレ素材自体は20世紀初頭から存在しており、表情豊かなツイードやニットの発展とともにファッションに取り入れられてきました。特にブークレやツイード系のジャケットは、20世紀半ば以降にオートクチュールやプレタポルテの定番素材として認知され、ブランドのアイコン生地として用いられることが増えました。例として、シャネルのツイードジャケットはブークレ系素材の代表的なイメージを定着させた一例としてしばしば言及されます(シルエットや裁断、色使いといったデザイン要素と合わせて)。

ブークレ生地の用途(ファッションとインテリア)

ファッション用途では、以下のようなアイテムに広く使われます。

  • ジャケット・コート:立体感と保温性を活かしたアウター。
  • ニット:セーターやカーディガンなど、柔らかく温かいニット素材。
  • スカート・ドレス:ボリュームやテクスチャをデザイン要素に使うことができる。
  • アクセサリー:マフラーや帽子など、触感が重要な小物。

インテリア分野でも、クッション、スロー、椅子の張り地など表情を重視する場面で採用されます。ただし耐久性や引っかかりに注意が必要です。

選び方とコーディネートのコツ

  • 目的に合わせて素材を選ぶ:保温重視ならウール混、耐久性や手入れを重視するなら化繊混のものが扱いやすい。
  • ループの大きさで印象が変わる:細かなループは上品で合わせやすく、大きなループはカジュアルで個性的。
  • シルエットでバランスを取る:ボリュームのあるブークレはインナーやボトムをすっきりさせるとまとまりやすい。
  • 色の使い方:モノトーンでまとめれば高級感が出やすく、配色の効いたブークレはアクセントに有効。

お手入れと長持ちさせるポイント

ブークレは構造上、引っかかりやすく毛羽立ちやすいので、適切なケアが重要です。基本的な注意点は次の通りです。

  • 洗濯:商品表示(ケアラベル)に従う。ウール主体の高級品はドライクリーニング推奨が多い。自宅で洗う場合は中性洗剤で手洗いまたはネットに入れた軽い洗濯を検討する。
  • 乾燥:乾燥機は避け、平干しで形を整える。ハンガー保存は肩が伸びる原因になり得るので、ジャケットなどは型崩れ防止のため適切な幅のあるハンガーを使用する。
  • 引っかかり対策:装飾やバッグの金具との摩擦を避ける。もしループが引っかかったら無理に引っ張らず、裏側からハサミで余分なループを丁寧にカットするか、専門店で修理する。
  • 毛玉の処理:毛玉取り器や手でつまんで取り除く。生地を傷めないように慎重に行う。

よくある誤解

  • 「ブークレはすべて高級品」:ブークレ自体は製法の特徴であり、原料や作り方によって価格帯は幅広い。
  • 「ブークレ=ニットだけ」:ニットで多く使われるが、織物(ウーブン)としてのブークレも存在する。
  • 「洗濯不可=全てプロへ」:確かに高級素材はドライが安全だが、混紡や合成繊維のブークレは家庭用の慎重な洗濯で問題ない場合がある(必ずラベル確認)。

サステナビリティと今後の展望

近年、繊維業界ではサステナビリティへの関心が高まり、ブークレ素材でも以下のような動きがあります。

  • リサイクル繊維やオーガニック原料を用いたブークレの開発。
  • 製造工程での廃棄物削減やエネルギー効率の改善。
  • 長持ちするデザインや修繕可能なアイテムの提供を通じた循環型ファッションの推進。

テキスタイルの特性上、長く愛用できるものを選び、適切なケアを行うことがサステナブルな消費につながります。

まとめ

ブークレ織り(ブークレ生地)は、ループ状の糸を用いることで豊かな表情と保温性を持つ素材です。素材や製法の違いで見た目や扱いやすさが大きく変わるため、購入時にはラベルや組成を確認し、用途に合ったものを選ぶことが重要です。ケア次第で長く着られる一方、引っかかりや毛玉には注意が必要です。ファッションでは伝統とモダンが交差する素材として、今後も多様な表現で用いられていくでしょう。

参考文献

ブークレ - Wikipedia(日本語)

Bouclé - Wikipedia(English)

Bouclé | fabric - Encyclopedia Britannica

The history of the Chanel tweed jacket - Vogue UK

Types of Yarns – Slub, Bouclé, Nub - TextileSchool