FCU(ファンコイルユニット)徹底解説:設計・施工・維持管理と省エネ対策

はじめに:FCUとは何か

FCU(Fan Coil Unit、ファンコイルユニット)は、建築設備の空調システムで広く用いられる末端処理機器です。冷水または温水を通すコイルと送風用ファン、フィルター、ドレンパンなどを一体化しており、室内空気に直接熱交換を行って温度調整(冷房・暖房)を行います。医院、ホテル、マンション、オフィスビルなど多様な用途に適します。

基本構造と主要コンポーネント

一般的なFCUは以下の要素で構成されます。

  • コイル(冷却コイル/加熱コイル):銅管・アルミフィン構造が主流。2列〜6列など径や列数で性能が変わる。
  • ファン:遠心ファンや軸流ファン。風量制御は段階式、可変速(VAV)やインバータ駆動(ECM)で行う。
  • フィルター:粗塵捕集用。性能はEU4〜G系列やISO 16890準拠が一般的。
  • ドレンパンと排水:結露水を安全に排出するための設計、トラップと勾配が必須。
  • 弁類:サーモスタット式や比例制御の制御弁、PICV(圧力独立流量制御弁)など。
  • 筐体・ダンパー・サイレンサー:防音や風量調整に使用。

2管式と4管式の違い

FCUは配管方式で大きく2管式(2-pipe)と4管式(4-pipe)に分かれます。

  • 2管式:冷水系または温水系どちらか一方に切替えて運転する方式。設備容量や初期コストが抑えられる一方、同時に冷暖房を必要とするゾーンには対応できない。
  • 4管式:冷水配管と温水配管がそれぞれ供給され、同一時間に冷暖房を別々の部屋で運転可能。ホテルや複合用途ビルで多用されるが、配管コストや循環ポンプの負荷が増える。

選定と能力計算の基本

FCUの能力設計には以下の観点が必要です。

  • 負荷算定:設計条件(設計外気温、日射、内部発熱、換気負荷など)により室ごとの冷負荷・暖負荷を算出。
  • 風量と温度差:必要な風量Qvは、求める冷房能力Qs (kW) と吹出温度差ΔTによる。またコイル側の水量は次式で求められる:水流量 (L/s) = Q(kW) / (4.186 × ΔT(℃))。ここで4.186は比熱(kJ/kg·K)に相当。
  • 圧力損失とファン選定:ダクトやフィルター、コイルの圧力損失を考慮し、ファン性能曲線上で運転点を決定する。
  • 音圧レベル:居室種別に応じたNC値(noise criterion)やdB(A)目標を設定し、ファン回転数やサイレンサーで対応。

配管・循環系の設計ポイント

水側配管設計は熱輸送効率と運転経済性に直結します。

  • 温度差(ΔT)の最適化:ΔTを大きくすると水量が減って配管・ポンプ容量が小さくなるが、コイル性能や露点管理に影響する。
  • ポンプ・分配配管:グローバル流量、ヘッド、ゾーニングを考慮し、負荷予測に合わせたポンプ選定と自動制御を導入。
  • バランスと計測:各フロア・ゾーンでの流量調整弁、流量計による調整と試運転でのバランシングが重要。
  • エア抜き・ドレン:配管の高点低点の処理、ドレン勾配、トラップでの逆流防止。

制御戦略とBMS連携

FCUはサーモスタット単独運転からBMS(ビルディングマネジメントシステム)による集中監視・制御まで幅広く組み合わせられます。

  • 基本制御:室温設定に応じたON/OFFまたは比例弁制御での負荷追従。
  • 省エネ制御:夜間セットバック、スケジューリング、外気追い風活用(Free cooling)、最適なポンプ制御(インバータ、PI制御)など。
  • BMS連携:運転状況監視、アラーム通知、エネルギー使用量の見える化、故障診断(振動・電流監視)など。

室内空気質(IAQ)と除湿

FCUは直接室内空気を扱うため、換気と除湿設計が欠かせません。特に高湿地域では、単純に冷却するだけだと除湿が不十分になりカビや結露を招くことがあります。

  • 換気の確保:建築基準やASHRAE 62.1などの換気基準に従い、外気導入専用の換気ユニット(ERU)と連携する場合が多い。
  • 潜熱処理:除湿能力が必要な場合は、別途ドライコイル、デシカント、または空調機での潜熱処理を組み合わせる。
  • フィルターの選定:ISO 16890に基づく効率選定で、ウイルス・花粉・粉塵対策を行う。

施工時の注意点

施工品質が運転性能・維持管理性に直結します。

  • 設置位置:サービス性を考えたアクセススペース、点検口、配線の取り回し。
  • 据付精度:水平勾配(ドレン用)、振動伝搬対策(防振ゴム、吊り構造)、断熱処理(冷水管・ドレン)を確実に行う。
  • 配管・保温:水側の保温は熱損失だけでなく結露防止のため必須。現場接続後のフラッシングと洗浄で汚損を防ぐ。
  • 試運転・調整(コミッショニング):個別の流量・風量・温度調整、バランス調整、リーク試験など。記録を残すこと。

保守・点検の要点

FCUは定期点検で寿命と性能を維持できます。主要な項目は以下です。

  • フィルター清掃・交換:目詰まりは風量・熱交換低下の原因。
  • コイル点検:スケールや汚れによる伝熱低下、腐食確認。
  • ドレン廻り清掃:詰まりや逆流が無いか確認。
  • ファンとベアリング:振動、異音、電流値のチェックと必要な潤滑。
  • 弁と制御機器:応答性、リーク、センサー校正。

省エネ対策と最新技術

近年の省エネ化は機器性能だけでなくシステム設計と運用が重要です。

  • ECM(電子制御モーター)や変速ドライブによるファンの可変運転で消費電力を低減。
  • PICVやインテリジェントバルブで水力バランスを自動化し、ポンプ消費電力を抑制。
  • ゾーンごとの需要追従制御とスケジューリング、BEMSによる需要ピークカット。
  • 熱源側の高効率化(高COPのチラー、ヒートポンプ)や地域冷暖房との連携。

FCUと他システムの比較(VAV・VRF)

FCUは小空間個別制御に優れる一方、全館換気や除湿、エネルギー効率の面ではVAV(可変風量空調)やVRF(可変冷媒流量)と比較されます。

  • VAV:集中空調でダクトロスがあるが換気制御や負荷追従で省エネ性を出せる。
  • VRF:冷媒直送で配管小、部分負荷効率が高いが換気は別途必要。
  • FCU:個別感のある温度制御ができるためホテルや病院に適する。ただし換気・除湿は別途配慮が必要。

設計者・施工者向けの実務ポイント集

実務でよく起こる問題と対応策をまとめます。

  • 吹出し風速とドラフト対策:吹出口の風速設定を低く抑え、対流型吹出しを採用する。
  • 結露トラブル:冷水温度、室内相対湿度、ドレン勾配、保温の徹底で回避。
  • 振動・音問題:吊り金具の防振、ダクトの伸縮処理、吸音材の採用。
  • 更新・改修時の配管切替:既存配管のクリーニング、バイパスラインや切替えバルブの配置。

導入事例と適用領域

FCUは以下の用途で多く採用されています。

  • ホテル:客室ごとの個別制御と静粛性確保が重要。
  • マンション・集合住宅:専有部の個別制御と機械室からの二次配管方式。
  • 病院・診療所:ゾーン別の温湿度管理やHEPAフィルター併用が必要。
  • オフィス・商業施設:ゾーン分割とBMSによる運用最適化。

まとめ:設計・運用で押さえるべき要点

FCUは個別空調に適した柔軟な機器ですが、換気・除湿、配管設計、メンテナンス性を含めたシステム設計が成功の鍵です。2管式・4管式の選定、ΔTと水流量の設計、バランシングとコミッショニング、BMS連携による省エネ運用を慎重に検討してください。最新のモーターやバルブ制御、BEMS活用によりランニングコストを大きく削減できます。

参考文献

Wikipedia: Fan coil unit
ASHRAE(American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers)
ISO 16890 - 空気フィルターの性能規格(ISO)
一般社団法人日本冷凍空調学会 / JRAIA
ASHRAE Standards & Guidelines