開粒度アスコンの技術と実務ガイド:設計・施工・維持管理のポイント
はじめに — 開粒度アスコンとは何か
開粒度アスコン(Open-graded Asphalt Concrete、以下「開粒度アスコン」)は、粗骨材の割合を高めて細骨材を抑えることで、混合物内部に連続した空隙(間隙)を持たせた舗装用アスファルト混合物です。表層に用いる場合は「開粒度摩擦層(OGFC: Open-Graded Friction Course)」あるいは「透水性舗装(ポーラスアスファルト)」としての機能を期待されます。主な特徴は排水性の向上、スプラッシュ・スプレーの低減、走行音の低減などで、適切な設計・施工によって従来の密粒度アスコンとは異なる性能を発揮します。
構成と材料特性
開粒度アスコンは骨材とアスファルトバインダーから成り、一般的には以下の点が設計上重要です。
- 骨材組成:粗骨材が主体で、細骨材(砂)は意図的に減らす「ギャップグレーディング」や単粒径配合を採用することが多い。
- 空隙率(有効空隙):連続した空隙を確保するため、一般舗装より高い空隙率を持つ。表層用では大まかに15〜25%程度の空隙率が目安とされることが多いが、設計仕様や用途で違いがある。
- アスファルト含有量:空隙を確保するためにバインダー量は一般的に低めに設定される。ただし流出(draindown)を防ぐため、改質アスファルトや繊維、ポリマー等の添加が用いられる。
- 骨材の形状・耐久性:粗骨材は角形で摩耗・破砕に強いものが望ましく、ラベリングや剥離に対する耐性も重要。
設計のポイント
開粒度アスコンの設計は「排水機能や騒音低減などの目的」を明確にしたうえで、構造性能とのバランスを取る必要があります。設計上検討すべき主要項目は以下の通りです。
- 目的の明確化:排水性重視か、騒音低減か、スリップ軽減かによって空隙率・厚さ・表面粗度の目標が変わる。
- 空隙率と透水性:空隙率が高いほど透水性能は高いが、耐久性やすり減り・剥落リスクも高まるため適正値を採る。
- アスファルト種別:高温下での流動(draindown)を防ぐため、ポリマー改質アスファルト(SBS等)や添加剤、短繊維を採用する事例が多い。
- 骨材の最大寸法と層厚:骨材最大寸法は層厚との適合性を考慮。一般に表層厚さは20〜50mm程度が多い(用途により変動)。
混合・施工上の注意点
開粒度アスコンは製造・施工での管理が難しく、品質確保には細心の注意が必要です。
- 製造温度と混合設備:適切な混合温度で均一に含水が除去された骨材とバインダーを混合する。高含油や高温が過度のdraindownを招くため、混合温度管理が重要。
- 運搬と敷き均し:混合物の温度低下や分離を防ぐため運搬時間を短くし、トラックの覆い付けや断熱が行われる。
- 転圧(締固め):空隙を残すために通常の密粒度アスファルトよりも転圧量は控えめにするが、均一な表面を確保できるようローラ種や走行回数を調整する。
- 縁部・継ぎ目処理:開粒度層は剥離や水の浸入に敏感なため、端部の処理や下層との接着(タックコート等)を適切に行う。
性能と長所
適切に設計・施工された開粒度アスコンは次のような利点を提供します。
- 透水性・排水性の向上:路面に残る水膜が減り、ハイドロプレーニングの危険が低減される。
- 視界・安全性の改善:スプラッシュ・スプレーの低下により夜間や雨天時の視認性が向上する。
- 騒音低減効果:空隙構造がタイヤノイズを吸音し、走行騒音低減に寄与する。
- 表面温度低下(場合による):透水・蒸発により表面温度が下がる可能性があり、都市のヒートアイランド対策の一助となる場合がある。
課題と短所
一方で多数の課題もあります。代表的なものは以下の通りです。
- 目詰まり(閉塞)と機能低下:砂や粉塵、タイヤ粉塵等が空隙を塞ぐと透水性・吸音性が著しく低下する。定期的な清掃(掃除・高圧洗浄)が必要。
- 剥落・ラベリングのリスク:空隙が多く層剛性が低いため、車両荷重や温度変化による骨材の脱落が生じやすい。
- 耐久性の制約:高トラフィックや重荷重を受ける幹線道路では摩耗や変形が問題となるため、用途が限定される場合がある。
- 施工管理の難しさ:draindown防止、適切な転圧、端部処理など施工管理項目が多く、不適切な施工で性能が大きく低下する。
維持管理(メンテナンス)
開粒度アスコンの寿命を延ばすには計画的な維持管理が不可欠です。
- 定期清掃:目詰まり防止のための掃除(掃除車、高圧洗浄など)を定期的に実施することが第一の対策。
- 部分補修:剥落や空隙の閉塞が進んだ箇所は局所的に補修または再舗装を行う。補修材は透水性を損なわない材料を選定する。
- 監視・評価:透水性試験、路面摩耗量や表面摩擦係数(SRTなど)の定期計測により性能劣化を把握する。
適用事例と設計上の選択基準
開粒度アスコンは用途と環境に応じて選択されます。代表的な適用例は次のとおりです。
- 高速道路や幹線道路の表層(短期的な透水・騒音低減を目的に採用されるが、維持管理コストと耐久性を考慮)
- 都市部の幹線・側道、歩道・自転車道(走行速度・車両荷重が比較的小さい区間)
- 駐車場や空港誘導路等(設計条件により適否が分かれる)
- 雨水管理や流出抑制を目的とした透水性舗装:透水量と処理水の質を考慮した設計が必要
品質管理と評価試験
設計通りの性能を得るため、以下の品質管理項目が重要です。
- 空隙率・密度測定:設計空隙率を達成しているかを確認する。
- 透水係数・透水速度の測定:現地での透水性能を評価する。
- 摩耗試験・引張強度・耐久性試験:ラベリングや剥落抵抗を予測するための試験。
- draindown試験:混合物が高温時に分離・流出しないかを確認する。
設計・施工における実務的アドバイス
実務で失敗を避けるためのポイントを簡潔にまとめます。
- 目的に応じた仕様決定:騒音低減が主目的か、豪雨対策が主目的かで仕様を分ける。
- パイロット敷設:初導入時は小規模な試験施工を行い、実際の骨材・気候条件での挙動を確認する。
- 施工業者・資材の選定:draindown抑制材、改質アスファルト、適切な骨材を持つ経験ある業者を選ぶ。
- 維持管理計画の明示:清掃頻度や予防的補修の計画を事前に決めておく。
おわりに
開粒度アスコンは適切に設計・施工・維持管理を行えば、排水性や騒音低減など有益な機能を発揮します。しかし、目詰まりや剥落といった固有の課題も伴うため、用途選定とライフサイクルコストを含めた総合的な判断が重要です。導入を検討する際は、現地条件、交通特性、維持管理体制を十分に検討したうえで、パイロット施工や性能監視計画を組み込むことをお勧めします。
参考文献
- U.S. Federal Highway Administration (FHWA) — Pavement and Materials
- National Asphalt Pavement Association (NAPA) / Asphalt Pavement Alliance
- The Asphalt Institute — Technical Information
- 国土交通省(MLIT)公式サイト — 道路・舗装関連資料
- Wikipedia(ポーラスアスファルト)


