BELS完全ガイド：建築物のエネルギー性能評価と実務での活用法
エバープレイ編集部BELSとは：目的と全体像
BELS（Building-Housing Energy-efficiency Labeling System）は、建築物のエネルギー消費性能を第三者機関が評価・表示する制度です。建物全体の一次エネルギー消費量を基に評価を行い、星評価（★）や評価書として性能を可視化します。もともと省エネ化・脱炭素化の流れや市場の透明性向上、ESG投資やサステナブル建築物の普及促進を目的に導入された枠組みで、設計段階と竣工後の両方で評価が可能です。
背景と位置づけ：なぜBELSが重要か
建築物は一次エネルギー消費とCO2排出の大きな源の一つです。BELSは単なるラベルではなく、エネルギー消費の“見える化”を通じて、設計の改善、運用効率化、資産価値向上、金融評価や補助金申請での証明手段として機能します。また、既存の評価手法（例：CASBEE、ZEB、ZEH等）と補完関係にあり、建物全体の一次エネルギーに着目する点が特徴です。
評価対象と評価項目
BELSの評価は建築物全体の一次エネルギー消費量を基本指標とします。具体的には以下の主要項目を評価します。
- 一次エネルギー消費量（冷暖房、給湯、換気、照明、動力などを含む）
- 外皮性能（外壁、窓の熱貫流率など）と熱負荷の影響
- 設備仕様（空調、給湯、照明器具、換気方式、ボイラー等の性能）
- 使用条件（ゾーニング、設定温度、稼働スケジュールなどの計画値）
評価は設計段階の「設計BELS」と竣工後の「実績BELS」に分かれ、設計段階でのシミュレーションと実績での実測あるいは実情反映の計算が区別されます。
評価方法と技術的なポイント
BELSの算定は専用の計算手法に従い、エネルギー消費を一次エネルギー換算で表します。計算には建築物の外皮性能、設備効率、運転条件などが入力され、標準的な気象データや換算係数が用いられます。主要ポイントは次の通りです。
- 一次エネルギー換算：電力は発電・送配電ロス等を含めた一次エネルギーに換算して評価。
- ゾーンおよび用途設定：建物用途ごとに稼働時間や負荷条件を明確に設定する必要あり。
- 外皮と設備の整合性：外皮性能を高めただけでなく、それに適した設備の選定が重要。
- 設計と実績の差異：設計段階の想定と実運用での使用実態が異なる場合が多く、M&V（測定・検証）の導入が推奨される。
認証の流れ（実務上の手順）
一般的なBELS認証の流れは以下の通りです。
- 登録評価機関の選定：BELSの登録評価機関（第三者評価機関）を選ぶ。
- 申請書類の準備：設計図面、設備仕様書、エネルギー計算書、ゾーニング・運転条件などを整理。
- 設計評価の実施（任意）：設計段階での一次エネルギー算定と星評価の取得。
- 竣工評価：施工後に実績データや最終図面を提出して再評価を受ける。
- 評価書・ラベル交付：合格するとBELS評価書（および星表示ロゴ）が交付される。
申請に必要な詳細資料や手続きは評価機関ごとに異なります。スケジュールと費用は建物規模・用途・評価範囲により大きく変動するため、早期に評価機関と調整することが効率的です。
星評価の見方と表示
BELSは主に星の数で相対評価を行います（一般に1〜5★等のレンジ）。評価書には一次エネルギー消費量の数値、各設備別の内訳、用いた前提条件（設定温度、稼働時間等）が明記され、第三者の評価として根拠が示されます。表示ラベルは入居者や施主、金融機関、テナント候補に対する十分な説明資料となります。
BELSの実利：誰にどんな価値があるか
- 設計者・施工者：性能基準を満たすための検証・改善サイクルを回せる。
- 施主・投資家：資産価値や賃料設定での差別化、ESG評価でのアピールに利用可能。
- 入居者・ユーザー：電気代等の運用コストの予測や快適性の比較が容易に。
- 公共・補助制度：補助金や税制優遇、公共調達などの要件証明として活用されるケースあり。
特に不動産市場では、エネルギー性能の可視化はテナント募集や資金調達（グリーンローンなど）での重要な判断材料になりつつあります。
他の評価制度との関係（CASBEE、ZEH、ZEBなど）
BELSは一次エネルギー消費量に焦点を当てた評価であり、建築環境全体を対象とするCASBEEとは目的や評価指標が異なります。一方、ZEH（ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス）やZEB（ゼロ・エネルギー・ビル）はエネルギー収支でのゼロ化を目指す概念で、BELSの評価はこれらの達成度合いを示す有効な指標となります。BELSを取得することで、ZEHやZEBの実現可能性や達成状況を第三者に示しやすくなります。
限界と留意点：BELSは万能ではない
- 前提条件依存：設定温度や稼働スケジュールなど前提に依存するため、実際の運用と乖離する場合がある。
- コストと手間：設計・竣工での評価取得には費用と時間が必要。小規模案件では負担が相対的に大きい。
- 運用フェーズの評価：設計・竣工評価は有益だが、実際の運用効率を保証するものではない。BEMS等によるM&Vと併用することが望ましい。
- 定期的な更新：設備更新や用途変更があれば、再評価が必要となるケースがある。
実務者への具体的アドバイス
建築設計者や施主がBELSを活用するためのステップは次の通りです。
- 早期に第三者評価機関と相談して評価項目・前提条件を決定する。
- 外皮性能と設備性能のバランスを設計フェーズで最適化する（投資対効果分析を実施）。
- 竣工後の実運用を見据え、BEMSや計測機器を導入してM&Vを行う体制を整える。
- 不確実性（実際の使用者行動等）を考慮して柔軟な運用マニュアルや省エネ対策を用意する。
事例的示唆（一般論）
例えば商業ビルでは外皮改善と高効率空調導入で一次エネルギーを大幅に削減でき、BELSで高評価を得ることでテナント誘致力が上がったという傾向が見られます。住宅分野では、窓性能向上と給湯効率化、太陽光発電の導入がBELS評価を高め、住宅購入の判断材料になるケースが増えています（具体的数値は建物条件による）。
今後の展望：政策・市場の動きとBELSの役割
国内外で脱炭素目標が強化されるなか、建築分野のエネルギー効率化は引き続き重要になります。BELSは評価スキームとして政府の補助制度や金融商品と連動する可能性が高く、さらに運用データを活用した実測ベースの評価手法や、スマートビル技術との統合が進むと予想されます。これにより、設計段階だけでなく運用段階での省エネ改善がより重視されるでしょう。
まとめ：BELSを活かすために
BELSは建物のエネルギー性能を客観的に示す強力なツールです。しかし、評価結果を最大限に活用するには適切な前提設定、設計段階からの総合的な最適化、竣工後の運用改善（M&V）の導入が欠かせません。施主・設計者・施工者・運用者が連携してBELSをプロジェクト管理の一部とすることで、より実効性のある省エネ・低炭素建築物の実現につながります。
参考文献
投稿者プロフィール
