建築・土木で使われるケーブルの種類と設計・施工・保全ガイド

はじめに:ケーブルの役割と重要性

建築・土木分野で「ケーブル」といえば、電力や通信を伝える導体だけでなく、構造物の支持や補強に使われる鋼索(ワイヤロープ・ストランド)まで含む広い概念です。高層建築の電気配線、トンネルや地下に敷設される電力・光ファイバーケーブル、橋梁の斜材や吊り索に用いる鋼索など、用途に応じた選定・設計・施工・保守が安全性と寿命を左右します。本稿では種類、材料、設計指針、施工上の注意点、検査・保守手法、最新技術までを整理して解説します。

ケーブルの分類(用途別)

  • 電力ケーブル:配電・動力・高圧・特別高圧までの電力伝送用。導体は銅(Cu)またはアルミニウム(Al)、絶縁はPVC、PE、架橋ポリエチレン(XLPE)など。
  • 通信ケーブル・光ファイバー:音声・データ伝送用。銅対線や同軸、近年は光ファイバーが主流。光ファイバーは長距離・大容量に優れ、建築用途ではOM系・G.652系などが使われる。
  • 制御・信号ケーブル:センサー・制御盤・計装の信号伝達用。シールド付きやツイストペアなど電磁環境に配慮した設計が必要。
  • 耐火・耐熱ケーブル:火災時の動作継続が求められる非常用回路(避難誘導、非常用電源等)に使用。被覆材料やシースで耐火性を確保。
  • 構造用ケーブル(鋼索):橋梁やケーブル支柱、アンカーに用いる高強度鋼索。ケーブルステイ、吊索、補剛材など。

材料と構造の基礎知識

電力・通信ケーブルの基本構成は「導体-絶縁体-シース(外被)-保護層(シールド・アーマー)」です。導体は銅が最も伝導性に優れ、アルミは軽量・廉価で大口径送電に用いられます。導体構成は単線・撚り線・圧縮導体などがあり、柔軟性や電流密度に応じて選びます。

絶縁材料は耐電圧、耐熱性、耐老化性で選定。低中圧ではPVC、PE、難燃性PVC、近年はXLPE(架橋ポリエチレン)が標準化され、高電圧ケーブルで広く採用されています。金属製シース(鋼テープ、アルミ箔等)やアーマーは機械的保護と接地を兼ねます。

構造用ケーブルは複数の鋼線を撚ったストランド、さらに複数ストランドを束ねたロープ形状が一般的。表面は亜鉛めっき、真鍮めっき、あるいはプラスチック被覆(HDPE等)で腐食対策を行います。橋梁用では内部にグリースや防食材を充填し、外被で密封する方式が標準です。

設計時の主要検討項目

  • 電気的設計:導体断面積の決定は許容電流(電流容量)、電圧降下、短絡時の熱的・機械的強度を満たすことが必須。地中配線では土壌温度や通風条件も考慮します。
  • 機械的設計:引張強度、最小曲げ半径、引込み張力、支持構造の荷重解析(特に橋梁ケーブル)を行います。鋼索では疲労寿命計算と安全率設定が重要です。
  • 耐環境性:屋外・地中・海中など露出環境により材料選定(耐候・耐紫外線・耐湿)、被覆厚さ、排水・排気対策を決定します。
  • 冗長性と点検性:重要回線や構造材では冗長構成(並列ケーブルや分岐)を設け、点検・交換がしやすい経路設計を行います。

施工上の注意点

ケーブル施工は取り扱いミスが寿命を大きく短縮します。主な注意点を挙げます。

  • 引込み張力と最小曲げ半径:ケーブルにはメーカー指定の最大引張力と最小曲げ半径があります。これを超えると導体や絶縁が損傷します。特にテルミナル付近や曲がり部は保護材を用います。
  • 接続・終端:電力ケーブルの接続は油圧圧着、冷間圧着、またはヒートシュリンク/レジンジョイント等の適正な処理が必要。光ファイバーはOTDRで損失確認後に封止します。
  • 地中敷設の方法:埋設深さ、配管(ダクト)有無、逆衝撃や水の浸入対策、マーキング・警告テープによる将来工事への配慮を行います。マンホールやハンドホールの配置は保守性に直結します。
  • 耐火対策:建築設備では耐火被覆や耐火ダクトの適用が必要な場合があります。火災時に回復力を保つ配線は設計段階で検討します。

検査・試験・維持管理

施工後・運用中の検査・試験は安全性の確保に不可欠です。代表的な検査手法は以下の通りです。

  • 絶縁抵抗試験(メガ試験):施工時の絶縁状態確認。ケーブル長と容量に応じた試験電圧と測定方法を選定します。
  • 耐電圧試験(耐圧試験):ケーブル絶縁の健全性を確認。通常、運用電圧より高い電圧を印加しますが、線路によっては適用不可(光ファイバー等)や注意が必要です。
  • 部分放電試験・タンデルタ測定:高圧ケーブルの劣化診断に用いられます。局在化や劣化程度判定に有効です。
  • 光ファイバー検査(OTDR):ファイバの損失、反射、断線箇所の距離計測に使用します。
  • 鋼索の点検(非破壊検査):外観点検のほか、磁気フラックス漏れ検査(MFL: Magnetic Flux Leakage)、音響放出(AE)や超音波検査で内部腐食や断線を検出します。伸長・ねじれの測定やテンション測定も実施します。

橋梁ケーブル(鋼索)の特有課題と対策

橋梁に使うケーブルは長期間にわたる耐久性と安全性が極めて重要です。特有の課題とその対策を示します。

  • 腐食対策:内部腐食を防ぐためにグリース充填+密封被覆(HDPE外被等)とし、場合によっては乾燥空気を封入する脱湿システムを導入します。
  • 疲労問題:風振動や交通振動により疲労が蓄積するため、振動抑制装置(ダンパー)や形状工夫、スムースフェアリング等で励振を低減します。
  • 交換性の確保:点検で重大損傷が見つかった場合の交換工法(並列新設→逐次切替等)を設計段階で検討します。
  • モニタリング:分散光センシング(DAS/DTS)や張力センサ、変位センサで継続的に稼働状態を監視することで早期検出を可能にします。

法規・規格・設計基準の概略

国内外での代表的な規格や指針を踏まえた設計が求められます。電力・通信ケーブルはJISやIEC規格、建築設備関連は「電気設備技術基準」や各自治体の条例に従います。橋梁など土木分野では日本道路協会の「道路橋示方書」や各種設計・維持管理指針が参照されます。適用する規格は用途・電圧・環境に応じて選定してください。

最新技術と今後の動向

  • スマートケーブル:光ファイバーを利用した分散センシング(DTS/DAS)により、温度・振動・地盤変位等をリアルタイムで監視する技術が普及しています。これにより予防保全が可能になります。
  • 新素材・複合材料:耐候性・耐腐食性を高めた外被材、軽量高強度の導体や補強材、セルフヒーター機能を持つケーブル等の研究が進んでいます。
  • 施工技術の高度化:方向性掘削(HDD)、工場製作のモジュール化、プレファブ化により工期短縮と品質確保が図られます。

まとめ:設計・施工・維持管理におけるポイント

ケーブルは見えにくい部分で安全性や機能の根幹を支えます。設計段階での適切な材料選定、施工時の取り扱い、定期的な検査とモニタリング、そして劣化を見越した保守計画が不可欠です。特に橋梁や重要建築物では腐食・疲労の長期管理が安全性とライフサイクルコストの最適化に直結します。規格やメーカーの技術資料を参照しつつ、現地条件に合わせた検討・専門家の協議を行ってください。

参考文献