建築・土木で知っておきたい「静圧」──原理・計算・設計への影響を徹底解説
静圧とは何か:定義と基礎原理
静圧(せいあつ、static pressure)は、流体や固体表面がその接触面に及ぼす、速度成分に起因しない圧力成分を指します。流体力学では、流速に伴う運動エネルギーに対応する動圧と区別され、圧力計で測定される“静的に働く圧力”が静圧です。静圧はパスカルの法則(等方的に伝わる)に従い、流体内部や容器壁に均一に伝播します。建築・土木の現場では、空気のダクト内圧、水圧、地盤の静止土圧など多様な場面で用いられる概念です。
静圧の基本式と単位
静圧を表す基本式の一例は、等方重力場下の静水圧:p = ρ g h(ρ:流体密度、g:重力加速度、h:基準面からの深さ)。この式から深さに比例して圧力が増加することが分かります。単位はSIでパスカル(Pa)が基本で、建築・空調分野ではkPaやmmH2O(mmAq)もよく使われます。換算例:1 Pa ≒ 0.10197 mmH2O。
動圧との違いとベルヌーイの関係
流体の流れを考えると、局所的な全圧は静圧と動圧(q = 1/2 ρ v²)の和として表されます(ベルヌーイの定理の一部)。例えばダクト内では、送風機が生む全圧を静圧と動圧に分けて考え、静圧はダクトシステム内の圧力損失や部屋の圧力勾配を決定します。設計では静圧が重要で、換気扇や空調機の選定は必要静圧を満たすことが前提です。
建築における静圧の具体的事例
- 空調(HVAC)・ダクト設計:ダクト内の静圧はフィルター、ダンパー、曲がり、分岐による抵抗で低下します。送風機は要求風量を満たすために所定の静圧を発生させる必要があり、ファン特性(ファン曲線)とシステム特性(システム曲線)の交点で運転点が決まります。
- 建物の気密・換気:室内外の静圧差は空気漏れ(浸入/漏出)を促進します。ブロワードア試験では屋内外の圧力を±50 Paなどに設定して気密性能を評価します。
- 煙突効果(スタック効果):高層建築では上下階で温度差により静圧差が生じ、上昇気流や逆流を引き起こします。これにより自然換気や煙の移動が変化し、扉の開閉・階段ピットの設計に影響します。
土木・地盤での静圧的概念
地盤・擁壁設計では、地盤から生じる横圧として「土圧」が問題になります。特に静止状態に近い場合に用いる静止土圧係数K0(Jakyの経験式:K0 ≒ 1 − sinϕ)を使って側圧を評価することがあります。地盤の水分が関与する場合は間隙水圧が働き、総土圧に加算されるため、排水や止水の配慮が必要です。
静水圧による構造への影響(擁壁・基礎の例)
貯水槽や擁壁に作用する静水圧は深さに比例して増加するため、壁背面に生じる力は三角形分布を示します。擁壁の設計では、この圧力分布からモーメントやせん断力を算定し、安全係数を確保します。地下室や床下の浮き上がり(アプリフト)対策としては、排水設備や重し(アンカー)、基礎の底板の厚さ増しが採られます。
設計で使う計算式・モデル(代表例)
- 静水圧:p(h) = ρ g h
- 土圧(深さzでの側圧):p = K γ z(γ:単位体積重量、K:土圧係数)
- ダクト内圧損(Darcy–Weisbach式):Δp = f (L/D) (ρ v² / 2)
- 動圧:q = 1/2 ρ v²。全圧 = 静圧 + 動圧
実務的な計算例(空調ダクトの簡易計算)
例:空気(ρ≈1.2 kg/m³)を流すダクトで風速v=5 m/s、径D=0.2 m、長さL=20 m、摩擦係数f=0.02とすると、動圧q=0.5×1.2×5²=15 Pa。Darcy–Weisbachにより摩擦損失Δp=f (L/D) (ρ v² /2)=0.02×(20/0.2)×15 ≒ 30 Pa。これに局部損失(曲がり、枝管等)を足した値が必要静圧となり、送風機の到達静圧を決めます。
静圧の測定法と計器
静圧はマノメータ(U字管、傾斜マノメータ)、差圧計、圧力トランスデューサ、ピトー管(静圧取り出しと動圧測定)などで測定します。現場ではデジタル差圧計や捕風口圧計が多用され、精度、応答速度、温度補正・校正履歴が重要です。測定時には静圧のゼロ基準(大気圧との差)を統一することが必要です。
静圧が設計に与える影響と対策
静圧を誤ると送風機の能力不足、過大な電力消費、室内圧バランスの崩壊、結露・カビ発生、地盤設計の過小評価などにつながります。対策としては:
- ダクト径の適正化、曲がりの最小化、スムーズな継手採用で圧損低減
- フィルタや熱交換器の圧力損失管理と定期交換
- 送風機選定時に安全余裕のある静圧マージン設定
- 地盤では排水(ウェルポイント、床下排水)・止水層の設計
- 建物ではバランス換気、気密施工、圧力制御ダンパーで圧差管理
設計・施工時の注意点とトラブル事例
典型的なトラブルには「フィルタ目詰まりで静圧上昇→送風量低下」「改修でダクト経路が増え静圧が増加→換気不足」「地下躯体での想定地下水位上昇による浮力発生」などがあります。事前のシミュレーション(CFDや風洞試験)、施工後の測定による検証、運用時のメンテナンス計画が重要です。
まとめ:設計での実務的な位置づけ
静圧は単純な「圧力」の一語以上の意味を持ち、空調・換気、地盤・擁壁、水槽設計、建物の気密性能評価など建築・土木の多くの局面に直接影響します。理論(静水圧、ベルヌーイ、ダルシー・ワイスバッハ)を理解し、現場計測と連動させることで安全で省エネな設計が可能になります。
参考文献
- ASHRAE Handbook(空調・換気技術の基本と設計指針)
- 静水圧 - Wikipedia
- Darcy–Weisbach式 - Wikipedia
- Jakyの式(K0 ≒ 1 − sinφ) - Wikipedia
- ISO standards(計測器・圧力計校正基準)
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