施工と設計で失敗しない「ハンガー」徹底ガイド:種類・設計・維持管理と耐震対策

ハンガーとは何か——建築・土木における定義と役割

ハンガー(hanger)は、建築・土木構造物において上部構造から下部構造や機器、配管などを「吊る」ための金具・部材を指す総称です。英語ではhanger、suspension, rod, clevisなどの用語が使われますが、国内では「吊り金具」「吊りボルト」「吊りロッド」「吊り金物」などと呼ばれます。用途は屋根や床スラブ、配管・ダクト・空調機器、橋梁のケーブル受けなど多岐にわたり、荷重支持だけでなく、伸縮・振動吸収・耐震性の確保などの機能を持ちます。

ハンガーの主な種類

  • ロッド・ボルト型ハンガー:ねじ付きロッドやアンカーボルトで吊る最も一般的な形態。架構や設備支持に広く用いられる。
  • プレート・フランジ型ハンガー:板金やフランジで受けてボルトや溶接で接合するタイプ。梁端やコンクリートへの取付で多い。
  • チェーン・ケーブルハンガー:可動性や長さ調整が容易なため高さ調整や可動部の支持に使用。
  • スプリング(ばね)ハンガー:主に配管の熱伸縮や振動を吸収するために用いる。固有振動数を下げて機器振動を遮断する。
  • パイプハンガー・Saddle型:配管専用で、配管の支持と同時に断熱材や防振材を組合せて使う。
  • 橋梁用ハンガー(ケーブル受け・吊り金具):懸垂橋やトラス橋で主索や吊り材を支持する重要部材で、疲労や防食対策が特に重要。

材質と防食処理

ハンガーには主に炭素鋼(構造用鋼材)やステンレス鋼が用いられます。一般環境ではSS材や一般構造鋼が選ばれますが、海岸部や化学環境下、衛生が求められる場所ではSUS304やSUS316などのステンレスが望ましいです。防食処理としては、熱間溶融亜鉛めっき(HDG)、電気亜鉛めっき、塗装、溶射(アルミ・亜鉛)などが一般的です。溶融亜鉛めっきは長期の耐食性が高く、屋外や橋梁などに広く使われます。

設計上の基本チェック項目

  • 荷重評価:静荷重(自重+積載)と動荷重(風圧、地震、機械振動)を分離して評価する。
  • 応力計算:引張応力(σ = P/A)、せん断応力(τ = V/As)、座屈や曲げを含む複合応力をチェック。
  • ボルトおよび穴の耐力:ボルトの剪断耐力、座屈、ボルト穿孔部の圧縮(ベアリング)などを確認。
  • 溶接部の強度:溶接形式、溶接金属の強度、熱影響部の脆弱性を評価。
  • 安全係数と許容応力:設計基準(国・業界ガイドライン)に従い適切な安全率を採用する。

計算のポイント(簡易式と注意点)

ハンガーの基本的な強度計算は単純な断面応力の検討から出発します。代表的な式は以下の通りです(概念式):

  • 引張応力:σ = P / A(P:作用荷重、A:有効断面積)
  • ボルトせん断:τ = V / As(V:せん断力、As:ボルト有効断面積)
  • 座屈評価(細長ロッド):臨界荷重 Pcr = (π^2 EI)/(KL)^2(E:ヤング率、I:断面二次モーメント、K:端条件係数、L:長さ)

注意点として、穴あけや溶接による断面欠損、ネジ山の影響、局所応力集中(曲げモーメントや圧迫部の局所座屈)を必ず考慮してください。設計基準に従ったボルト行程、締付けトルク、摩擦係数の設定も重要です。

耐震・動的考慮

日本のような地震多発地域では、ハンガー設計において耐震性能の確保が不可欠です。静的な強度だけでなく、動的挙動(固有振動数、減衰、共振、疲労)を評価します。特に長い吊りロッドやスプリングハンガーは振幅が大きくなりやすく、支持部での摩耗や金属疲労が問題になります。耐震対策としては、伸縮や振動を許容する可動継手、制振ダンパー、冗長性(複数支持点)を導入します。

施工上の注意点

  • 取り付け位置・荷重方向の確認:誤った取り付け角度は曲げ応力を生じさせる。
  • ボルトの締付管理:規定トルクまたはプリロード管理を実施し、緩み止め対策を行う。
  • 溶接施工:溶接種別、前熱・後熱、検査(目視・超音波など)を適切に行う。
  • 防食処理の保護:めっきや塗装の欠損部は補修し、露出部に注意する。
  • 配管・ケーブルの位置決め:支持点が偏ると不均等荷重で破損する。

点検・維持管理の実務

ハンガーは設置後も定期点検が必要です。目視点検で変形、腐食、亀裂、緩み、摩耗を確認し、必要に応じて超音波による板厚測定や磁粉探傷(溶接部)などの非破壊検査を行います。橋梁や屋外設備では、経年による断面減少を勘案して補修・交換計画を立てることが重要です。特に疲労が懸念される箇所は振動モニタリングや荷重試験を定期実施します。

よくある破損パターンと対策

  • 疲労亀裂:溶接部や応力集中部に発生。溶接の仕上げ、応力緩和、余裕のある断面設計で予防。
  • 腐食による断面減少:表面処理の適切な選定と保守で延命。
  • ボルトの剪断・緩み:適切なボルトサイズ選定、トルク管理、緩み止め(ロックワッシャ、接着剤)の併用。
  • 座屈や変形:細長部材の長さ制限、横ブレ止め(スタガー・ガイド)の導入。

仕様書・発注時のチェックリスト(実務向け)

  • 支持荷重(静的・動的・最大荷重)と安全率
  • 使用環境(屋内/屋外/海岸/化学環境)と要求される防食仕様
  • 材質(鋼種、熱処理、表面処理)と証明書(材料試験成績書)
  • 寸法・公差・取付方法(溶接/ボルト/アンカー)
  • 必要な試験(荷重試験、非破壊検査、トルク試験)
  • メンテナンス対応(交換容易性、部品供給)

例えばこう使う——ケーススタディ

・配管支持:給排水配管ではスプリングハンガーを使って熱伸縮を許容し、配管応力を低減する。設計では熱変位量とハンガーの変位範囲を照合する。
・屋内機器:天井から大型空調機を吊る場合は複数点支持で荷重を分散、アンカーボルトの引抜・剪断能力を確認する。
・橋梁:吊りロッドは疲労と防食が致命的リスクとなるため、熱間亜鉛めっきや被覆、定期的な振動試験で寿命管理する。

まとめ

ハンガーは一見単純な部材に見えますが、荷重・動的挙動・耐久性・施工性を総合的に判断することが必要です。設計段階で荷重と環境を正確に想定し、適切な材質・表面処理・詳細意匠(ボルト径、溶接形状、クリアランス)を決めること。施工では取付精度と締付管理、維持では定期点検と早期補修が安全・長寿命化の鍵となります。

参考文献