キヤノン EOS R5 C 完全ガイド:8K RAWから現場運用までの実践レビュー
イントロダクション — R5 C の位置付け
キヤノン EOS R5 C は、同社のフルフレームミラーレス「R5」のセンサーと画質をベースに、映像制作現場向けに再設計したハイブリッドカメラです。静止画の高画素性能を維持しつつ、内部8K RAW録画や長時間収録を可能にする冷却機構(アクティブクーリング)など、シネマカメラ的な機能を強化している点が最大の特徴です。本稿では、R5 C の技術的特徴、運用面、メリットとデメリット、実際のワークフロー/アクセサリ選定までを深掘りして解説します。
主なスペックと技術的特徴(概観)
- センサーとマウント:R5 と同等の約4500万画素フルフレーム CMOS センサーを搭載し、キヤノンの RF マウントを採用(高性能なレンズ群が利用可能)。
- 内部録画:内部での高画質なRAW録画(Cinema RAW Light)に対応し、8Kをはじめとする高解像度映像の内部記録が可能。XF-AVC や MP4(HEVC/H.265)など多様なコーデックをサポート。
- 冷却機構:ボディにアクティブファンを内蔵し、熱対策を施すことで長時間の連続録画が可能になった(R5 のような熱による早期停止問題を緩和)。
- AF:キヤノン独自の Dual Pixel CMOS AF を採用し、人物/動物の瞳検出や被写体追従が動画撮影でも機能。撮影時の使い勝手が高い。
- 手ブレ補正:ボディ内手ブレ補正(IBIS)は省略されている代わりに、レンズ光学式ISや電子式手ブレ補正(Movie IS / digital IS)が利用できる。
- カードスロット:CFexpress(Type B)とSD(UHS-II)など、プロ仕様のメモリーカードスロットを搭載し、高ビットレート録画に対応。
- 入出力・接続:フルサイズHDMI、USB-C、外部マイク/ヘッドホン端子を装備。タイムコードや外部オーディオへの対応性も考慮された設計。
映像性能の詳細解説:8K RAW とコーデック群
R5 C の最大の魅力は「内部で高ビットレートの8K RAWを記録できる点」です。Cinema RAW Light の採用により、従来は外部レコーダーが必要だった高品質なRAW収録がボディ内で可能になり、ポストプロダクションでの階調や色補正の自由度が大幅に高まります。さらに、用途や編集環境に応じて、XF-AVC(高画質向け)やMP4(効率重視)を選べるため、ワークフローに合わせた柔軟な記録設定が可能です。
ただし8Kデータは膨大で、保存・編集のための高速ストレージや強力な編集PC(ストレージ容量・CPU・GPU)を必要とします。現場では、必要な解像度をよく見極め、必要に応じて4Kやクロップモードを活用するのが現実的です。
オーバーヒート/冷却の実運用
R5 で指摘された8K長時間録画時の熱問題に対し、R5 C は内部ファンによるアクティブ冷却を取り入れることで連続録画能力を大幅に向上させました。これにより、シネマ用途やドキュメンタリーの長回しに対応しやすくなっています。
とはいえ、外気温や使用環境、記録モード(RAWや高ビットレート)によっては熱管理に注意が必要です。実務では次の点に留意してください:
- 長時間連続での高ビットレート録画時は、熱の放散を阻害しないようなケージ配置や風の取り入れを考慮する。
- 屋外高温時や密閉されたケージ内での使用は記録モードを落とす、もしくは外部冷却対策(ファンなど)を併用する。
- ファン音が収録に影響する現場では、外部マイクやウィンドジャマー、別体オーディオレコーダーとの併用を検討する。
オートフォーカス(AF)と撮影運用
R5 C は Dual Pixel CMOS AF を活かした高精度な被写体追従を提供します。顔/瞳検出や被写体追尾は動画撮影において強力で、特にドキュメンタリーやイベント撮影など人を追う撮影で効果を発揮します。AF の信頼性が高いことで、フォーカスオペレーターが常駐できない小規模現場でも安定した映像を得やすいのが利点です。
ただし、シネマ用途でのピント表現やフォーカス合わせの微細な制御を重視する現場では、フォローフォーカスやマニュアルフォーカスを基本にするケースも依然として多く、撮影スタイルに応じた運用判断が重要です。
静止画性能とハイブリッド運用
R5 C は高画素センサーを搭載しているため、静止画のクオリティも高く、スチルとムービーを両立させたい現場に適しています。特にロケ撮影や取材現場でスチールも必要な場合、別のカメラを用意するコストや携行性の問題を軽減できます。
ただし、ボディは映像向けに調整されているため、静止画専用機のような操作感やバッテリー運用、メニューのシンプルさでは劣ることがあります。静止画撮影を頻繁に行うなら、用途に応じてR5との二台持ち運用を検討すると良いでしょう。
操作性・入出力と現場での拡張性
R5 C は映像収録を前提にした入出力を備えています。フルサイズ HDMI 出力、ヘッドホン端子、外部マイク入力(および別売のXLRハンドルでプロ仕様のXLR入力を追加可能)など、プロの現場で必要とされる要素を網羅しています。さらにタイムコードやリファレンス同期の対応により、マルチカメラ収録やポストでの同期が容易になります。
アクセサリ面では、外部レコーダー(必要に応じて)、XLRハンドル、バッテリープレート(Vマウント/ゴールドマウント)やケージ類を組み合わせることで、放送用途から独立系映画製作まで幅広い運用が可能です。
ワークフローの提案:撮影から編集までの実務的な流れ
高解像度RAW素材を活かすための基本的なワークフロー例:
- 現場収録:撮影前に収録フォーマット(8K RAW / XF-AVC / MP4)を決定。音声は可能な限り別取りで冗長性を持たせる。
- データ管理:CFexpress の読み出しは高速カードリーダーを使用し、ワークステーションへのバックアップを2コピー以上行う(LTO やクラウド含む)。
- 編集:8K RAW はプロジェクトに応じてプロキシ生成を行い、編集はプロキシ環境で実施。カラーグレーディングはベースバージョンでRAW→Log変換を行い細部調整。
- 納品:納品解像度・コーデックに最適化してエンコード。アーカイブはオリジナルRAWを長期保存することを推奨。
長所と短所の整理(導入判断の観点)
- 長所:内部8K RAW や長時間録画対応の冷却機構、Dual Pixel AF による高い運用性。RF レンズ群の高画質を活かせる点。
- 短所:ボディ内手ブレ補正(IBIS)が無いため、手持ち撮影での補正や小型ジンバル運用時に注意が必要。8K のデータ管理・編集コストが高い。
どんな現場に向くか?(ユースケース)
- ドキュメンタリーやイベント撮影:長時間収録とAF性能を活かして、オペレータを最小限に抑えつつ高画質を確保したい場合に有効。
- 独立系映画やWeb配信:内部RAW での撮影が可能なため、制作クオリティを高めたい中小規模の映像制作に適する。
- ハイブリッド用途の取材:スチル撮影も同時に必要な記者・映像作家が機材を集約したい場合にメリットが大きい。
推奨アクセサリと準備リスト
- 高性能CFexpressカードと大容量のSSD/RAID ストレージ
- 外部マイクまたはXLRハンドル(音声品質確保のため)
- ケージ、トップハンドル、フォローフォーカス用アクセサリ
- バッテリープレートや外部電源(長時間撮影時の電源管理)
- プロキシ生成とカラー作業用にGPU を活かした編集環境
まとめ — 選ぶべきか?
EOS R5 C は「高画質な映像制作を1台で完結したい」ユーザーにとって強力な選択肢です。内部8K RAW、長時間録画対応の冷却、そして優れたAFを併せ持つことで、従来はシネマカメラと別に必要だった投資を低減しつつクオリティを確保できます。一方でIBIS非搭載や高解像度素材に伴うワークフロー負荷、編集環境の整備コストは導入判断のポイントになります。プロの映像制作で真価を発揮する反面、用途とワークフローを明確にした上で選ぶことをおすすめします。
参考文献
- Canon EOS R5 C(キヤノン公式グローバル製品ページ)
- Canon EOS R5 C(キヤノンUSA 製品ページ)
- DPReview: Canon EOS R5 C review(レビュー記事)
- B&H Photo Video(製品仕様/販売ページ検索に便利)
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