伏図とは何か：建築・土木の設計と施工をつなぐ“伏せ”の役割と作成・確認の実務ガイド
エバープレイ編集部はじめに：伏図（ふくず）とは何か
伏図は、建築や土木において構造部材（梁、桁、床梁、根太、小屋組、配筋、基礎パイル等）の配置・断面・継手・接合・補強・寸法などを平面・断面の形式で表した図面群を指します。平面的な配置を示す「伏せる（敷設する）」という語感からきており、設計図（意匠図）と施工現場をつなぐ重要な役割を担います。伏図が適切に作成されていないと、構造的な不整合や施工ミス、手戻りが発生しやすくなります。
伏図の主な種類と用途
- 梁伏図（梁配筋図）：梁の位置、断面、スパン、補強筋の配置や継手長さ、フランジ・ウェブ等の詳細を示します。RC造（鉄筋コンクリート）やS造（鉄骨造）それぞれで表現要素が異なります。
- 床伏図（床組図）・小屋伏図：床梁や根太、小屋組（屋根の梁組）などの配置を平面で示し、架構の流れや荷重伝達経路を把握します。
- 基礎伏図：基礎形状、ベースサイズ、配筋、アンカーボルト位置、地業（杭・柱状地盤改良）の配置などを示します。
- 配筋伏図（配筋図）：RC部材における配筋の本数・径・間隔・フック長・かぶり厚さなどを詳細に記載します。現場の配筋検査・型枠施工に不可欠です。
- 梁伏図（鉄骨）：鉄骨の継手、ボルト・溶接詳細、部材番号、組立順序・仮固定位置など、組立施工に関わる情報を含みます。
伏図に含めるべき基本要素
各種伏図に共通して必要な情報は以下の通りです。
- 図面タイトル、階高（位置）、縮尺、図面番号
- 座標またはグリッドライン（柱芯寸法）と基準線の明示
- 部材の材質・断面形状・部材番号
- 寸法（スパン、長さ、開口、かぶりなど）および公差
- 接合詳細（継手、溶接、ボルト、プレート等）
- 補強・補助部材の配置と寸法
- 配筋図では鉄筋径、間隔、曲げ加工形状、定着長さ、継手位置
- 施工上の注意事項（施工順序、仮設条件、荷重制限、検査ポイント）
伏図の描き方・作成プロセス（実務の流れ）
伏図作成は構造設計→伏図作成→施工図（詳細図）→現場施工という流れで進みます。実務的なポイントは次の通りです。
- 構造計算との整合：主要部材の断面や補強は構造計算書で導出されます。伏図はそれらの結果を現場で実現可能な形に落とし込む作業ですから、構造設計者と伏図作成者（主任設計者・施工者）が整合をとる必要があります。
- グリッドと基準高の設定：柱芯グリッドや基準レベル（GL、FL、RL）を明記して、他の図面（意匠図・設備図）と座標を一致させます。
- 寸法と余裕の確保：配筋や組立のための施工余裕（工具・作業スペース）、かぶり厚さ等の最小寸法は法規・仕様に従って確保します。
- 詳細図・断面図の併用：複雑な継手や開口周辺は部分詳細図で拡大して示します。
図記号・表記の注意
伏図には多くの図記号や略記が使われます。一般的に図面の凡例（レジェンド）を付け、使用する符号や線種、寸法の単位、鉄筋の呼び方（SD295, SD390等）や形状コードを明示します。特に配筋図では、鉄筋の呼び径（D10など）、折曲げの基準（90°フック長）、定着と継手長のルールを明示しておくことが重要です。
法規・仕様との関係（留意点）
伏図自体が直接法令の条文を規定しているわけではありませんが、建築基準法や各種告示、JIS・仕様書に準拠した設計・施工が前提です。例えばコンクリートのかぶり厚は耐火性や耐久性、耐震性能に関わるため、使用する仕様書や設計基準に従う必要があります。伏図はその実行手段として、法令・設計基準に従った寸法・材料・補強を明示していることが求められます。
BIM・CADと伏図の変化
近年はBIM（Building Information Modeling）や3D-CADの普及により、伏図の作成・確認プロセスが変化しています。3Dモデルから自動生成される伏図は干渉チェックや数量算出がしやすく、設計段階での矛盾発見が早まります。ただしモデル精度（LOD: Level of Development）や属性の正確さが不十分だと、現場での齟齬を招くため、モデル管理と属性ルールの運用が不可欠です。
現場での利用方法と検査ポイント
現場では伏図を基に配筋検査、型枠チェック、梁・継手の取り付け、アンカーボルトの位置確認等を行います。検査時の主なチェック項目は以下の通りです。
- 部材位置が図面（グリッド）通りであるか
- 配筋径・本数・間隔・かぶり厚さが図面通りか
- 継手・定着長さ・フック等が適正か
- アンカーボルトの埋め込み深さ・位置・芯ずれの有無
- 施工上の注意（仮支保工・荷重制限）に従っているか
よくあるミスと対策
伏図での間違いは、誤配筋や部材干渉、施工手戻りの原因になります。典型的な誤りとその対策は次の通りです。
- 寸法間違い：グリッド基準の食い違いが原因。対策は基準線の統一と図面内凡例の明示。
- 配筋干渉：設備配管やスリーブとの干渉が発生。対策は設備図との連携と早期の干渉チェック（モデル合成）
- 継手・定着の不足：構造計算結果との整合不備。対策は構造設計者とのレビューとチェックリスト運用。
- 現場での読み誤り：図面の可読性が低い。対策は拡大詳細図の充実と注記の明確化。
作成品質を上げる実務的なチェックリスト
伏図作成時に有効なチェック項目を簡潔に示します。
- 図面タイトル・階情報・縮尺が明記されているか
- グリッド・基準高・座標が他図面と整合しているか
- 部材番号と材料・断面が明確に示されているか
- 寸法が施工側で読みやすい配置になっているか（重複や省略がないか）
- 継手・定着・溶接・ボルト等の詳細が十分に記載されているか
- 品質管理・検査のためのチェックポイントが注記されているか
- 干渉チェック（設備・意匠）を行い、必要な修正が反映されているか
施工者・設計者間のコミュニケーションと管理
伏図は設計者と施工者のコミュニケーションツールです。設計段階での暗黙知をできるだけ明文化し、変更履歴（REV）や伝達事項を図面上に残すことが重要です。変更が発生した場合は必ず図面改訂を行い、現場での確認サインを取得する運用を整備してください。
結び：伏図は“現場の言語”である
伏図は単なる図面以上の意味を持ちます。設計意図を現場で安全かつ効率的に実行するための合意図書であり、品質確保・工程短縮・コスト管理に直結します。BIMや自動化ツールが進んでも、最終的には人が図面を読み、判断し、調整するプロセスが残ります。だからこそ、明瞭で一貫性のある伏図作成と現場での運用ルールの整備が重要です。
参考文献
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