スパイラルワウンド(スパイラルワウンドガスケット)の構造・設計・施工と運用上の実務ポイント

はじめに:スパイラルワウンドとは何か

スパイラルワウンド(spiral-wound)は主に配管・フランジ接合で用いられるガスケット(シール材)の一種であり、金属帯(巻線)と軟質充填材を交互に巻き付けて作られた複合構造を特徴とします。日本の建築・土木分野で言えば、プラント配管や熱交換器、屋外配管など高温・高圧・腐食性流体が流れる系統で採用されることが多く、その対シール性・許容P-T(圧力-温度)範囲の広さが評価されています。

基本構造と材料

スパイラルワウンドガスケットは概ね次のような要素から構成されます。

  • 金属巻線(Winding wire):ステンレス(304、316)、炭素鋼、インコネル等。ガスケットの弾性と復元力、強度を担う。
  • 充填材(Filler):グラファイト(蛇紋石含有グレード)、PTFE(フッ素樹脂)、アラミド等。シール性能(微細隙間の埋め)と耐薬品性・耐熱性を提供。
  • 内リング(Inner ring, I):充填材の押し出し(extrusion)を防止し、流体に対する直接露出を避けるために使用される。高圧系では必須となることが多い。
  • 外リング(Outer ring, O):位置決め(センタリング)や座面保護、摩耗・損傷防止の役割を果たす。

これらを組み合わせることで、耐圧・耐温度・耐薬品性をトレードオフさせながら、現場要件に合わせたガスケットを設計・選定します。

代表的な種類と用途

  • 裸巻き(Inner/Outerなし):低圧~中圧で一般的。コストが低いが押し出しに弱い。
  • 外リング付(OWGなど):センタリングを必要とする場面やフランジ座面保護を優先する場合に使用。
  • 内リング付(IRシリーズ):高圧・高温や揺動する系統で押し出し防止とブローアウト防止が求められる場合に採用。
  • PTFE充填:強酸・強アルカリなど化学的に攻撃的な流体系で使用。
  • グラファイト充填:高温(数百度以上)用途に強く、蒸気・加熱油系で広く使用。

規格と性能指標

代表的な規格には以下があり、製品選定や試験に当たって参照されます。

  • ASME B16.20 — Metallic Gaskets for Pipe Flanges: Ring-Joint, Spiral-Wound and Jacketed(米国)
  • EN 1514-1 — Flanges and their joints — Gaskets for PN-designated flanges: Non-metallic and metal/非金属複合ガスケットに関する規格(欧州)
  • メーカー技術資料(KLINGER、Garlock、James Walker等)— 実務的なP-Tチャート、材質選定指針、トルク管理表など

スパイラルワウンドは単一のP-T等級で表されることは少なく、使用する金属・充填材の組合せおよび内外リングの有無によって許容P-T領域が変わるため、ASMEのP-T図やメーカーのデータシートを必ず参照して選定します。

選定のポイント(実務的視点)

  • 流体の性状:腐食性、毒性、固形分の有無。PTFEや特殊グラファイトを選ぶかどうか。
  • 温度:高温(>400°C)ではグラファイト充填、低温やフラッシュフローでは別の考慮。
  • 圧力:高圧系では内リング付き、座面形状(フラット・凸面/凹面)との適合を確認。
  • フランジの状態:座面の平滑度、損傷や変形がある場合は修正または別のシール方式を検討。
  • 振動・熱膨張:繰返し負荷や熱サイクルが大きい場合は復元性の高い仕様や、適切なボルト管理が必要。
  • 接合の安全性:ブローアウトリスクがある系統では内リング(IR)を必須視する。

施工(取り付け)とボルト管理

スパイラルワウンドの性能は適切な取り付け(ボルト締め)で大部分が決まります。主な手順と注意点は以下の通りです。

  • ガスケットの保管:湿気や油、汚染を避ける。充填材(特にグラファイト)は吸湿で性能低下の恐れ。
  • 座面の点検:フランジ座面に傷・異物がないことを確認。必要なら研磨や交換。
  • 位置決め:外リングがある場合は座面に合わせてセンタリング。外リングがない場合は位置ズレに注意。
  • 締付順序:星型(交差)パターンで段階的にトルクを上げる。推奨は3〜4パスの段階締め。
  • 目標ボルト荷重:メーカーの指定に従うこと。一般的にはガスケットが適度に座面に圧縮される範囲で、過度な締付は充填材の押し出しや金属巻線の損傷を招く。
  • 再トルク:熱サイクル後や運転開始後に再確認を行う。グラファイトは流体の浸透や座面馴染みで締め増しが必要なことがある。

劣化・故障モードと対策

現場でよく見られるトラブルとその対策は以下の通りです。

  • 押し出し(extrusion)・吹き出し(blowout):高圧や大きな座面隙間で起きやすい。内リングや押さえ板、適正締付で対策。
  • 腐食・化学的劣化:充填材や金属巻線の腐食。流体に合った材質選定(PTFE、インコネル等)や表面処理。
  • 座面損傷によるシール不良:フランジ面の変形やキズ。研磨・再加工やフランジ交換が必要。
  • 疲労・緩み:振動や熱サイクルでボルトが緩むとシールが破壊。適切なボルト締結管理、ロックワッシャーやねじ止め材の採用。
  • 異物混入:取り付け時のゴミやパッキング材がシール障害になる。清掃と保護キャップの使用。

検査と品質管理

製造段階では巻線のピッチ、充填材の充填率、内外リングの寸法公差などを管理します。現場では以下の検査が重要です。

  • 外観検査:巻線の均一性、充填材の飛び出しや欠損。
  • 寸法検査:外径・内径・厚みがフランジ仕様と適合しているか。
  • 漏洩試験:水圧試験やエア・ヘリウムリーク検査。高精度が必要な場合はヘリウムリーク検査を採用。
  • 素材証明書の確認:材質規格(EN、ASTM、JIS等)に準拠した証明書を受領する。

実務上の応用ケース

以下のような現場で多く使われます。

  • 蒸気配管・高温流体系:グラファイト充填のSWGで数百度の温度に耐える。
  • 化学プラントの腐食性流体:PTFE充填+耐食金属巻線の組合せ。
  • 熱交換器のフランジ:熱膨張や温度サイクルがあるため復元性を重視。
  • 非常用系統や高圧ライン:内リング付きでブローアウト防止を確保。

代替技術と今後の動向

近年は非金属複合ガスケット、カメレオン型シール(加工済みシートガスケット)、溶接継手の普及などでスパイラルワウンドを使わない選択肢も増えています。ただし、広いP-T範囲と高信頼性という点ではスパイラルワウンドは依然として有力であり、材料技術の進歩(例:特殊合金巻線、改良型グラファイト、PTFE複合材)により性能向上が続いています。

まとめ:設計と現場管理の重要性

スパイラルワウンドガスケットは多様な条件下で安定したシール性を提供しますが、その性能は材料選定、フランジの状態、そして施工管理(ボルト締付・再トルク・検査)に大きく依存します。規格(ASME B16.20等)やメーカーのデータシートを参照し、流体特性や運転条件に合わせた最適仕様を選定することが長期的な安全運用の要です。

参考文献