建築設計者向け：実務で使える「建具表」の作り方とチェックポイント（詳細ガイド）

2025年12月25日 最終更新日時 : 2025年12月25日 エバープレイ編集部

はじめに：建具表とは何か

建具表（たてぐひょう）は、建築図面や仕様書に付随して作成される一覧表で、建物に設置される扉・窓・間仕切り・収納などの建具（tategu）について、種類、寸法、材質、仕上げ、ハードウェア、性能（防火・遮音・断熱など）、備考などを明確に整理するためのドキュメントです。建築設計・施工・発注・維持管理の各フェーズで共通認識を持つため不可欠な情報基盤となります。

建具表の目的と役割

建具表の主な目的は次の通りです。

  • 設計意図の伝達：設計者の仕様を施工者やサプライヤーに正確に伝える。
  • 拾い出し・見積り：必要な建具の数量、種類、特殊仕様を一覧化して見積りや発注に活用。
  • 性能管理：防火性能、気密・断熱性能、遮音などの要求値を明示して品質管理や検査に役立てる。
  • 維持管理：将来の改修や部材交換の際に参照できる記録となる。

建具表に含める基本項目（必須項目）

実務で最低限必要とされる項目は以下の通りです。プロジェクトや建物用途により追加項目が必要です。

  • 建具番号（識別記号）: 図面と照合できるユニークな番号。
  • 名称（例：客用玄関扉、居室引戸、トイレ扉）
  • 種類／形式（開き戸、引戸、引違い、折戸、FIX窓、縦滑り出し窓 など）
  • 開閉方向・開閉方式（左勝手／右勝手、内開／外開、片引き／両引き）
  • 外形寸法（幅×高さ×厚さ、枠仕込み寸法や納まり寸法）
  • 枠仕様（枠材、見込み寸法、取付仕様）
  • 本体材質（木製、金属製、塩ビ、複合材など）
  • 表面仕上げ（塗装、シート貼、アルマイト、粉体塗装など）
  • ガラス仕様（複層ガラス、Low-E、型板、合わせガラス、防火ガラスなど）
  • ハードウェア（把手、鍵、ラッチ、ドアクローザー、ストライク、戸当たり、レール）
  • 性能（防火、耐風、遮音、断熱、気密等級や必要等級）
  • スロープ・段差処理（バリアフリー要件）
  • 数量・備考（納期、特注、製造指示など）

各項目の詳細解説（実務での注意点）

以下は各項目について実務設計者が押さえておくべきポイントです。

  • 建具番号：図面上の符号（例：D-101、W-201）と必ず整合させる。階層・連番規則を決めておくと施工段階での検索や発注ミスを防げます。
  • 寸法：開口部の仕上げレベル（仕上げ前か仕上げ後か）と一致させる。施工 tolerances を明記し、納まり寸法（枠取り付け後の有効開口）を併記することが重要です。
  • 材質と仕上げ：外部と内部で耐候・耐汚染性能の要求が異なる。木製建具は屋外や高湿環境では腐食対策が必要。アルミサッシは断熱材入サッシ・複層ガラス指定で熱貫流率（U値）向上を図る。
  • ガラス：防犯や防災用途では合わせガラス、飛散防止フィルム、網入りガラス、防火設備は防火・耐熱ガラス等の指定が必要。適用法令や大臣認定がある製品は明記する。
  • ハードウェア：把手高さ、ハンドル形状、障害者対応の要件（握力や操作力の考慮）を確認。オートクローザーや電気錠を使う場合は電気配線や電源仕様も記載する。
  • 防火・区画：火災時の区画扉には所定の防火性能（例：防火戸、耐火性能の等級や所要時間）が必要。建築基準法や消防法、地方自治体の基準に基づき明記する。
  • 遮音・換気：音環境が重要な用途（音楽室、会議室、病院等）ではRw値やドアの気密性、サッシュのシーリング仕様を明示する。

納まり・図面との連携

建具表は平面図・矩計図・開口詳細図・仕上表・電気配線図等と強く連携します。建具図（立面・詳細断面）に建具番号を明記し、実際の納まり（レベル、床仕上げとの取り合い、壁の仕上げ厚）を図面で示すこと。特に以下は注意点です。

  • 床仕上げの厚み変化（段差の有無）によるスロープや敷居処理。
  • 開閉クリアランス（扉の開閉時に必要なエリア、障害物干渉チェック）。
  • 電気設備との干渉（電気錠、カードリーダー、センサー等の設置位置と配線経路）。
  • 換気経路や窓の開閉による安全距離（外部に面する開閉窓の転落防止や隣地との距離）。

法規・基準のチェックポイント

建具に関連する主な法令・基準は以下の通りです。設計時には必ず最新の法令や告示、ローカルルールを確認してください。

  • 建築基準法（防火区画、避難経路、開口部制限など）
  • 消防法（避難口や防火設備の仕様）
  • 高齢者・障害者の移動等の円滑化の促進に関する法律（バリアフリー関連指針）
  • 各種JIS規格（ガラス、金属サッシ、ハードウェアの試験規格等）

BIM（Revit等）と建具表の関係

BIMを使うプロジェクトでは、建具のパラメトリックデータをモデルに持たせることで建具表を自動生成できます。利点は以下です。

  • 数量の自動集計と整合性の向上（図面と表が常に一致）。
  • 属性情報（性能値、部材品番、取付条件）をモデルに紐づけて発注や施工管理に活用可能。
  • 干渉チェックや施工検討が早期に実施できる。

ただし、BIMモデルの属性精度が低いと誤った建具表が生成されるため、属性定義（テンプレート）と運用ルールをしっかり作ることが重要です。

設計者が注意すべき実務的ポイント

  • 発注仕様と施工仕様の違いを明確化する（標準品の有無、特注の分離）。
  • 納期や現場採寸のタイミングを考慮する（特注建具は現場採寸後に最終決定することが多い）。
  • 交換・メンテナンス性を考える（ヒンジ交換やガラス交換の脱着方法、部材の入手性）。
  • 現場想定での取合いを必ず確認（配管・配線、架構との干渉）。
  • 製品保証や試験成績の有無（性能証明書や試験成績表の提出を求める）。

よくあるミスと対策

現場で頻発するミスと、それぞれの簡単な対策を挙げます。

  • 寸法の誤記入：図面と建具表の寸法基準を統一し、改訂時は両方を同時に更新する運用を徹底する。
  • ハードウェアの不足：必要なハードウェアリストを建具ごとに分けて発注リスト化する。
  • 防火性能の取り違え：防火扉と非防火扉を明確に色分けや注記で識別する。
  • バリアフリー基準違反：法令対応のチェックリストを用いてレビューを行う。

テンプレート例（項目一覧）

建具表の列例（プロジェクトに応じて調整してください）。

  • No
  • 建具記号
  • 名称
  • 形式
  • 寸法（W×H×T）
  • 枠材・見込み
  • 本体材質
  • ガラス仕様
  • 仕上げ
  • ハードウェア（把手、鍵、クローザー等）
  • 性能（防火／遮音／断熱等）
  • 数量
  • 備考（納期、現場採寸、特記事項）

品質管理と検査

竣工前の検査では、建具表に基づいて以下を確認します。

  • 建具番号・仕様が図面・建具表と一致しているか。
  • 開閉動作に異常がないか（スムーズさ、ガタ、干渉）。
  • 仕上げの不具合（キズ、塗膜欠損、シール不良）やガラスの欠陥。
  • 防火扉・遮音扉の性能試験記録や製造証明の確認。
  • バリアフリー基準、段差処理、把手高さ等の寸法確認。

維持管理と将来の改修を見据えた記載

建具表には、将来のメンテナンスや交換を見越した情報を残すことが望ましいです。具体的には、メーカー名、製品型番、発注元、交換部材の型番、設置年月、保守契約の有無などを残すと、改修や不具合対応がスムーズになります。

まとめ：実務で役立つヒント

  • 設計初期段階から建具表のフォーマットを決め、設計・施工・発注の関係者と合意しておく。
  • BIM活用時は属性設計を丁寧に行い、モデルと建具表の整合性を保つ。
  • 法令・基準・性能証明のチェックを怠らない。特に防火やバリアフリーは重大な法的要件。
  • 現場の実情（納まり、配線、躯体誤差）を考慮して、長めのリードタイムや現場採寸スケジュールを組む。

参考文献

国土交通省（MLIT）公式サイト（建築基準法や関連制度の最新情報）

e-Gov 法令検索（建築基準法等の法令原文）

LIXIL（製品情報・技術資料）（サッシ・建具製品の仕様例）

YKK AP（製品情報・技術資料）（アルミサッシ等の技術情報）

日本建築学会（AIJ）（設計・施工にかかわる指針・論文）

カテゴリー
建築・土木
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