同軸ケーブル完全ガイド:構造・特性・設計・現場施工で押さえるポイント

はじめに — 同軸ケーブルの概要と用途

同軸ケーブル(coaxial cable)は、中心導体、絶縁体(ダイレクトリック)、外部シールド(編組・箔)、外装ジャケットという同心円状の構造を持つ伝送線路です。テレビ放送、ケーブルモデム、監視カメラ、無線機器のフィーダー、計測機器の接続など、広い周波数帯で使われています。建築・土木の分野では、建物内配線、監視システム、屋外アンテナ配線、設備同士の信号伝送などで依然として重要な役割を担っています。

同軸ケーブルの基本構造と物理原理

同軸ケーブルは以下の要素で構成されます:

  • 中心導体:単線またはより高周波での性能を上げるために撚り導体が使われます。
  • 絶縁体(ダイレクトリック):誘電率(εr)が伝搬速度(velocity factor)や特性インピーダンスに影響します。発泡ポリエチレンなどが一般的です。
  • 外部シールド:編組(ブレイド)や箔で構成され、外来ノイズから内部信号を守り、また外へ漏れる電波を低減します。シールドは耐電流、シールド効果(SE)と密接に関係します。
  • 外装ジャケット:物理的保護と環境耐性(耐UV、耐油、耐寒など)を提供します。建築用途では難燃性規格が重要です。

特性インピーダンスZ0は、同軸の幾何学寸法と絶縁体の誘電率で決まり、近似式として Z0 ≈ (60/√εr) ln(b/a)(a:中心導体半径、b:シールド内面半径)で表されます。特性インピーダンスが一定でないとインピーダンス不連続が生じ、反射(VSWR)や損失が増えます。

代表的な特性値とその意味

  • 特性インピーダンス:一般に50Ω(無線・測定用)と75Ω(テレビ、映像伝送)が多用されます。
  • 伝搬速度(velocity factor):ケーブル内の信号伝搬速度は真空速度に対する比率で、絶縁体の誘電率に依存します(vf ≈ 1/√εr)。
  • 損失(減衰):導体損失(表皮効果に依存)と誘電体損失の和で、周波数増加に伴って増加します。長距離では光ファイバに置き換えられることが多い理由です。
  • シールド効果・耐ノイズ性:編組密度や箔の有無で大きく変わり、外来干渉(EMI)や放射干渉(EMR)対策で重要です。

主な種類と用途の使い分け

  • RG系(RG‑58, RG‑59, RG‑6など):歴史的に広く使われる規格名。RG‑58は50Ωの無線用、RG‑59は低周波の映像用、RG‑6は高帯域のCATV/衛星用(75Ω)が一般的です。
  • LMR系(LMR‑400など):低損失で無線フィーダーに好適な製品群。屋外配線や基地局で使用されます。
  • 同軸フレキシブルケーブル(ヘリカル、フロスティング等):配線しやすいが損失や耐久性に差が出ます。
  • 特殊ケーブル:低誘電体ロスや高耐候性、耐火被覆、プラムナム(プルーム)用など用途別に設計されています。

現場設計・施工での注意点

建築現場で同軸ケーブルを扱う際は、以下を必ず確認・遵守してください:

  • 曲げ半径:一般に外径の4~10倍程度の曲げ半径を確保する(メーカー仕様に従うこと)。過度の屈曲は導体やシールドの破損、インピーダンス不連続を招きます。
  • 引張り力:ケーブルを引く際はメーカー指定の最大引張強度を超えないこと。過張力で内部導体が伸び、接続不良の原因になります。
  • 接栓・圧着:BNC、F型、N型、SMAなど用途に応じたコネクタを使用し、適切に圧着・半田付けする。接栓部は損失と反射の主要因です。
  • シールド接地(ボンディング):屋外から室内に引き込む際は適切なアース処理を行い、雷サージやグラウンドループに配慮する(通常は建物側で一本化してボンディング)。
  • 難燃・防火規格:空調ダクト内や天井裏(プラムナムスペース)に配線する場合は、CMP(plenum)やCMR(riser)などのカテゴリに適合したケーブルを採用する。

信号品質確保のための測定と保守

同軸ケーブルの品質を確認する代表的な手法:

  • TDR(タイムドメインリフレクトメータ):インピーダンス不連続や断線・短絡の位置を特定するのに有効です。
  • スペクトラムアナライザ/ネットワークアナライザ:挿入損失(S21)、反射(S11、VSWR)を周波数領域で評価します。
  • 定期点検:コネクタの腐食、ジャケットの劣化、接地状態の変化、湿気の侵入などを点検し、必要に応じて再圧着や交換を行います。

高周波特性・実務上の指標

高周波では表皮効果により導体損失が周波数√fで増加します。誘電体損失は材料の損失正接(tanδ)に依存し、高周波ほど顕在化します。実務では、長距離伝送や高周波(UHF以上)での電力伝送を行う際、ケーブルの減衰量(dB/mまたはdB/100m)とVSWRの仕様を比較して設計します。

雷・サージ対策と接地

屋上アンテナや外部導入線では雷サージ対策が必須です。適切なアース(接地)とバルクヘッドにおける避雷器(サージアレスタ)を設置し、シールドは一箇所で確実に接地する(多点接地はグラウンドループや局所的な差動を生むことがある)等、電気的安全を確保します。また、防水ブッシングやシーリングで水の侵入を防ぐことも重要です。

代替技術との比較:ツイストペア・光ファイバ

同軸の利点はシンプルで耐久性があり、一定距離・帯域で低コストという点です。一方、光ファイバは低減衰・大容量・電気絶縁という強みがあり、長距離・大帯域・ノイズ耐性が必要な場合は優位です。ツイストペア(Ethernet)はイーサネットの普及に伴い短〜中距離でコスト効率が高くなっています。用途に応じて最適な媒体を選定してください。

実際に押さえておきたいチェックリスト(設計者・施工者向け)

  • 用途に応じたインピーダンス(50Ω/75Ω)を選定
  • 減衰量・周波数依存特性を確認し必要な利得を算出
  • ケーブル長と損失に基づいてブースターやアンプの要否を検討
  • 曲げ半径・引張荷重・温度レンジ・難燃性を仕様に明記
  • 接栓部の品質管理(適切な工具・トルク・シール)
  • 接地・サージ対策を設計段階で明確化
  • 定期点検計画と検査機器(TDR、VNA等)の準備

まとめ

同軸ケーブルは今なお建築・土木分野で重要な伝送媒体です。構造・材料が性能に直接影響するため、設計時には特性インピーダンス、減衰、シールド性能、環境耐性、施工条件を総合的に評価することが必要です。高周波化、長距離化が求められる場合は光ファイバ等の代替も検討しつつ、現地の施工ルール(難燃規格や接地法)に準拠することが安全で確実な運用につながります。

参考文献