建築・土木で起きる「エア噛み」とは?原因・判別・予防・対策を現場目線で徹底解説
はじめに:エア噛みの重要性
建築・土木の現場でしばしば遭遇する「エア噛み(エアロック、エアポケット)」は、一見小さなトラブルに見えて工程の停滞、品質低下、設備損傷や安全リスクにつながることが多く、事前対策と迅速な復旧が不可欠です。本稿では、コンクリートポンプ・グラウト・配管・掘削等、現場で問題になる主要な場面ごとにメカニズム、原因、診断方法、予防策および対処手順を詳しく解説します。
1. エア噛みとは何か(定義と分類)
エア噛みとは、流体を移送する系内に空気(または気体)が入り込み、連続した流れを阻害する現象を指します。英語では air lock や air pocket と呼ばれ、次のように分類できます。
- 機械的・動力系でのエア噛み:コンクリートポンプ、グラウトポンプなどの圧送装置内部での空気混入による圧送停止や吐出不良。
- 配管系のエア噛み:上下方向の配管・長距離送水で空気が溜まり、流量低下・水撃(ウォーターハンマー)や弁の誤作動を引き起こすもの。
- 掘削・注入作業でのエア噛み:ボーリングや注入孔での気泡混入により測定誤差や充填不良を生じるケース。
2. コンクリートポンプでのエア噛み(現象と原因)
コンクリート圧送では、ポンプの吐出が途切れる、ホース内が脈動する、大きな音がする、圧力が急変する等が典型的症状です。主な原因は以下の通りです。
- ホッパーやホース内部への空気混入:供給側で空隙ができるとポンプが空気を吸い込み、圧送ができなくなる。
- 配管・ホースの接続部や継手のシール不良:継ぎ目から空気を取り込む。
- ポンプの吸引工程での不十分なプリミング(予備充填):ポンプ側が十分にコンクリートで満たされていない。
- 非常に低いスランプや粗骨材の偏析:材料性状が悪く圧送中に空隙を作る。
- 長距離・高押送時の負圧とキャビテーションに近い現象:局所的に液柱が切れて気泡が発生する。
3. 配管・送水系でのエア噛み(影響と対処)
配水・送水管では、空気が上部の高所やトラップ形状に溜まり、流れの阻害や弁の誤動作、騒音や管内衝撃(ウォーターハンマー)を引き起こします。影響と対応は次の通りです。
- 影響:流量低下、圧力脈動、局所的な腐食促進、メータ計測誤差、弁の固着や破損。
- 対策:配管設計で常に空気が逃げるよう勾配を取る、エア抜き(自動エアベント)や真空エア弁の設置、定期的な除気・点検。
4. グラウト・注入作業でのエア噛み(品質管理上の問題)
グラウト注入や薬液注入の際に空気が入ると、注入体積の誤差、充填不良、強度不足、注入圧の異常などが起きます。特に地中注入では空気が抜けずにボイドを残すと確実な改良ができません。
- 原因:注入ポンプの吸込みや配管の密閉不良、注入速度が速過ぎて混合槽で気泡を捕捉する。
- 対策:注入前のベンチング(プレフラッシング)で穴内の空気を積極的に抜く、ベントホースや地表への排気管を設ける、注入圧と流量の制御。
5. エア噛み発生時の現場での診断フロー
実際にトラブルが発生した場合、優先的に確認すべきポイントをフロー化します。
- 症状確認:音(バルブ音や脈動)、吐出量の低下、圧力計の急変、ホースの振動。
- 供給側をチェック:ホッパー、混練・ミキサーの供給状態、スランプ、骨材の偏分。
- 配管・継手点検:シールの緩み、ガスケット破損、急な曲げや凹み。
- ポンプ内部確認:プリミング不足、吸込み弁の摩耗、シリンダ内部への異物。
- 簡易復旧策を実施:低速でのリプライミング(再充填)、ベント開放、短時間の逆送(安全基準に従う)。
- 改善不可の場合は作業停止→機器メーカーへ連絡し点検・修理を依頼。
6. 予防策(設計・施工・維持管理の観点)
エア噛みを防ぐには設計段階での配慮、施工時の手順、日常メンテナンスの三位一体が重要です。
- 配管・ホースの設計:勾配とベントポイントの確保。高所に自動エア抜き弁を配置。
- 機器仕様:ポンプのプリミング性能、逆止弁やプライミングバルブの設置、耐圧と耐摩耗性を考慮。
- 材料管理:コンクリートの適正スランプ、混和剤の使用基準、原材料の均一供給。
- 施工ルール:供給開始前の予備流し(フラッシング)、継目の締付けトルク管理、ホースの曲げ半径管理。
- 保守点検:定期的にエアベント弁の機能試験、圧力・流量センサの校正、接続部の締め付け確認。
7. 現場で使える具体的な対処手順(コンクリートポンプの例)
緊急時の一般的な手順(各メーカーや現場ルールに従ってください):
- 作業員の安全を確保し、必要に応じて機械を停止する。
- ホッパーのコンクリート状態を確認。供給不足ならミキサーで追い入れ、充填を行う。
- 圧力計と吐出側の目視で気泡の有無を確認。ホース先端からの空気噴出がないか点検。
- プリミングを再実施:ポンプの指示に従いゆっくりと充填し、空気を押し出す。
- 改善しない場合は、接続部を一つずつ点検・増し締めし、必要ならホース交換。
- 復旧後は低負荷で様子を見て、圧送条件を徐々に戻す。
8. モニタリングとセンサー技術の活用
最近はIoTやセンサーで早期検知が可能になっています。圧力変動や振動の異常値、流量計のパルス欠損を遠隔監視することで、エア噛みの早期警報が出せます。特に長距離圧送や夜間作業では有効です。
9. 安全上の注意点
エア噛みへの対応中は以下に注意してください。
- 無理な逆流や強引な締め付けは機器破損や人身事故につながるため避ける。
- 高圧下でのホース交換や継手操作は必ず圧力を抜いてから行う。
- 復旧後も試運転を行い、異常振動や温度上昇がないか確認する。
10. 事例と教訓(現場でよくあるケース)
よくある事例として、夜間に長距離で圧送した際のホース高所部で空気が溜まり、圧送が途切れてライン洗浄が必要になった例があります。原因は接続部の増し締め不足と、供給スランプが低下していたこと。教訓は「基本手順の徹底」と「作業前のチェックリスト運用」です。
まとめ:現場力で予防・迅速対応を
エア噛みは小さな現象に見えて作業の遅延、コスト増、機械トラブルを招きます。設計段階での排気配慮、材料・機器の選定、施工時のプリミングと点検、そしてIoTを使った監視体制があればリスクは大幅に低減します。現場のオペレーターが原因を特定しやすいように、トラブル発生時の標準手順(SOP)を整備しておくことが最も効果的です。
参考文献
- Air lock (fluid mechanics) — Wikipedia
- Cavitation — Wikipedia
- Putzmeister(コンクリートポンプメーカー)
- Schwing(コンクリートポンプメーカー)
- American Water Works Association(配管・エアバルブに関する資料)
- Singer Valve(エアリリース弁メーカー)
- 一般社団法人日本コンクリート工学会(JCI)
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