建築・土木における「一般管理費」とは?定義・算定方法・実務上の注意点を徹底解説
はじめに — 一般管理費の重要性
建築・土木の工事見積りや原価管理において「一般管理費」は避けて通れないキーワードです。工事の直接費には現れない本社経費や間接費を適切に配賦しないと、採算管理や入札価格の妥当性が担保されません。本稿では一般管理費の定義、会計上・積算上の位置づけ、算定方法、公共工事での取り扱い、実務上の留意点と削減策までを詳しく解説します。
一般管理費の定義と範囲
一般管理費(General and Administrative Expenses)は、企業全体の運営に関わる費用で、特定の工事現場に直接帰属しない間接費のことを指します。建設業では以下のような科目が典型です。
- 本社スタッフの人件費(管理部門、経営幹部、総務、経理など)
- 本社事務所の賃借料・光熱費・通信費
- 本社設備の減価償却費(OA機器・社屋など)
- 保険料・福利厚生費・研修費
- 法務・税務・外注コンサルティング費用
- 販売費や広告宣伝費のうち企業全体に帰属する部分
これらは企業経営を維持するための費用であり、工事毎に直接計上されるものではありませんが、工事採算に影響を与えるため適正な配賦が必要です。
一般管理費と現場費・共通仮設費の違い
混同されやすい用語に「現場管理費」「共通仮設費」「間接費」があります。違いは以下の通りです。
- 現場管理費:現場代理人や現場事務所にかかる費用(現場人件費、現場の光熱費等)。
- 共通仮設費:複数現場で共通して使う仮設設備や共通管理に要する費用。
- 一般管理費:会社本社レベルの間接費で、全社的な管理・運営に係る費用。
積算書ではこれらを区別して計上し、配賦基準に基づき工事別に按分するのが一般的です。
会計上の取り扱い(損益計算書との関係)
会計上、一般管理費は損益計算書における販管費(販売費及び一般管理費)に該当します。建設業特有の工事進行基準を適用する場合でも、本社的な管理費は当期費用として計上されるか、工事原価へ按分されるかは企業の会計方針と適用基準に依存します。税務上は、損金算入や資産計上の可否が問題になることがあり、支出の性格に応じた適切な処理が求められます。
積算・見積りでの算定方法
一般管理費の工事別配賦方法には主に次のような方式があります。
- 売上高(工事高)比例配分:総一般管理費を年度売上高で除して率を出し、工事金額に乗じる方式。
- 直接工事費比例配分:直接工事費を基準にして一般管理費率を算定する方式(建設業で多く用いられる)。
- 工事機械台数・人日数などの物理基準に基づく配分:特定業態で採用されることがある。
業界実務では「一般管理費率=一般管理費(期間合計)÷直接工事費(期間合計)」を基に各工事に按分することが多いです。公共工事の積算や入札見積りでは、あらかじめ定められた算定ルールやガイドラインに従う必要があります。
公共工事での取り扱いと入札対応
公共工事の積算においては、国や自治体ごとに積算基準や指針があり、一般管理費の算定と適用には一定のルールがあります。入札書類では一般管理費率の根拠を求められる場合があり、過度に高い率や不適切な配分は疑義を招きます。一般に、公共工事では透明性と説明可能性が重視されます。
実務的な計算例(簡易)
例:ある中堅建設会社の年間データ(単位:千円)
総一般管理費(本社費用)=150,000
年間直接工事費合計=1,500,000
→ 一般管理費率=150,000 ÷ 1,500,000 = 0.10(10%)
ある個別工事の直接工事費が80,000千円であれば、その工事に配賦する一般管理費は80,000 × 10% = 8,000千円となります。
KPIとベンチマーク
一般管理費の適正水準は会社規模や事業形態で大きく異なりますが、チェックすべき指標は次の通りです。
- 一般管理費率(一般管理費 ÷ 直接工事費または売上高)
- 一人当たりの売上高(生産性)
- 本社人員比率(本社人員 ÷ 総従業員数)
- 固定費比率(減価償却・賃借料等の割合)
一般管理費率が業界平均を大きく上回る場合、採算や競争力に影響します。目標値は会社戦略によって設定すべきですが、段階的な削減と再投資をバランスさせることが重要です。
削減・最適化のための実務施策
- 業務プロセスの標準化とデジタル化(見積・契約・請求の電子化で事務負担を減らす)。
- 本社機能の統廃合やアウトソーシングの検討(非中核業務の外部委託)。
- 人員適正化と役割再定義(本社人員のスキルの多能工化)。
- 不動産・設備の資産効率化(賃料交渉、リモートワーク導入で面積削減)。
- 業績連動の評価制度導入で生産性向上を促す。
ただし、過度なコスト削減は内部統制や法令順守能力を低下させ、長期的にはリスク増大につながるため注意が必要です。
税務・会計上の注意点
税務上は、一般管理費として処理された費用が損金算入できるか、資産計上が必要かを判断する必要があります。また、関連会社間取引の配賦や役務提供に伴う処理は移転価格や交際費の扱いに注意し、税務当局からの指摘リスクを低減するために根拠書類を整備しておくことが重要です。
よくある誤解と対応策
- 誤解:一般管理費は削れば良い。 → 対応:必要な管理機能を削り過ぎると品質・安全が損なわれる。効果的な削減はプロセス改善と投資効率化で行う。
- 誤解:一律の率で配賦すればよい。 → 対応:事業部や工事の性格によって適切な配賦基準を設けるべき。
- 誤解:公共工事には自由に計上できる。 → 対応:積算基準や入札書類の指示に従い、透明性のある算定を行う。
まとめ
一般管理費は会社の経営基盤を支える重要な費用であり、建設業における原価管理・入札戦略に直結します。正確な定義の理解、適切な配賦基準の設定、透明性のある説明可能性の確保、そしてプロセス改善を通じた適正化が求められます。短期的なコスト削減だけでなく、中長期の競争力向上につながる投資とバランスさせることが成功の鍵です。
参考文献
- 国土交通省(公共工事の積算・入札に関する情報)
- 日本建設業連合会(業界ガイドライン・統計情報)
- 国税庁(法人税・損金算入等の税務情報)
- 中小企業庁(中小建設業向け経営支援情報)
- Wikipedia: 建設業(基礎知識)


