高圧ポンプの選び方と現場施工・保守ガイド|建築・土木向け実践コラム
はじめに:高圧ポンプとは何か
高圧ポンプは、給水・排水・グラウト注入・高圧洗浄・ウォータージェット切断・ハイドロデモリション(高圧水によるコンクリート剥離)など、建築・土木分野で高い圧力を必要とする作業に使われます。用途に応じて圧力(数十barから数千bar)、流量、耐摩耗性、固形物の通過性が異なり、それに合わせたポンプ種別と運用が求められます。
主なポンプの種類と特徴
- 遠心ポンプ(多段含む):回転による増圧が可能で、比較的高流量・中高圧(数十〜数百m)に対応。主に給水、送水、RO給水などに使用。効率が高いが固形物には弱い。
- 容積式ポンプ(往復/プランジャー/ピストン):比較的小流量で高圧(数十〜数千bar)を得やすい。注入(グラウト)、高圧洗浄、ウォータージェットで多用。
- 回転式容積ポンプ(スクリュー、ギア、ロータリーピストン、進行形体ポンプ〈PCポンプ〉):粘性流体や固形物含有流体の搬送に強く、汚泥やスラリー系で用いられる。
- ダイアフラムポンプ:ケミカル耐性や封入での安全性が求められる薬液移送などに適する。高圧用途でも設計によっては使用可能。
設計・選定で押さえるべき基本パラメータ
- 流量(Q):現場で必要な体積流量(L/min、m3/hなど)
- 揚程(H)または圧力(P):要求圧力(bar、MPa)や揚程(m)
- 作業流体の性状:比重、粘度、温度、含固形物・研磨性
- 運転方式:連続運転か間欠運転か、可変流量が必要か(VFD)
- 許容圧力と安全装置:安全弁、プレッシャーリリーフ、圧力センサ
- NPSH(吸込み条件)確認:キャビテーション防止のため、NPSHaがNPSHrより大きいこと
- 材質選定:海水や研磨性流体ではステンレス(SUS316、デュプレックス)、表面硬化、セラミック・タングステンカーバイドなどを検討
基本計算例:必要動力の見積り
ポンプ動力の概算式(理想):
P = ρ × g × Q × H / η
例:水(ρ=1000kg/m3)、Q=0.01m3/s(36m3/h)、H=50m、η=0.7 の場合
P = 1000 × 9.81 × 0.01 × 50 / 0.7 ≒ 7.0kW
実運転では配管損失、効率低下を考慮して余裕を見ます(一般に1.1〜1.5倍)。
NPSHとキャビテーション対策
NPSHa(利用可能NPSH) = 吸込み側圧力で計測される値で、NPSHr(メーカーが示す必要NPSH)より大きい必要があります。吸込み配管を短く太くする、吸込みタンクの静水位を上げる、吸込み配管の空気混入を防ぐなどが対策です。キャビテーションはインペラ損傷、振動、騒音、性能低下を招きます。
材料・シール・ライニングの選定
- 摩耗流体:硬質クロムメッキ、タングステンカーバイド、セラミックプランジャー、硬化鋼等を使用
- 腐食流体:耐食性ステンレス(SUS316、duplex)、ハステロイ等
- シール:機械シール(単独・ダブル)、パッキン。高圧では二重シールやバッファーシステムを推奨
- 配管・バルブ:高圧仕様のソケットやフランジ、ゲートバルブ・ボールバルブの圧力等級に注意
制御・駆動方式
電動モータ(固定速・インバータ制御)、ディーゼルエンジン、油圧駆動など。可変流量が求められる場合はVFD(インバータ)による制御が一般的で、流量制御・起動電流低減・エネルギー効率化に有利です。圧力保持には圧力スイッチ、圧力トランスデューサ、PID制御が用いられます。
現場での設置・施工上の注意点
- 基礎・アンカーボルト:振動対策とアライメント確保のため、剛性のある基礎が必要
- 配管設計:吸込み側は短く太く、ストレーナー・エアベントを適切に配置。吐出側は急激な方向転換や過度な絞りを避ける
- 開始手順:エア抜き、潤滑油量・圧力低圧試験、各種センサの校正
- ホース・継手:高圧ホースの許容圧力、ホース鞘やホーススタンドでホース破裂時の安全対策
- 騒音・振動対策:防音ハウジング、振動アイソレーターを検討
メンテナンスと点検項目
- 日常点検:異音・異振動、油温、油圧、漏れの有無、運転時間の記録
- 定期保守:シール交換、ライナー・バルブ・ベアリングの摩耗確認、オイル交換
- 振動解析・油の分析:早期異常検出のためのモニタリング導入が有効
- 部品在庫:現場停止時間を短縮するために摩耗部品(シール、バルブ、ライナー)の在庫化を推奨
安全管理とリスクアセスメント
高圧流体は人体や設備に重大リスクをもたらします。圧力閉止状態での作業禁止、ロックアウト・タグアウト(LOTO)、高圧ホースの圧力試験(耐圧試験)、ホース破断防止(安全ネット・ガイド)、圧力解放手順の明確化が必須です。現場では作業員の教育・保護具(顔面保護、耐水手袋等)も徹底してください。
環境配慮と規制
流出した作業水やグラウト材は現場環境や公共下水に影響します。排水処理、沈殿・凝集処理、適切な廃棄の手順、使用薬剤の管理が必要です。基準や規制は地域により異なるため、自治体の条例やJIS/ISO/AP規格を確認してください。
代表的な建築・土木での用途事例
- グラウト注入(地盤改良、切梁注入、ボルト注入):圧力制御が重要で、注入圧としみ込みを常時監視
- 高圧水によるコンクリート剥離(ハイドロデモリション):1000〜2500bar程度の高圧を用いることが多い(仕様は用途により変動)
- 高圧洗浄・スケール除去:配管内外面の堆積物除去や設備洗浄に使用(100〜1000bar帯)
- RO給水ポンプ・逆浸透システム:中高圧(数十〜80bar程度)が必要
- スラリー・汚泥輸送:進行形体ポンプやギアポンプなど固形物対応型を採用
標準規格と技術資料
工業用ポンプにはAPIやISO、各国のJIS規格があり、用途に応じた規格準拠が求められます。例えば遠心ポンプや往復動容積ポンプ等はそれぞれの業界規格(API 610、API 674等)を参照すると設計・試験条件の基準になります。
まとめ:選定のチェックリスト
- 必要圧力・流量を明確化する(最大・通常・最小)
- 流体特性(粘度、含有固形物、温度)を把握する
- 耐摩耗・耐食材質、シール方式を決定する
- NPSH条件、配管損失、起動・停止手順を検討する
- 安全装置・メンテナンス性・部品供給体制を確認する
- 法規・環境対応(排水処理、物質管理)に適合させる
高圧ポンプは用途と運用条件により最適解が大きく変わります。現場でのトラブルを減らすには、メーカーと協働した仕様決定、初期試運転での確認、計画的な予防保守が不可欠です。
参考文献
- ポンプ - Wikipedia
- 遠心ポンプ - Wikipedia
- Net Positive Suction Head (NPSH) - Wikipedia
- Grundfos - Pump encyclopedia
- KSB - Centrifugal pumps knowledge
- American Petroleum Institute (API) - Standards
- Water jet cutter - Wikipedia
- Hydrodemolition - Wikipedia
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