建築・土木で使うボルト完全ガイド:種類、材質、強度、施工・点検のポイント
はじめに
ボルトは建築・土木構造物における最も基本的で重要なファスニング部材の一つです。梁・柱・基礎や機器取付けなど、多種多様な用途で用いられ、材料選定や施工品質が構造安全性に直結します。本稿ではボルトの種類、材質・強度、ねじ・公差、表面処理、防食対策、締付け・接合理論、施工・検査の実務的ポイント、故障事例と対策までを詳しく解説します。
ボルトの基本と用途分類
ボルトは基本的に頭部があり軸にねじが切られた部材で、ナットと組み合わせて部材を締結します。用途別には次のように分類できます。
- 構造用ボルト:鋼構造物の主要接合に用いる高強度ボルト。
- 機械用ボルト:機械・設備の組立てに用いる一般的なボルト。
- 耐食・耐候ボルト:環境条件に応じて耐食性に優れる材料や処理を施したもの。
- 特殊ボルト:溶接ボルト、アンカーボルト、トルク制御ボルトなど用途特化型。
材質と強度等級(機械的性質)
ボルトの強度等級は一般に国際規格や各国規格で規定されています。代表的な規格としてはISO 898-1(炭素鋼・合金鋼製ねじ付部材の機械的性質)、ISO 4014/4017(六角ボルト)などがあります。強度等級は数値で示され、例えば8.8、10.9、12.9などが一般的です。
強度等級の読み方(例:8.8)
- 前半の数値(8)は公称引張強さを10で除した値(8=800MPa)
- 後半の数値(.8)は降伏比(降伏点/引張強さ×10)を示す(0.8=80%)
つまり8.8は引張強さ800MPa、降伏比80%を意味します。高強度を要求される接合部には10.9や12.9のような高等級ボルトが用いられますが、強度が高いほど延性が低下し、脆性破壊や水素脆化のリスクが増す点に留意が必要です。
ねじ規格と公差
ねじにはメートリック(ISOメトリックねじ)やUNC/UNFなどの並目・細目があります。寸法公差やねじのはめ合い(例えばボルト側6g、ナット側6Hなど)は緊結の信頼性に影響します。ボルトのねじを精度よく製造しないと、締付け時の摩擦や座面挙動が不均一になります。
表面処理と防食対策
屋外や海岸部などでは防食対策が不可欠です。代表的な表面処理には以下があります。
- 溶融亜鉛めっき(HDG):耐食性が高く最も一般的。
- 電気亜鉛めっき:薄層で耐食性はHDGに劣る。
- 有色クロメート、亜鉛ニッケルめっき:耐食性向上と塗装下地に適する。
- 無電解ニッケルめっき、高耐食ステンレス:過酷環境向け。
注意点として、高強度ボルトに対する電気めっきや非推奨の処理では水素が侵入しやすく、水素脆化の原因となる可能性があります。高力ボルトには規格で許容される処理方法が定められていることが多く、施工仕様書に従うことが重要です。
ボルト接合の種類:すべり止め接合と貫通接合(軸力依存)
鋼構造の接合では主に2種類があります。
- 摩擦止め(すべり止め)接合:高力摩擦摩擦(HSFG)ボルトで部材間の摩擦力により力を伝達し、ずれを防止する方式。高い締付け力(プレロード)が必要。
- 軸力依存(貫通・軸受け)接合:ボルト本体でせん断・引張を負担する方式。ボルトに直接力がかかるため許容強度に注意。
設計や施工においては用途に応じた接合形式を選択し、必要なプレロードや摩擦係数、材料面の粗さなどを考慮します。
締付け理論:トルクと軸力の関係
ボルトの締付けではトルク値だけで軸力(プレロード)を管理することが多いですが、トルクと軸力の関係は摩擦やねじ形状により大きく変動します。概略式は次の通りです。
トルク T = K × F × d
ここでTはトルク、Fは軸力、dはボルト呼び径、Kはトルク係数(一般に0.15〜0.3の範囲)。Kは表面処理・潤滑・ねじ摩擦に依存し、大きくばらつくため、重要接合ではトルク管理のみでは不十分となることがあります。
実務的な締付け管理手法:
- トルク法:簡便だがばらつきが大きい。
- ターン・オブ・ナット法(ナット回し角法):座面座屈を利用する方法で精度が高い。
- テンション法(油圧引張工具):直接軸力を与えるため最も精度が高い。
- ボルト伸び測定法:伸びを直読して目標軸力にする方法。
施工時の実務ポイント
施工品質を確保するためのポイントは以下です。
- ボルト・ナットは規格とロットが一致しているか確認すること。
- ねじ山や座面の清掃:汚れ・塗膜・バリは摩擦を変化させ、締付け力に影響する。
- 潤滑の扱い:指定潤滑剤やトルク補正係数に従う。指定外の潤滑は過剰な軸力を生む場合がある。
- 締付け順序と交互締付け:フランジやプレートを均一に締めるための手順を守る。
- トルクレンチの校正:レンチは定期的な校正が必要。
- 再締付けと検査:初期荷重の座屈や緩みがないか確認する。
劣化・故障事例と対策
ボルトの典型的な劣化・故障には次があります。
- 疲労破壊:繰返しせん断や曲げが原因。細部形状の集中応力や不足したプレロードが誘因。
- 腐食による断面欠損:断面減少により強度不足に。防食設計・排水や塗装の維持が重要。
- 水素脆化:高強度めっきや電解処理などで水素が侵入し、破断を引き起こす。特に10.9以上の高強度鋼に注意。
- ねじ山の摩耗・かじり(ガリング):ステンレス同士などで発生しやすく、潤滑や表面処理で対策。
対策としては適切な材質選定、適合する表面処理、十分な検査・交換計画、設計による応力低減(フィレットや余裕のある断面)などが挙げられます。
検査・試験方法
ボルトの品質管理では下記の試験が用いられます。
- 引張試験:最終強度と伸び率の確認。
- 硬さ試験:ロックウェル硬さ等で熱処理と強度の状態を推定。
- 荷重試験(証明荷重試験/プローフロード):ボルトが規定の証明荷重に耐えるか確認。
- 表面処理の膜厚測定、塩水噴霧試験による耐食性評価(設計仕様に基づく)。
- 非破壊検査(目視、磁粉探傷など):目に見えるき裂や欠陥を確認。
現場ではサンプル試験と目視点検、トルク記録の保存などが管理手段として重要です。
設計者・施工者への実務的助言
設計段階での注意点:
- 接合形式(摩擦止めか軸受けか)を明確にし、必要なボルト等級やプレロードを仕様書に明示する。
- 防食環境(海岸、塩害、化学環境)を考慮し、適切な材料・めっき・塗装を選ぶ。
- ボルトのアクセス性を確保し、施工や交換が容易に行える配置とする。
施工段階での注意点:
- 受入検査でロット証明書(材質証明、機械試験成績)を確認する。
- 締付け計画(工具、目標トルク、順序、記録)を事前に策定する。
- 重要接合はテンション法や伸び測定など高精度な締付け管理を採用する。
まとめ
ボルトは一見単純な部材ですが、材質、強度、表面処理、ねじ精度、施工管理が総合的に影響して構造の安全性と耐久性を決定します。特に高強度ボルトは取り扱いを誤ると重大な事故につながるため、規格や仕様に従った材料選定、適切な防食処理、精度の高い締付け管理、受入・現場検査が不可欠です。
参考文献
ASTM A325/A490 Structural Bolts(米国規格の例)
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