躯体工事の基礎と実務ガイド:工程・品質・耐震対策を徹底解説

はじめに — 躯体工事とは何か

躯体工事(くたいこうじ)は、建物の主要な構造体(基礎、柱、梁、床、壁など)を構築する工事を指します。建築・土木の中でも最も基本的かつ重要な工程であり、建物の安全性、耐久性、耐震性を直接決定します。本稿ではRC(鉄筋コンクリート)・SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)・S(鉄骨)・木造・プレキャスト等の躯体工事について、工程、品質管理、設計上の留意点、最新技術までを体系的に解説します。

躯体工事の範囲と分類

躯体工事は大きく以下に分類できます。

  • 基礎工事:杭工事、直接基礎(べた基礎、布基礎)など
  • 下部構造:地下躯体、地下ピット、立上り躯体
  • 上部構造:柱・梁・スラブ・耐力壁等の主要構造部
  • 付属工事:耐火被覆、アンカーボルトの取付、埋め込み金物など

材料・工法別には、現場打ちRC、鉄骨造(S造)、混構造(SRC)、プレキャストコンクリート(PCa)、木造躯体などが代表的です。

工程の流れ(一般的な現場打ちRCを例に)

躯体工事は設計図と仕様書に基づいて段階的に進みます。代表的な工程は次の通りです。

  • 仮設工事:仮囲い、仮設道路、トイレ、事務所、足場等の整備。
  • 地盤改良・杭打ち:地盤調査に基づいた地盤補強(柱状改良、場所打ち杭など)。
  • 基礎工事:根切り、捨てコン、配筋、型枠、コンクリート打設。
  • 下部躯体:地下壁・スラブの施工(防水や止水工事を含む)。
  • 上部躯体(躯体躯築):柱・梁・スラブの配筋、型枠、打設、脱型、養生。
  • 躯体の仕上げ関連:開口補強、埋め込み金物の取り付け、目地や施工継手の処理。
  • 引き渡し前の構造検査・荷重試験等。

主要工程の技術ポイント

以下、各工程で特に重要な技術的ポイントを整理します。

  • 配筋・継手:設計図に従った鉄筋の種類、径、フック・定着長、継手位置を厳守。アンカーボルトや埋め込み金物の位置精度が構造性能に直結します。
  • 型枠:強度と寸法精度、接合部からの漏れ防止。脱型時の変形や欠損を防ぐために支持・補強を適切に行うこと。
  • コンクリート打設:打設順序と連続性を確保し、コールドジョイント(寒中打ち継ぎ)を回避。打ち込み時の締め固め(振動)、温度管理、初期養生が重要です。
  • 養生:初期乾燥防止と温度ひび割れ対策。盛夏・盛冬では温度管理(打設時の混和剤、散水、保温マット等)を実施。
  • 施工継手・伸縮目地:十分な余裕と止水対策、目地材の選定(可撓性、耐久性)を行う。

品質管理と試験

躯体の品質確保のため、各種試験・検査が法規・仕様で定められています。代表的な項目は以下のとおりです。

  • コンクリート受入検査:受入れ時の圧縮強度試験(供試体試験)、打設時のスランプ、空気量、温度測定。
  • 鉄筋検査:材質(JIS規格)確認、径・本数の検査、被り厚さの確認。
  • 非破壊検査:超音波検査、打音検査などで内部欠陥や浮きの確認。
  • 寸法・位置検査:型枠・埋め込み金物・アンカーボルトの位置精度検査。
  • 耐震関連試験:必要に応じて耐震改良部や重要構造部の荷重試験を実施。

試験結果は記録として保存し、設計基準に満たない試験があれば補修や打替えの判断を速やかに行います。

耐震性・耐久性に関する設計と施工上の配慮

日本は地震国であるため、躯体工事では耐震性能の確保が最優先です。設計段階での配筋の充実、継手・定着の適正化、せん断補強(帯筋やせん断補強筋)の配置は不可欠です。また、耐久性の観点からコンクリートの被り厚さ、かぶりコンクリートの管理、表面処理・防水、凍害や塩害のリスクがある環境では耐食性を高める措置(被覆厚の増加、耐久性向上材料、腐食抑制剤など)が必要です。

ひび割れ(クラック)対策と補修

ひび割れは構造安全性に影響するものと、美観・耐久性に関わるものがあります。発生原因は乾燥収縮、温度収縮、荷重、施工不良など多岐にわたります。事前対策としては、適切な配合設計(収縮低減材の使用)、有効な養生、打設順序の管理、施工伸縮目地の配置が有効です。補修は程度により樹脂注入、表面シール、補強などを選定します。

安全管理と現場運営

躯体工事は高所作業・重機操作・コンクリート打設の危険を伴います。作業計画(安全帯、仮設足場、荷役計画)、緊急時の連絡体制、定期安全パトロールが必須です。構造に関わる重要作業(配筋検査・打設時)は特に資格保持者・監督者の立会いが求められます。

工期・コスト管理と工程上の工夫

躯体工事は構造躯体の出来高がプロジェクト全体の進捗を左右します。プレキャストの導入やユニット化、周辺工種とのコーディネーション(設備貫通、型枠撤去のタイミング)で工期短縮が可能です。合理化には現場の段取り改善、材料のJIT(ジャストインタイム)供給、仮設計画の最適化が有効です。

プレキャスト・プレファブの活用

プレキャストコンクリート(PCa)や工場製作の鉄骨ユニットは現場工数を大幅に削減し、品質の安定化に寄与します。ただし、輸送・取り付け時の寸法精度、接合部の止水・耐震性能、継手の検討が重要です。建物の用途や形状、現場条件に応じて現場打ちと併用するハイブリッド工法が選ばれます。

最新技術とデジタル化(BIM/CIM・IoT)

BIM(建築情報モデリング)/CIMの導入により、躯体の干渉チェック、埋め込み金物の衝突回避、工程シミュレーションが容易になりました。現場では3Dレーザー測量、IoTセンサーによるコンクリートの温度・ひずみモニタリング、AIによる施工不具合検出などが進んでいます。これらは品質・安全・工期管理の向上に直結します。

まとめ — 実務者が押さえるべきポイント

  • 設計図・仕様を遵守し、配筋・型枠・打設・養生の各工程で検査を徹底する。
  • 耐震・耐久を優先し、被り厚さ、せん断補強、定着長などの基本を守る。
  • ひび割れ対策や施工継手の処理を計画段階から取り込み、補修計画も準備する。
  • BIM/CIM・プレキャスト・IoTを適切に導入し、工程と品質の最適化を図る。
  • 安全管理と記録保全(試験データ・検査記録)を確実に行う。

参考文献