サージタンクとは?設計・種類・計算方法と実務上の注意点を徹底解説

サージタンクの概要:役割と設置目的

サージタンク(サージタンク、サージチェンバーとも呼ばれる)は、配水管路や導水トンネル、発電所の導水路などに設けられる空間(縦坑や立ち上がり管など)で、流体の遷移(過渡)現象、特に水撃(ウォーターハンマー)や水柱分離を緩和・抑制するための装置です。瞬時の流量変動や弁操作、タービンの急停止・起動などにより生じる圧力変動を吸収し、配管系の破損や機器損傷、振動を防止することが主な目的です。

サージタンクが果たす主要機能

  • 過渡圧力の緩和:圧力スパイク(正圧や負圧)のピークを低減して配管・弁類へのダメージを防ぐ。

  • 水柱分離の防止:流速急低下時に配管内の圧力が蒸気圧以下になり水柱が分離すると衝撃的な再衝突が発生するが、サージタンクの自由表面が空気を供給・吸収することで分離を防ぐ。

  • 短時間の貯水・補給:系統の瞬時の不足分を補い、一定の流量維持に寄与する。

  • 振動・騒音の抑制:過渡流動に伴う流体衝撃音や構造振動を低減する。

サージタンクの種類と特徴

  • 立坑式(立ち上がり)サージタンク:垂直に設けられる円筒形の竪坑で、最も一般的。自由表面を持ち、流量変化に応じて水位が上下する。シンプルで保守が比較的容易。

  • スタンドパイプ(立上管)型:比較的小口径の立ち上がり管で簡易的に設けられる。都市配水などで見られる。

  • バッフル・または閉止式(空気室)サージタンク:完全に閉じた容器に空気を封入し、コンプレッションにより圧力変動を吸収する方式。設置スペースが限られる場合に採用。ただし空気圧の管理が重要。

  • 拘束・オリフィス付サージタンク:流入・流出にオリフィスや弁を設置して流量調整や減衰を狙うもの。オリフィス径や位置で動的応答を調整できる。

  • 誘導(ダンプ)サージタンク:自由表面が導水路と直接つながるような大型の池や広いチャンバーで、主に水力発電所の導水路終端に使われる。

設計原理:過渡流動の基礎と評価指標

サージタンク設計は「圧力波(過渡波)の発生と伝播」を理解することが基礎です。代表的な理論的扱いは一次元の連成方程式(連続の式と運動量の式)にパイプ弾性を加味したモデルで、水撃の単純評価にはジュコフスキー(Joukowsky)の式が使われます:

Δp = ρ a Δv

ここで Δp は圧力変化、ρ は流体密度、a は波速(管材や流体の弾性に依存、一般に水で数百〜数千 m/s)、Δv は流速変化です。この式は瞬時閉塞などの理想的条件下での最大圧力変化の評価に有効です。

サージタンクはこの過渡エネルギーを自由表面で吸収し、系の自然振動を減衰させます。設計上の主要パラメータは次のとおりです:

  • タンク断面積(自由表面の面積)

  • タンク高さ(許容上昇・下降量)

  • 位置(配管系のどの位置に置くか、例えば揚水ポンプ直近か、導水路中間か)

  • 流入・流出の抵抗(オリフィスや弁)

  • 空気管理(ベント、エアリリーフ、真空破壊対策)

設計手法と計算手順(概略)

  • 過渡シナリオの設定:弁操作・ポンプ停止・タービン負荷変動など、代表的な操作条件を列挙。

  • 一維過渡解析:管路の1次元非定常流モデル(連続の式+運動量の式)で時間歴応答を求める。数値法(特に特性法、格子法、差分法等)を用いる。

  • サージタンクの導入とパラメータ調整:タンク面積や高さ、オリフィス特性を変えながら圧力ピークや水位振動を評価。

  • 安全余裕・構造設計:最悪ケースの圧力、疲労、地震時荷重を考慮してタンクおよび基礎を設計。

実務上の配慮点(施工・維持管理)

  • 空気の管理:サージタンク内に空気が溶存・蓄積すると性能が低下する。エアベントやエアリリーフで常時の空気抜き・補給を行う。

  • 沈砂・スケール:導水路からの堆積物がタンク底に溜まり水位応答を変化させるため、沈砂槽や清掃計画が必要。

  • 腐食・水質:鋼製タンクは腐食対策、コンクリートタンクはひび割れ対策を実施。

  • 計測と監視:圧力計、流量計、水位計を設置し、過渡時の応答を記録して設計の妥当性を確認する。

  • 安全弁や真空破壊弁:負圧時の安全対策として真空破壊弁を設ける場合がある。

サージタンクが特に重要な適用例

  • 水力発電所の導水トンネル:タービンの急停止や負荷変動で大きな過渡が生じるため、トンネル中間やトンネル終端に大型の立坑式サージタンクが設けられる。

  • 長距離送水管・揚水系:ポンプの起動・停止で生じる水撃から配管を保護するために設置される。

  • 都市配水網:配水塔やスタンドパイプ型のサージ保護装置が配備され、消費変動による瞬間圧力変動を緩和する。

解析・設計に使われるツールと実務的アプローチ

1次元過渡解析に特化したソフトウェアが広く使われます。代表的な市販ソフトにはBentley HAMMERやAFT Impulseなどがあり、特性法や改良差分法に基づく解析で圧力時間歴を求め、サージタンクの有無・容量を検討します。また、実験や模型試験で共振・減衰挙動を確認することもあります。

構造・安全設計上の留意点

サージタンクは流体力学的荷重だけでなく静的な水圧、動的な衝撃荷重、地震荷重を受けます。特に急激な自由表面の上下や繰り返し荷重は疲労に寄与するため、構造詳細設計ではこれらを考慮します。コンクリート・鋼構造ともに水密性やクラック管理、腐食保護が重要です。

まとめ:設計のポイントと実務的勧告

  • サージタンクは水撃や水柱分離を抑える有効な手段であるが、適切な容量・位置・空気管理が必須。

  • 設計は過渡解析(1次元の非定常流モデル)に基づくべきであり、単純な経験式だけで決定しない。

  • 維持管理(空気抜き、沈砂除去、計測)の計画を運転段階で整備すること。

  • 大型施設や重要インフラでは模型試験や現場計測で設計の検証を行うことが推奨される。

参考文献