エアコン容量計算の完全ガイド:負荷算定から機種選定まで(計算式・実例付き)
はじめに
エアコンの容量計算は、快適性の確保と省エネルギーを両立するための最初の重要な工程です。過小な容量は室温・湿度を目標に保てず、過大な容量は設備費・運転コスト・ランニング効率(部分負荷時の効率低下)を悪化させます。本稿では、冷房負荷の主要要素と計算式、実務的な手順、設計時の注意点・安全率の考え方、簡単な実例を示し、現場で使える形で解説します。
冷房負荷の構成要素
外皮からの熱伝導(伝導熱): 外気と室内温度差による壁・屋根・床・窓を通る熱流入。式は Q = U × A × ΔT(W) 。Uは熱貫流率(W/m2K)、Aは面積(m2)、ΔTは温度差(K)。
日射(太陽熱): 窓や外皮が受ける日射により生じる熱。窓については日射取得率(SHGCやg値)を使い、Qsolar = Awindow × SHGC × I(W/m2 の日射量)で概算できます。日射条件は方位・庇・ガラス仕様で大きく変わります。
換気・浸入空気: 設備換気や隙間から入る外気を冷却する負荷。感熱は Qs = 0.33 × V (m3/h) × ΔT(W) をよく使います(0.33 ≒ ρ×Cp/3600)。ここでVは換気風量(m3/h)。
内部発熱: 人体、照明、OA機器等。人の発熱は活動量で変わりますが、オフィスなど座位軽作業では感熱約 70–90 W/人、潜熱 40–70 W/人 の目安です。機器・照明はほぼ消費電力がそのまま熱になります(W)。
潜熱(除湿負荷): 室内に持ち込まれる水蒸気(外気・人・調理など)を除去するための負荷。冷房では感熱と潜熱を分けて把握し、除湿能力の検討が必要です。
蓄熱・時間遅れ: 建材や家具が蓄熱することで昼夜や時間によって負荷がシフトします。詳細設計では熱容を考慮した時間解析(動的シミュレーション)が必要です。
計算に使う基本式(代表式)
ここでは実務でよく用いる簡易式を示します。正確な設計では動的熱負荷解析(ソフトウェア)や各種基準値を参照してください。
伝導熱: Q_cond = U × A × ΔT (W)
換気の感熱: Q_vent = 0.33 × V_dot(m3/h) × ΔT(W) (0.33 ≒ ρ×Cp/3600)
日射熱(簡易): Q_solar = A_window × SHGC × I (W) (I: 外部日射強度 W/m2)
内部発熱: Q_internal = Σ(機器ワット + 照明ワット) + 人員の感熱(W)
潜熱(湿気): Q_latent = L_v × m_dot_v (L_v ≒ 2.5×10^6 J/kg、m_dot_v は kg/sの水蒸気質量流量差)
換気・潜熱の計算ポイント
換気による潜熱は、外気と室内の比湿差(kg/kg)を用いて計算します。手順は次の通りです。
換気風量 V_dot (m3/s) を求める。
空気密度 ρ ≒ 1.2 kg/m3 を用いて質量流量 m_dot_air = ρ × V_dot(kg/s)を算出。
外気・室内の比湿差 Δx (kg/kg) を湿球温度や相対湿度から求める(湿度表または計算式を使用)。
水蒸気質量流量差 m_dot_v = m_dot_air × Δx(kg/s)。潜熱 Q_latent = L_v × m_dot_v(W、L_v ≒ 2.5×10^6 J/kg)。
実務では、潜熱は感熱以上に重要となる場合があるため、特に厨房や多人数使用の空間、湿潤な地域では注意が必要です。
単位と換算
1 kW = 3412 BTU/h
1 冷房トン(RT: refrigeration ton) = 3.517 kW(米国の1トンは12,000 BTU/h)
換気式の簡易換算係数: 感熱係数 ≒ 0.33(W/(m3/h)/K)
実務的な設計ステップ(概要)
現況把握: 対象空間の寸法、方位、窓仕様、使用時間、人数、機器構成、外気条件(地域の設計外気温・湿度)を収集。
負荷算定: 前項の式に従って、伝導、日射、換気、内部発熱、潜熱を分けて算出。
ピーク負荷の確認: 日中ピーク(太陽高度や日射量が最大となる時間)や運転条件を想定してピーク冷房負荷を確定。
安全率と多様度: ピーク負荷に対して設備の安全率(通常 10–20%)を加える。複数室を一括で設計する場合は同時多発の発生確率を考慮した多様度(diversity factor)を適用するケースがある。
機器選定: 必要冷房能力(kW)に近い機種を選定。部分負荷での効率(EER/COP)・可変速(インバータ)性能、除湿性能(潜熱能力)も重視。
配管・ダクトの影響: 配管長・高低差・ダクト圧損は性能に影響するため、施工条件を満たすか検証。
運用設計: 温湿度の制御目標、運転スケジュール、換気方式、維持管理計画を確定。
実例(簡易ケーススタディ:居室)
例)面積 20 m2、天井高 2.7 m(体積 54 m3)、窓面積 4 m2(南)を想定。設計室温 25°C、設計外気 35°C(ΔT=10K)。内部:人員2名、照明消費 100 W、OA機器 200 W。外皮・窓の簡易値を用いる。
伝導熱(簡易): 壁窓合計の有効 U×A を仮に 15 m2×0.5 W/m2K = 7.5 W/K → Q_cond = 7.5 × 10 = 75 W(※実務では各部位を個別算定)。
日射(窓): SHGC = 0.5、外部日射強度 I = 800 W/m2(南中程度の直射)として Q_solar = 4 × 0.5 × 800 = 1600 W。
換気感熱: 換気 0.5 回/時(V = 0.5 × 54 = 27 m3/h)を仮定、Q_vent = 0.33 × 27 × 10 = 89 W。
内部発熱(感熱): 人 2×75 = 150 W、照明 100 W、OA 200 W → 合計 450 W。
合計感熱: 75 + 1600 + 89 + 450 = 2214 W ≒ 2.21 kW。
潜熱: 人の潜熱 2×55 = 110 W、換気潜熱を仮に 200 W とすると合計 310 W。
総負荷(エンタルピー合算) ≒ 2.21 kW + 0.31 kW = 2.52 kW。
安全率 20% を加える → 必要能力 ≒ 2.52 × 1.2 = 3.02 kW。市販サイズで 2.8 kW と 3.6 kW があるなら 3.6 kW を選定する例が多い(部分負荷動作や除湿能力を重視)。
注: 上記は教育目的の簡易計算です。実務では方位別の日射プロファイル、窓の庇・ブラインド、夜間放射冷却、蓄熱効果を考慮して詳細に算定します。
除湿・部分負荷の考え方
現代のインバータ機は部分負荷での効率が良く、過大容量を避ける理由の一つです。過大容量だと短時間で冷えすぎて除湿が不十分になり、快適性を損なうことがあります。除湿を重視する場合は、感熱潜熱比(SHR: sensible heat ratio)や機種の除湿能力、熱交換器の仕様を確認してください。
実務上の注意点・チェックリスト
設計外気条件は地域(気象データ)に合わせる。
窓の日射取得は方位・庇・日よけの有無で大きく変動するため詳細に評価する。
内部機器はピーク消費電力を確認する(OA機器は負荷としてほぼ全量が熱になる)。
実施設計では各部位(壁・屋根・窓)のU値、透過日射、室内表面熱抵抗などを正確に使う。
換気方式(全熱交換器の有無)、再熱や除湿方式(再熱除湿、熱交換器除湿等)を検討。
選定後はダクト・配管設計で圧損や冷媒損失を確認し、メーカーの実性能表を参照する。
まとめ
エアコン容量計算は、伝導・日射・換気・内部発熱・潜熱の各要素を分解して算定することが基本です。簡易式やルールオブサムは実務で便利ですが、精度が必要な場合は動的解析やメーカーの技術資料、地域の設計外気データを利用してください。選定ではピーク負荷だけでなく、部分負荷時の効率・除湿性能・運転スケジュールを重視することが、快適性と省エネの両立につながります。
参考文献
ASHRAE(American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers)


