溶融亜鉛めっき(ホットディップガルバナイズ)の技術解説と設計・施工上のポイント

概要:溶融亜鉛めっきとは

溶融亜鉛めっき(ホットディップガルバナイズ)は、鉄鋼製品を溶融した亜鉛浴(一般に約440〜460℃程度)に浸漬し、鉄素地と亜鉛が反応して形成される合金層と外層の純亜鉛層によって被覆する防食処理です。亜鉛は犠牲防食作用(陽極的保護)と物理的な被覆による遮断効果の二重防食を発揮するため、構造物や鋼製部材の長期耐食性を確保する手法として広く用いられています。

プロセスの詳細

一般的な溶融亜鉛めっきの工程は次の通りです。

  • 脱脂:油脂や汚れをアルカリ溶液などで除去。
  • 酸洗(ピクル):塩酸等で酸洗して酸化皮膜やスケールを除去。
  • フラックス処理:酸洗後にフラックス(塩化亜鉛・塩化アンモニウム等)で表面を保護し、亜鉛浴での活着を助ける。
  • めっき浴浸漬:溶融亜鉛浴(通常約440–460℃)に所定時間浸漬。
  • 排上げ・冷却:引き上げ後、余分な亜鉛を落として冷却・固化。
  • 後処理(必要に応じて):研磨や塗装(デュプレックスシステム)、検査。

各工程の温度・時間・化学薬品の管理が品質に直結します。特に酸洗やフラックス処理の不備は付着不良やピンホール、白錆(亜鉛白色化)などの原因になります。

めっき層の構造と化学組成

めっき膜は鉄と亜鉛の反応により複数の相層(内層の合金層:Gamma(Γ)、Delta(δ)、Zeta(ζ)相など)と最外層の純亜鉛(Eta(η))で構成されます。合金層は基材との密着性が高く、機械的付着強度の源です。合金層の厚さや組成は鋼材の元素組成(特にケイ素やリンの含有)やめっき条件によって大きく変わります。例えば、Siの含有がある範囲だと過剰な反応で厚い合金層ができやすくなります(いわゆる“Sandelin効果”)。

めっき厚と耐食性能

めっき層の厚さは耐食寿命に直結しますが、用途や規格によって最適な厚さは異なります。一般に厚いめっきは耐食性が高い一方で、寸法公差や溶接性、表面仕上げへの影響が出ます。像的には構造鋼部材で数十µm〜百数十µmの範囲が多く、仕様はISOやASTMなどの国際規格、あるいは発注者の要求に基づいて決められます。亜鉛は犠牲防食作用により、めっき面が損耗しても基材を守るため、適切に設計されれば数十年の耐用寿命が期待できます。

長所(メリット)

  • 長期耐食性:犠牲防食により切断部や傷からも防食効果が働く。
  • 工程の一体化:めっきは部材を一括処理でき、複雑形状にも被覆可能。
  • 初期費用対効果:耐久年数が長いため、ライフサイクルコストが低くなる場合が多い。
  • 現場での維持管理が容易:表面的な被覆で目視検査が行いやすい。

短所(デメリット)・制約

  • 高温処理のため、熱に弱い部品や溶接済みの組立品には不適切な場合がある。
  • めっき浴への浸漬形状制約(空気抜きや溶湯閉塞の防止)により、適切な通気穴やドレンを設計段階で考慮する必要がある。
  • 外観の制御:光沢や均一な外観が必要な場合、追加の仕上げや塗装が必要。
  • めっき後の溶接性や塗装性:合金化した表面は直接の塗装付着が悪い場合があり、サンドブラストやプライマーが必要になることがある。

よく起きる欠陥と対策

  • 白錆(白化):長時間湿潤環境で亜鉛がリン酸塩化合物などを生成して白色化。十分な乾燥・塗装や現場保護で対策。
  • 付着不良(剥離):脱脂・酸洗不良やフラックス不足が原因。前処理工程の管理強化が必要。
  • ふくれ・ぶつぶつ(ブロービング):溶湯中の縮みガスや溶接スパッタ残留が原因。十分な前処理と適切な排気設計。
  • 過剰な合金化:鋼中のSiやPによる過剰反応で硬く脆い層ができる。鋼材選定やめっき条件の調整で回避。

設計段階でのポイント(めっきしやすい設計)

施工性を高め、欠陥を防ぐために設計時に次のポイントを考慮してください。

  • 通気孔・ドレンの設置:溶湯が安全に抜け、気泡が生じないようにする。
  • 結合部の配慮:複雑な空洞や狭隘部はめっき不良の原因。分割してめっき、組立てることを検討。
  • 溶接と後処理:溶接後にめっきするのが原則(溶接後の歪や熱影響をめっきで保護)。
  • 寸法公差の見直し:めっき厚を考慮したクリアランスやねじの嵌合設計。

めっき後の仕上げとデュプレックスシステム

めっき単体でも高耐久ですが、めっき+有機塗膜(デュプレックスシステム)を併用すると美観とさらに向上した耐食性が得られます。めっき面を化学処理やプライマーで下地調整してから塗装することで、接合部やキズからの腐食進行を長期に抑制できます。

品質管理と検査方法

  • 外観検査:均一性、垂れ、ピンホール、付着不良の有無。
  • 膜厚測定:磁気式や渦電流式の膜厚計で測定。スペックに基づく最低厚確認。
  • 付着試験:引張・曲げ試験等で付着強度や割れを確認。
  • 腐食試験:塩水噴霧試験等での比較評価(ただし実環境と差がある点に留意)。

環境影響とリサイクル

溶融亜鉛めっきプロセスでは亜鉛の消費と排ガス・排水管理が課題になります。多くのめっき業者は浴の管理、飛沫捕集、排水処理設備や亜鉛回収を行っています。亜鉛はリサイクル可能であり、めっき廃材やスクラップの回収・再溶融が一般的で、資源循環の観点からも優れた処理法です。

他のめっき法との比較

  • 電気めっき(エレクトロギャルバナイズ):薄膜で寸法制御が容易。濃度較差や犠牲防食効果は溶融めっきに劣る。
  • ガルバニール(ガルバニールめっき・溶融めっきと熱処理の組合せ):亜鉛鉄合金層を表面に形成し、塗装性を向上。
  • シャラーディング(熱拡散めっき):粉末亜鉛を高温で拡散させる方法で、小物部品に適する。

仕様書・規格(設計・調達上の留意点)

めっき仕様は耐食設計、部材形状、施工順序に応じて国際規格(例:ISO 1461)、地域規格(ASTM A123/A123M 等)や発注者基準に沿って明確に記載する必要があります。仕様には最低膜厚、下処理条件、検査方法、不適合時の対応などを含めます。現場での最終組立てや溶接の有無もめっき工程に影響を与えるため、設計段階で施工者と十分な協議を行ってください。

まとめ

溶融亜鉛めっきは、長期耐食性とコスト面で有利な防食方法であり、鉄鋼構造物・橋梁・外装・小物部品など広範囲に適用可能です。ただし、前処理の管理、鋼材の選定、設計段階でのめっき施工性の配慮が不可欠です。適切な仕様と施工管理を行えば、めっきは数十年にわたって安定した防食性能を提供し、ライフサイクルコストの削減に寄与します。

参考文献