コンクリート打設図の完全ガイド:設計・施工・品質管理と実務ポイント
はじめに:コンクリート打設図とは何か
コンクリート打設図は、設計図と施工図の橋渡しをする重要な図面で、現場でのコンクリート打設(打込み)作業を具体的に指示するための計画図です。打設順序、打継ぎ位置、ポンプ配管・ホースの取り回し、スランプや打設高さ、作業ヤードや仮設足場との関係、養生・締固め方法など、施工の安全性と品質確保に直結する情報を示します。正確な打設図がなければ、品質不良(空洞、はらみ、打ち継ぎ不良など)や効率低下、安全事故につながるリスクが高まります。
打設図に必須の情報(項目別)
打設範囲とブロック分割:一度に打設するコンクリート量(打設ブロック)、レフトシートや段取りの分割を明示。
打設順序・タイムスケジュール:ポンプの据え付け位置と注入口、コンクリート到着時間帯、連続打設の計画。
打継ぎ位置と処理方法:計画打継ぎ面(処理する側としない側)、打継ぎ面の清掃・凹凸処理・エポキシ注入などの具体的指示。
コンクリート仕様:配合設計・呼び強度・スランプレンジ・空気量・使用材料(混和剤、AE剤、耐硫酸性等)および温度管理方針。
打設機材・仮設の位置:ポンプ車、投入ホッパー、バイブレータ、足場・仮囲い、材料揚重方法。
締固め・打設厚さ・打設高さ:層高さやレベリング手順、振動機使用の指示(内部振動器・表面バイブレーターの使い分け)。
養生・養生期間:初期養生(養生マット、散水、シート被覆等)とその期間、養生条件(温度・湿潤維持)についての指示。
検査・試験計画:供試体作成、スランプ試験、塩分試験、空気量測定、温度監視および受け入れ基準。
安全対策:崩壊防止のための土留め、振動養生時の作業員配置、搬入路の確保等。
打設図作成の手順と留意点
打設図の作成は設計図・施工条件・現場環境を整理してから行います。一般的な手順は次のとおりです。
現場調査:型枠の形状、鉄筋の密度や突出し、仮設スペース、作業機械の据付可能範囲、天候や搬入路などを確認。
打設単位の決定:一連の連続打設で確保できる打設量を基にブロックを決める。ポンプ能力や現場での取り回しを考慮。
打設順序の最適化:立ち上がりや片持ち部材、コールドジョイントを避けるための順序を計画。上下階への影響や作業員の導線も考慮。
詳細指示の付加:スランプ・締固め方法・打設厚さ・養生方法など、現場で迷わないように具体的に記載。
レビューと合意:施工担当、監理・設計、供給側(生コン工場、ポンプ業者)で打設図を確認し、問題点を解消。
品質管理に関する実務ポイント
スランプ管理:スランプは打設方法(ポンプ打設か直打ちか)、部位(壁・梁・スラブ)で適正値が異なる。スランプが低すぎると締固め不足、逆に高すぎると分離や浮材が生じやすい。到着時のスランプと現場での撹拌・調整の手順を明記する。
凝結・硬化温度管理:コンクリートの水和反応は温度に敏感。高温期の急激な乾燥や低温期の凝結遅延を防ぐために、打設前後の温度管理(冷水・氷の使用、保温・被覆、夜間打設回避等)を計画する。
締固めと振動:内部振動器の使い方(差し込み間隔・振動時間)、表面バイブレータの適用、振動による分離を避けるための層高設定などを指示。
打継ぎ(コールドジョイント)管理:連続打設が難しい場合の打継ぎ位置は、せん断力が小さい場所や目立たない箇所を選ぶ。打継ぎ面の表面処理(掃除・粗面化・接着材)や補修手順を記載する。
検査と受入れ:供試体(圧縮強度試験用)の作成頻度、スランプ試験・空気量測定・初期強度確認の方法、合格基準を明確化。
ポンプ打設と配管計画の注意点
ポンプ打設は効率的ですが、配管計画が不適切だと圧送不能や分離、ポンプの過負荷を招きます。端的な注意点は次の通りです。
ポンプ設置位置は搬入路や周辺仮設、周囲の振動・騒音対策を考慮して決める。
配管は曲がりが少なく、上下差や長距離による圧力損失を最小化。必要に応じて中継ポンプや揚程分割を計画する。
配管内のコンクリート残留を防ぐため、終了時の洗浄計画を明確にする(残留による閉塞・現場品質低下の防止)。
揚程・送材量はポンプ能力に依存するため、コンクリートの配合(粗骨材の最大寸法、スランプ)と整合させる。
気象・環境条件別の打設対策
打設図には季節や局所的な気象条件に対する対策も記載する必要があります。
高温期:乾燥収縮や早期硬化を防ぐため散水・被覆、混和剤の選定、打設時間帯の調整。
低温期:凍結防止(加熱骨材・湯使い・保温被覆)、必要に応じて凍結防止剤や初期温度の管理。
雨天時:汚水混入防止のためのシート養生、投入ホッパーの保護、打設の一時中止基準。
風が強い場合:吹き込みによる水分蒸発の抑制、散水や養生シートの固定方法。
安全と現場の段取り
打設作業は大型機械と重量物が混在するため、打設図で安全対策を明示することが重要です。特に次の点は必須です。
荷重・足場の能力確認:打設中の偏荷重や振動を考慮した足場・型枠の検討。
作業員の動線と立ち位置:ポンプホースや振動器稼働時の危険区域を色分けして示す。
緊急時対応:配管閉塞やポンプ故障、転倒時の対応手順と連絡系統。
CAD・図面作成の実務的なコツ
打設図は分かりやすさが第一。CADで作成する際のポイントは次のとおりです。
レイヤ分け:打設順序、配管、養生、危険箇所を別レイヤにして表示・印刷の切替を容易にする。
注記の統一:スランプ値や振動時間など定型注記はブロック化してミスを減らす。
スケール感の確保:実際の配管太さや作業スペースを縮尺で表現し、干渉チェックを行う。
写真やイラストの活用:不慣れな作業員向けに代表的な打継ぎ処理や振動器の差し込み間隔などを図示。
よくあるトラブルと防止策
空洞・浮き(はらみ):過大な層厚、振動不足、鉄筋干渉が原因。層厚管理と振動要領の徹底を図る。
分離・ブリーディング:スランプ過大や粗骨材の偏在。適切な配合管理と緩速な投入を指示。
コールドジョイント:連続打設が途切れた場合に起きる。打継ぎ面の処理と連絡体制で対応。
打設時の詰まり(配管閉塞):配管の過度な曲りや大きな骨材が原因。洗浄計画と監視体制が重要。
チェックリスト(打設図に盛り込むべき最低項目)
打設範囲・ブロック分け
打設順序と開始時刻・連続打設の目安
打継ぎ位置と処理方法
コンクリート配合・スランプ・空気量・温度指示
ポンプ据付位置・配管ルート・洗浄計画
振動器の使用方法・層高・締固め基準
養生方法・期間・監視方法
検査・供試体の作成頻度と受入れ基準
安全注意事項・緊急時対応
まとめ:打設図の価値と実務的な心構え
コンクリート打設図は単なる図面ではなく、品質・安全・工程管理を現場で具現化するための設計図です。図面作成時には、現場の実情(スペース、機材、人的リソース、季節)を反映させ、施工業者・監理者・材料供給者と十分にコミュニケーションをとって合意を得ることが肝要です。打設中の変更は必ず図面に反映し、関係者全員が最新の計画に基づいて行動できる体制を作ってください。
参考文献
一般社団法人 土木学会(JSCE) - コンクリートに関する標準示方書や手引きが入手可能
一般社団法人 日本建築学会(AIJ) - 建築分野のコンクリート施工指針など
国土交通省(MLIT) - 土木・建築に関する仕様書やガイドライン
日本規格協会(JSA) - JIS規格(コンクリート関連)に関する情報


