流量計の種類と選び方:建築・土木で使う計測法の原理・設置・保守ガイド
流量計とは — 土木・建築分野における役割
流量計(りゅうりょうけい)は、水や汚水、蒸気、空気、薬液などの流体が単位時間当たりにどれだけ流れているかを計測する計測器です。建築・土木分野では上水道・配水・下水処理・雨水排水・河川管理・給排水設備・空調配管など、流量管理が品質・安全・コストに直結する場面が多く、適切な流量計の選定と設置・保守が重要になります。
基本的な計測原理と代表的な流量計の種類
- 差圧式(オリフィス、ベンチュリ、ノズル)
管断面に人工的な絞りを設け、上流と絞り下流の圧力差から流量を算出します。ISO 5167 系の規格に基づく計測法で、広く標準化されています。長所は構造が簡単で低コスト、短所は圧力損失と設置の直管長要求、流体汚れや摩耗に対する精度低下です。典型的精度は数%、ターンダウン比は3:1〜5:1程度。
- タービン式
流れにより回転子を回し、その回転数を流量に換算します。応答性・精度が比較的高く(±0.5〜1%程度)、ターンダウンは10:1 前後。ただし可動部の磨耗や汚れに弱いこと、直管長の確保が必要です。
- 電磁式(電磁流量計)
ファラデーの電磁誘導の原理で流速に比例する電圧を測定します。導電性のある流体(一般に導電率が数μS/cm以上が目安)であれば、非接触で圧力損失が無く、内部可動部がないため保守が容易です。精度は±0.5〜1%程度、ターンダウン大(メーカーによる)で上下水道で広く用いられます。ただし、配管が完全に満たされていることが必須で、導電率が低い液や気体には適しません。
- 超音波式(トランジットタイム / ドップラー)
トランジットタイム方式は上流と下流の音速差を利用し、清澄な液体に高精度(±1%程度)で使用できます。ドップラー方式は微粒子や気泡のある流体に適しますが精度は劣る場合があります。クランプオン型は配管を切断せず外付け可能で工事負荷が小さいのが利点です。
- コリオリ式
管路の振動によって生じるコリオリ力を検出し、質量流量を直接計測します。流量・密度・温度を同時に取得でき、精度が非常に高く(±0.1% 程度)、油や薬液などの品質管理や試験計測で採用されます。高価で重量があり、非常に大きな流量には不向きです。
- 渦流式(ボロメーター)
円柱などで発生する渦の周波数を計測して流速を求めます。蒸気や液体の中流域で広く用いられ、機械的摩耗が少ない反面、流れが乱れると精度低下します。
- 容積式(ピストン・ロータリ/ポジティブ・ディスプレイスメント)
決まった体積を区切って流体を運ぶ方式で、ガス以外の液体の課金や高精度が要求される用途(燃料計量など)に用いられます。高精度ですが構造が複雑で保守が必要です。
- 可変面積式(ロタメータ)
フロートが上昇する位置で面積と流量を対応させるシンプルな目盛り読み方式。小流量・現場の簡易観測に向きますが、精度は機種によって幅があります(±1〜5%)。
- 開水路用(堰・フランプ)
下水や河川の流量は、矩形堰・三角堰・フラップゲートやフルーム(モルスフルーム等)で水位と流量の関係を使って算出することが多いです。泥や藻などの堆積に注意が必要です。
選定の際に確認すべきポイント
- 計測対象の流体特性:液体か気体か、導電率、腐食性、研磨性、含有固形物(砂・スラッジ)や気泡の有無、温度・粘度。
- 計測レンジ(最低流量〜最大流量)、必要な精度(例:請求・課金用途は高精度、運転監視なら許容幅大)。
- ターンダウン比(最大流量に対する最小有効流量の比)と応答性。
- 設置環境:屋内外、凍結、振動、アース接続、爆発危険区域など。
- 設置の自由度:直管長の確保、配管の材質・内径、取り外しや検査の容易さ。
- 保守・校正の頻度と現場での可用性(交換部品、可動部の有無)。
- 導入コストと長期的ライフサイクルコスト。
設置上の注意点(実務的アドバイス)
多くの流量計は上流・下流の配管状態(エルボー、ポンプ、バルブなど)による乱流に弱く、直管長が設置精度に大きく影響します。一般的な目安として、差圧式やタービンは上流に10D、下流に5D(Dは管径)を確保することが推奨されることが多いです。電磁式は比較的短く済み(上流5D/下流3D 程度)、コリオリ式は直管長の制約が少ないという利点があります。ただしこれらの数字はメーカー指示に従うべきです。
電磁式では配管が完全に満たされていること、アースリングや接地が必要な場合があることに注意してください。超音波のクランプオン型は配管材質・肉厚・外部汚れで転送損失が発生するため事前の現場確認が重要です。差圧式はベータ比(絞り径比)や基準温度圧力の補正が必要です。
メンテナンスと校正
流量計の精度維持には定期的な点検と校正が不可欠です。校正方法は機種により異なり、標準器(マスターメーター)、プローバ(流量校正装置)、または重量法(小流量の試験室)などがあります。上下水道用途など法的に要求される計測は、計測器検定や校正証明書が必要になる場合があります。
現場トラブルの典型例と対策:
- 気泡や空洞:電磁式・超音波で誤差。気泡抜きや空気分離器、配管の空気抜きが必要。
- スケール・堆積物:流路を詰まらせると差圧式やタービンの精度低下。定期清掃・逆洗やサンプリングポート設置。
- 摩耗:砂混入が多い場合、タービンやオリフィスは摩耗で再校正が必要。耐摩耗材や非接触式の採用検討。
- 凍結:屋外の配管では防寒措置や追い焚き・保温が必要。
土木・建築での具体的な活用事例
- 都市配水・給水:電磁流量計が配管の損失が少なく広く使われる(検針・漏水管理)。
- 下水処理:固形物やスラッジを含むためドップラー式や堰・フルームでの開水路計測が多い。
- 工事現場の一時用水や泥水:耐摩耗性の高い流量計や分岐計測器を利用。
- 空調・暖冷房設備:熱量計(流量×温度差)としてコリオリや電磁式と温度センサを組合せる。
- 浸透・灌漑施設:大口径では超音波や電磁式、オープンチャネルでは堰・フルーム。
選定のフロー(実務者向けチェックリスト)
- 計測対象と必要精度を明確化する。
- 流体の物性(導電率、温度、固形物)を確認する。
- 現場の配管(材質・内径)、直管長の確保可否を確認する。
- 運用コスト(消耗品・校正頻度)と初期コストを比較する。
- メーカーの仕様書・取付マニュアルに基づき候補機種を絞り込む。
- 可能ならば現地でのトライアル導入や事前検証を行う。
まとめ
流量計は一見単純な機器に見えますが、流体特性・設置環境・用途(課金・監視・制御)に応じて最適な計器を選ばないと長期的に誤差や保守負担を招きます。土木・建築分野では特に、汚れや気泡、堆積物など現場特有の要因を考慮すること、設置条件(直管長やアース処理)を満たすことが重要です。機種ごとの原理と長所短所を把握し、メーカーの技術資料と現場試験を組み合わせて選定・運用することを推奨します。
参考文献
- Endress+Hauser: 流量計の概要(技術情報)
- Yokogawa: Flow measurement 製品・基礎知識
- ISO 5167: Differential pressure flow measurement standards
- The Engineering Toolbox: Flow measurement overview
- USGS: Measuring streamflow(開水路計測の基礎)
- Emerson: Flow Measurement Technologies
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