ジャズ・オルガン入門:歴史、技術、名演と現代への広がり(Hammond B-3を中心に)
ジャズ・オルガンとは何か ― 概要と定義
ジャズ・オルガンとは、主にハモンド社製の電気オルガン(特にHammond B-3)と回転スピーカー(Leslie)を組み合わせて生まれた独特のサウンドを用いるジャズの演奏様式を指します。電子音源全般を含めることもありますが、歴史的にはトーンホイール式ハモンドオルガンの音色とレスリー・スピーカーのドップラー効果がその核となってきました。
歴史的背景と発展
ハモンド・オルガンは、発明家ローレンス・ハモンド(Laurens Hammond)によって1930年代に開発され、商業的に広まりました。1950年代以降、ジャズ界での採用が進み、特に1950年代後半から1960年代にかけて、ジミー・スミス(Jimmy Smith)らがハモンドB-3を用いて商業的・芸術的成功を収めたことで、ジャズ・オルガンというジャンルが確立されました。
1960年代にはソウル・ジャズのシーンと結びつき、ブルースやゴスペルの要素を取り入れた演奏スタイルが人気を博しました。その後、1970年代のロックやフュージョンにおいても、ジョン・ロード(Deep Purple)やリック・ウェイクマンらがオルガンのサウンドをロックに応用しました。1980年代以降はエレクトロニックな代替機器やデジタル・モデリングが普及しましたが、1990年代から2000年代にかけてジョーイ・デフランチェスコらによるリバイバルが起き、現在も多様な表現で生き続けています。
機構とサウンドの仕組み
ハモンド・オルガン(トーンホイール式)は、内部に多数の回転するトーンホイールと、各トーンホイールに対して配置されたピックアップによって音波を生成する電気機械的な楽器です。各鍵盤は複数のハーモニクス(倍音)を引き出すための引き棒(ドローバー)で音色を合成します。ドローバーの位置や組み合わせによって、温かみのあるパッドから鋭いリード的な音まで多彩な音色が作れます。
また、ハモンド特有の「キー・クリック」や「ハーモニック・パーカッション」といった要素がアタック感を生み出し、レスリー・スピーカー(回転スピーカー)を通すことで、揺らぎ(ビブラート/コーラス的効果とドップラー効果)を加え、独特の生々しい立体感が得られます。レスリーは内部に回転するローターを持ち、高速・低速の切り替えやブレーキ操作でダイナミクスと色合いの変化を生みます。
演奏技法と役割
ジャズ・オルガンは単なる伴奏楽器に留まりません。以下のような役割と技術が特徴です。
- ベースラインの担当:左手やフットペダルでウォーキング・ベース(あるいはオスティナート)を弾き、ベーシストがいない編成でも低音を担う。
- コンピング(伴奏):右手や内鍵盤でコードの打鍵やリズミックなカッティングを行い、ドラムやソロ奏者と密接に絡む。
- ソロ奏法:シンコペーションやブルーノート・スケールを駆使したフレーズ、オルガン特有の得意技であるグリッサンドやオルガン・サステインを用いる。
- ペダルワーク:足鍵盤(ペダルボード)を用いる場合、右手と左手に加えて足で低音を補強するトリプルタスクが求められる。
編成:オルガン・トリオとその魅力
ジャズ・オルガンの代表的な編成はオルガン・トリオ(オルガン、ギターまたはサックス、ドラム)です。ベースが不在でもオルガンがベース・ラインを担うため、非常にスリリングでタイトなインタープレイが可能になります。ギターやホーンとの掛け合い、ドラムとのロック的なグルーヴ感がソウル・ジャズの骨格を作っています。
主要な奏者と名盤(入門ガイド)
ジャズ・オルガンを語る上で欠かせない奏者と、その代表作の例を挙げます(詳細は各リリース情報を参照してください)。
- ジミー・スミス(Jimmy Smith):1950年代以降、B-3をジャズの前面に押し出した立役者。ブルーノートでの録音群は入門に最適です。
- ラリー・ヤング(Larry Young):ハードバップからモーダル/フリー寄りの語法へ移行し、1964年の重要作『Unity』などで新たなハーモニーを提示しました。
- シャーリー・スコット(Shirley Scott)、ジャック・マクダフ(Jack McDuff)、ドクター・ロニー・スミス(Dr. Lonnie Smith)なども各時代で重要な貢献をしています。
- 現代の奏者ではジョーイ・デフランチェスコ(Joey DeFrancesco)、コリー・ヘンリー(Cory Henry)らが伝統と革新を結びつけています。
機材とメンテナンスのポイント
トーンホイール式ハモンドは構造的にメンテナンスが必要な楽器です。摩耗する接点(キートランジスタ)、摩耗するギアやブラシの調整、レスリーの整備などが定期的に要求されます。一方で、現代ではデジタル・モデリングやエミュレーター(Hammond-Suzukiの現行モデルやNord、Korgなど)によって軽量・低メンテナンスでB-3風の音を再現する製品も普及しています。ライブやツアーではレスリーの持ち運び・設置が課題となるため、スタジオ録音とライブで使い分けるバンドも多いです。
サウンド・メイクの実践的ヒント
ジャズ・オルガンらしいサウンドを作る際の基本的な考え方:
- ドローバーの組み合わせで低音域をしっかり作る(8′基調+16′で太さを確保)。
- ハーモニック・パーカッションやキー・クリックを適度に使ってアタックを強調する。
- レスリーの回転速度(スロー/ファスト)をダイナミクスやソロの有無で巧みに切り替える。
- アンプやPAのEQで低域を整理し、ギターやホーンとぶつからないように帯域管理する。
現代におけるジャズ・オルガンの位置付け
21世紀に入ってからも、ジャズ・オルガンはジャンル横断的に活躍しています。ソウル、ファンク、ゴスペル、コンテンポラリー・ジャズ、さらにはヒップホップやポップのプロダクションにおいても、オルガン的なテクスチャは重要です。デジタル技術の発展により、かつてより手軽にハモンド風の音色が得られるようになったことも普及に拍車をかけています。
まとめ:ジャズ・オルガンの魅力とは
ジャズ・オルガンの魅力は、豊かな倍音構成による温かい音色、レスリーを通した空間的な揺れ、そして演奏者が同時にベース・ライン、ハーモニー、ソロをコントロールできる“多声的”な表現力にあります。歴史的にはジミー・スミスらが始めた伝統を、今日の奏者たちが独自の音楽語法で受け継ぎ、拡張し続けています。機械的な維持管理や機材周りの制約はあるものの、それを補って余りある音楽的な魅力がジャズ・オルガンにはあります。
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参考文献
- Britannica: Hammond organ
- Britannica: Leslie speaker
- AllMusic: Jimmy Smith - Biography
- AllMusic: Larry Young - Unity (album)
- AllMusic: Joey DeFrancesco - Biography
- Wikipedia: Hammond organ


