Hansgroheの技術とデザイン:建築・土木における選定ポイントと最新動向

はじめに — Hansgroheとは何か

Hansgrohe(ハンスグローエ)は、ドイツ・シュティルタッハ(Schiltach)を拠点とする水まわり機器メーカーで、主に蛇口(混合水栓)、シャワーシステム、バス周りのアクセサリーを手がけています。創業は20世紀初頭にさかのぼり、長年にわたり機能性とデザイン性を両立させた製品を提供していることで、建築設計や設備設計の分野で高い評価を得ています。なお、名前が似ているGroheというブランドとは別会社である点はしばしば混同されるため、設計仕様書や発注時にはブランドを正確に記載することが重要です。

歴史とブランド構成

Hansgroheは創業以来の技術蓄積をベースに、一般向けの『hansgrohe(ハンスグローエ)』と、著名デザイナーと協働する高級ライン『Axor(アクサー)』という二つのブランド展開を行っています。Axorはプロジェクト性の高い商業施設や意匠性を重視する住宅で採用されることが多く、著名デザイナーとのコラボレーションによるオリジナルデザインが特徴です。一方でhansgroheブランドは幅広い価格帯と機能で住宅・商業施設向けに普及しています。

主要技術・商品群

Hansgroheは独自のスプレー技術や節水機能、メンテナンス性を高める設計を数多く導入しています。代表的な要素を以下に挙げます。

  • AirPower(エアパワー): 水に空気を混ぜることで体感的な水量を保ちつつ実際の水使用量を削減する技術。シャワーやハンドシャワーで快適な浴び心地を維持します。
  • EcoSmart(エコスマート): 混合水栓やシャワーにおける流量を制限し、節水を実現する機能。住宅の給水負担やランニングコスト低減に寄与します。
  • QuickClean(クイッククリーン): シリコンノズルなどにより、石灰スケールの付着を手早く除去できる設計で、メンテナンス頻度やコストを抑制します。
  • Thermostatic(サーモスタット)技術: 温度安定性を重視したサーモスタット混合栓やシャワーサーモスタットをラインナップしており、安全性と快適性を両立します。

設計・施工時のポイント

建築や土木の設備設計においてHansgrohe製品を採用する際は、以下の点を確認してください。

  • 給水圧と流量: 製品ごとに推奨の作動圧(最小・最大)があり、ビル側の給水条件と整合させる必要があります。特に高層建築や長距離配管では圧力損失を考慮してください。
  • 取り付け方式と下地: 天井埋込型シャワーや壁付けのサーモスタット等、埋込部材・取付用のスペース確保、点検アクセスの確保が重要です。商業施設では耐久性や vandal proof 対策も検討します。
  • 保守・交換性: QuickCleanなどのメンテナンス機能は日常管理を容易にしますが、将来的な部品交換や修理の可否、部材の入手性について事前にメーカーの保守体制を確認しておくと安心です。
  • 法規・認証: 各国の水質基準、建築基準、給排水規格(CE、EN規格、各国の認証等)への適合が要件となる場合があります。プロジェクトで必要な認証や試験成績書を確認してください。

BIMや設計支援ツール

近年、Hansgroheは設計者向けにCADデータ、BIMオブジェクト、製品仕様書、落水図などを提供しています。これにより設計・プレゼン・数量計算が効率化され、プロジェクトへの組み込みが容易になります。設計初期段階でメーカーのデータを使うことで、現場での手戻りを減らせます。

環境・持続可能性への取り組み

Hansgroheは水資源の保全、エネルギー効率の向上、製造プロセスの環境負荷低減に取り組んでいます。製品面では節水機能や高効率の混合水栓、長寿命設計による廃棄物削減が特徴です。また、サプライチェーンや生産拠点でのCO2削減目標や環境報告書を公表していることが多く、サステナブル建築を目指すプロジェクトでの採用に合致しやすいメーカーです。

デザイン性と受賞歴

HansgroheおよびAxorの製品はプロダクトデザイン賞(Red Dot、iFデザイン賞等)を多数受賞しており、意匠設計の観点で採用されるケースが多く見られます。特にAxorはデザイナーコラボレーションにより、ショールームやラグジュアリーホテル、商業施設の顔となる水まわり空間を創出する製品を提供しています。

競合との比較

競合他社(例:Grohe、Dornbrachtなど)と比較する際は、次の軸で検討するとよいでしょう。

  • 技術特性: 節水技術やサーモスタット性能、耐久性の違い。
  • デザインレンジ: 標準仕様からハイエンドデザインまでの幅。
  • 価格帯とアフターサービス: 保守体制、部品供給力、保証内容。
  • プロジェクト適合性: BIMデータ提供、納期やカスタムオーダー対応の柔軟性。

実務的なチェックリスト(発注前)

発注前に確認しておきたい実務チェックリストをまとめます。

  • 採用するモデルの正確な型番と仕様書を明記しているか。
  • 使用圧、推奨流量、取付方式(壁付/床付/埋込)を現場条件と照合したか。
  • 保守用スペースや点検口を図面上で確保したか。
  • 必要な認証・証明書(国別の適合証等)をメーカーから取得できるか。
  • 納期・部材のリードタイムと代替部品の確認を行ったか。

まとめ — 建築・土木での採用価値

Hansgroheは、機能性(節水・メンテナンス性)と意匠性(デザイン性・受賞歴)を両立させた製品ラインが強みです。設計段階でメーカーの技術仕様やBIMデータを活用し、現場の給水条件やメンテナンス計画と整合させることで、長期的なコスト削減と居住性向上が期待できます。特に意匠を重視するプロジェクトやサステナビリティを目標とする建築では、候補として検討する価値が高いメーカーです。

参考文献