建築・土木現場での「感電」完全ガイド:原因、症状、応急処置、予防対策(実務向け)
はじめに — なぜ感電は現場で最も危険なのか
建築・土木の作業現場は、多数の電力設備、仮設配線、重機、金属構造物が混在するため、感電災害のリスクが高い環境です。感電は瞬時に命に関わるだけでなく、二次的に墜落・転倒などの複合災害を引き起こします。本コラムでは、感電の生体影響、主な原因、現場で実際にとれる予防措置、応急処置、さらに設計・管理面での対策を実務者向けに詳述します。
電気の基礎知識(感電理解の前提)
感電の危険度は「電圧」だけで決まるわけではありません。電流の大きさ(A)、通電経路(心臓を横切るか)、通電時間、電流の種類(交流または直流)、周波数、接触面積や皮膚の状態(濡れているか)などが重大な要因です。一般的に同じ電圧でも抵抗が低ければ電流は大きくなります(オームの法則)。
人体への影響としきい値(目安)
知覚閾値:交流(50/60 Hz)で約0.5〜2 mA程度で感覚を感じると言われます。
握り金(let-go)閾値:手が電極から離れられなくなる電流は概ね10〜20 mAの範囲。ただし個人差や環境条件で変動します。
致死性の心室細動(VF):交流で数十mA〜数百mAの範囲で、特に30 mA前後から心臓に致命的な影響を与える可能性があるとされ、通電時間が長いほどリスクは高くなります。
直流(DC)は交流に比べてVFを起こしにくい反面、持続的な筋収縮や深部熱傷を起こしやすい特性があります。
(上記は代表的な目安であり、IECや各国の研究で示される条件により幅があります。通電時間や経路が重要である点に注意してください。)
感電事故の主な原因(現場でよくあるケース)
仮設電気設備の劣化や接続不良:仮設配線の被覆損傷、接続部の緩みや水の混入。
高所での電線接触:クレーンや足場、長尺物が送電線に接触することによる直接感電や誘導電圧の発生。
接地不良や誤配線:金属構造物や足場が帯電し、タッチ電圧・ステップ電圧が発生。
潮湿環境・雨天作業:濡れた手や靴底は抵抗を下げ、感電のリスクを増加させる。
作業中の工具や機械の電気故障:絶縁不良の工具や内部配線の断線。
高圧設備での作業ミス:遮断・接地処置の不備、短絡や誘導電圧への対策不足。
現場での応急処置(最優先は二次被害防止と125%の安全確保)
周囲の安全確認:まず自分の安全を確保する。通電が続いている場合、直接触れてはならない。
通電源の遮断:直ちに主開閉器やブレーカーで電源を切れる場合は切る。確実でない場合は停電要請を行う。
非導電物での分離:電源を切れない場合、木製ポールや絶縁性の棒などで被災者と電源を分離する。ただし素手での接触は厳禁。
救急要請:すぐに救急車を呼び、出血や意識状態、呼吸の有無を伝える。
心肺蘇生(CPR):呼吸・脈がない場合は直ちにCPR開始。AEDが利用可能であれば直ちに使用する。現場では二次感電に注意してから介入する。
やけどの処置:深い熱傷がある場合は乾燥・清潔を保ち、感染を防ぐ。水で洗い流すのは浅い熱傷であれば有効だが、広範囲の場合は専門医の処置を優先する。
(重要)電源が切れていない状態での直接搬送や触診は救助者も感電する危険があるため避けてください。
予防対策(設計・施工・維持管理の観点)
設計段階での対策
適切な保護継電器と漏電遮断器(RCD/ELB):人身保護用には30 mAトリップが一般的。感電事故を軽減する基本的な機器です。
接地(アース)設計:建屋や仮囲い、足場の接地を適切に設計して、タッチ電圧やステップ電圧を低減する。
機器配置と配線経路の最適化:仮設配線は歩行経路と切り離し、可燃物や水源から距離を取る。
施工段階での管理
仮設配線の保護と点検:被覆の損傷を防ぐ配管やケーブルカバーを使用し、日常点検を義務付ける。
ロックアウト・タグアウト(LOTO):機器整備や修理時は必ず電源遮断・施錠・表示を行う。
感電リスクのある作業は計画的に:作業前の危険予知(KY)ミーティングで電気リスクを明確化する。
維持管理・検査
定期的な絶縁抵抗測定、接地抵抗測定:劣化を早期に発見し、予防保守を行う。
漏電遮断器の動作試験:定期的に動作確認し、誤動作や作動遅延をチェックする。
個人防護具(PPE)と工具の使い方
絶縁手袋・絶縁靴:作業電圧に見合った定格のものを使用し、使用前後に損傷検査を行う。
絶縁工具:被覆が完全で損傷のないものを使用する。定期的に絶縁評価を行う。
絶縁マットや足場の接地:高電圧近傍での作業には電気用絶縁マットやグローブボックス等を検討する。
個人用保護具の点検と記録:ゴム製品は寿命や劣化があるため、記録に基づく管理を。
高圧・送電線周辺での特別対策
送電線近傍の作業では、接近限界距離や最小安全離隔を事前に確認します。クレーン等での作業では接触・アーク飛び火を防ぐための監視員(スポッター)配置、絶縁棒の使用、電力会社との事前協議による送電停止の取得等が必須です。送電設備自体の短絡・接地作業は資格者のみが行い、二重の安全手順(遮断→接地)を実施します。
教育と手順化 — 人為ミスを減らす仕組み
定期的な安全教育:全職員に対して基本的な電気安全、感電の危険性、応急処置の訓練を行う。
作業標準書(SOP)とチェックリスト:電源遮断、LOTO、工具点検などを標準化して遵守する。
インシデント報告と学習:小さなヒヤリ・ハットも報告し、再発防止策を現場で共有する。
事故発生後の対応と調査ポイント
事故後は救命処置の実施と並行して速やかに事実確認と保存(機器の状態、配線写真、作業ログ、目撃者陳述)を行います。再発防止のためには根本原因解析(ヒューマンエラーか設備故障か設計不良か)を行い、是正措置を速やかに実施・周知します。保険や法的な手続きが必要な場合があるため、会社の安全担当や法務と連携してください。
まとめ — 現場で命を守る実務的なポイント
最重要は「通電しているかどうかの確認」と「通電時に触れない」こと。
漏電遮断器や接地設備、LOTO、絶縁PPE、定期点検という多層防護で事故確率を下げる。
応急処置では電源遮断と安全確認、必要ならば非導電物での分離、CPRとAEDの使用を迅速に行う。
教育と手順化により人為ミスを減らし、インシデントから学ぶ文化を作ることが長期的な被害低減につながる。
参考文献
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