追い焚き循環配管の設計・施工・維持管理ガイド:仕組みから防菌・保温・トラブル対策まで詳解

追い焚き循環配管とは――仕組みと目的

追い焚き循環配管は、浴槽の湯を給湯器(またはボイラー)へ戻して再加熱し、浴槽内の湯温を維持・回復するための循環路を指します。一般住宅や集合住宅の浴室で使われる機能で、経済的に湯を維持する、浴槽の湯を保温する、湯を抜かずに複数回入浴する際の利便性を高めることが主な目的です。

主要構成要素

  • 循環配管:浴槽から給湯器へ戻す戻り配管と、給湯器から浴槽へ供給する経路。
  • 循環ポンプ(常設または内蔵):必要な流量と圧力を確保するために使用。
  • 三方弁・2方弁:給湯系統と追い焚き系統を切替える弁。
  • 逆止弁(チェックバルブ):逆流防止と交差汚染の防止。
  • 止水弁・バランス弁:配管区間の流量調整や遮断。
  • 空気抜き弁・汚れ取り器(ストレーナー):エア抜きとゴミ除去。
  • 断熱材(保温):熱損失低減と結露防止。

配管方式の分類と特徴

  • 直送式(シンプル循環):浴槽と給湯器を直結して循環させる方式。構造が単純で施工が容易。
  • 分岐式(混合系統):複数の用途(シャワー・給湯)と兼用する場合に分岐して循環させる方式。配管計画が重要。
  • ポンプ内蔵型循環回路:給湯器本体に循環ポンプが内蔵されるもの。省スペースで簡便だが、既設の給湯器との適合確認が必要。

設計上のポイント

追い焚き循環配管を設計する際は、以下の点を総合的に検討します。

  • 流量と速度:適正な流量は給湯器の再加熱能力と浴槽の体積に応じて決定します。一般論として、配管内流速は過度に速いと騒音・摩耗、遅いと堆積の原因になります(目安として0.3〜1.0m/s程度の範囲を検討)。
  • 圧力損失と揚程:ダルシー・ワイスバッハ式などを用いて摩擦損失を計算し、ポンプの必要揚程を算出します。配管長、継手数、弁・ストレーナー等の局部損失も加味します。
  • 配管径の選定:流量に対して適切な管径を選ぶことで圧損と熱ロスのバランスを取ります。住宅用では給湯系統と同等の径を採ることが多いです。
  • 水温管理:給湯器や混合弁により安全な戻り温度・供給温度を確保。レジオネラ等の微生物増殖対策として長時間の低温滞留を避ける必要があります。
  • 保温設計:配管の熱損失を抑えるために適切な断熱材(厚さ・熱伝導率)を選定します。地下や外壁を通る場合の凍結対策も重要です。

材料と施工上の注意

  • 配管材料:銅管、鋼管(ステンレス)、架橋ポリエチレン管(PEX)、給湯用耐熱ポリプロピレン等が用いられます。給湯温度・圧力、耐久性、耐食性、接続方法(はんだ・ネジ・圧着・継手)を考慮。
  • 継手と接続:漏水事故防止のため、締め付けトルクやシーリング材の使用基準に従う。可とう性の確保と振動吸収も検討。
  • 保温施工:継手部や弁回りは特に熱橋になりやすいので、断熱カバーや発泡材での覆いを徹底します。外気による結露防止も併せて対策。

安全・衛生上の配慮(レジオネラ等)

追い焚き循環は湯を長時間循環・滞留させるため、低温域での微生物増殖(特にレジオネラ菌)に注意が必要です。設計・運用上のポイントは次のとおりです。

  • 定期的な高温通水(サーマルショック):一定期間ごとに高温(60℃以上)での循環を行い、熱処理で微生物を死滅させる。
  • 滞留時間の短縮:長時間の循環停止や配管内の死点(デッドエンド)を作らない配管計画。
  • 清掃と点検:循環ポンプ、ストレーナー、三方弁などの点検・清掃を定期的に実施。
  • 水質管理:給水元の水質、循環で使用する水の交換頻度を確保すること。

運用・維持管理の実務

  • 定期点検項目:漏水、異音(ポンプ・空噛み)、温度変動、弁の作動、ストレーナーの詰まり、断熱材の劣化。
  • 清掃頻度:住宅用途であれば年1回程度の内部清掃・配管フラッシングと、必要に応じた熱交換器のスケール除去。
  • 故障の初期対応:音がする場合はポンプのエア抜き、圧が落ちる場合はストレーナーの詰まりチェックや逆止弁の固着確認。

既設住宅での後付け・改修のポイント

既存の給湯設備に追い焚き配管を後付けする際は、給湯器の追い焚き対応可否、配管の取り回し、スペース、配管材質の接続性(異材接続の腐食)を確認します。給湯器メーカーの推奨配管図や性能を必ず参照し、施工要領に従って行うことが重要です。

トラブルと対策(代表例)

  • 追い焚きしても湯が温まらない:ポンプ不良、弁の誤作動、給湯器側の温度センサ不良が疑われます。循環路の流量不足を確認。
  • 雑音・振動:流速過大、管支持不良、空気混入。管支持を見直し、空気抜き弁の設置を検討。
  • 異臭・濁り:堆積物やバクテリアの増殖。配管洗浄と必要に応じて熱処理・消毒を実施。
  • 漏水:継手・弁の劣化、接続不良。早急に止水し交換・補修する。

設計計算の基礎(押さえておくべき式)

詳細設計では以下の考え方を用います(概念のみ)。

  • 流速 V = Q / A(Q:流量、A:断面積)
  • 摩擦損失(例)Δh = f (L/D) (V^2/2g)(ダルシー・ワイスバッハ式)
  • 必要揚程 = 全損失(摩擦損失+局部損失)+静圧差

これらをもとに適切なポンプ選定・配管径決定を行います。詳細計算は配管図面と使用機器の特性表を用いて行ってください。

法規・メーカー指針の確認

設計・施工にあたっては、建築関連法規、各自治体の給水設置基準、給湯器メーカーの施工マニュアル・配管図を遵守してください。給湯設備は安全と衛生に直結するため、メーカー指定の弁や配管構成を変更する場合は事前確認が必要です。

まとめ:安全性と利便性を両立するために

追い焚き循環配管は利便性と省エネに寄与する一方で、設計・施工・維持管理を疎かにすると衛生問題や事故に繋がります。配管経路の最適化、断熱、適正な流量・ポンプ選定、定期的な清掃・熱処理などの運用管理を組み合わせることで、安心して長く使える設備になります。設計段階で給湯器メーカーや衛生管理の観点を持つ専門家と連携することをおすすめします。

参考文献