和声法則を徹底解説:機能・対位・近代和声まで実践的に学ぶ方法
和声法則とは何か — 定義と歴史的背景
和声法則(和声法)は、複数の音が同時に鳴ったときに生じる音の組み合わせ(和音)やその進行、和声的機能、声部の扱い(声部連結=ボイスリーディング)を体系化した理論です。西洋音楽の「和声」の伝統はバロック後期から古典派、ロマン派にかけて成熟し、18〜19世紀の通奏低音や和声学の教本によって体系化されました。20世紀以降はクロマティック和声やモード調の拡張、非機能的和声も登場し、守るべき“法則”は時代と様式によって変化します。
基礎:和音の構成と階名(ダイアトニック和声)
基本はスケール(長調・短調)上での三和音(1度・3度・5度)と四和音(7度を含む)です。各スケール度には固有の和音があり、ローマ数字で表して機能分析を行います。長調ではI(トニック)、IV(サブドミナント)、V(ドミナント)が主要三和音で、短調でも同様の機能が存在しますが和声的短音階(導音の昇格)などで形が変わります。
機能和声(関係と役割)
機能和声は和音を「安定(T=トニック)」「準安定(S=サブドミナント)」「緊張(D=ドミナント)」という役割に分け、流れ(解決)を重視します。典型的な進行はS→D→Tであり、ドミナントは特に導音(短調では変化導音)や属七(V7)を含むことで強い解決感を生みます。和声分析ではローマ数字により機能を明示し、転回形や代理和音(例:iv6はVの代理)も扱います。
ボイスリーディング(声部進行)の基本原則
声部連結は和声法の核です。主なルールは以下の通りです。
- 平行5度・8度(完全5度・完全8度の同方向の平行進行)は避ける。これらは独立した声部の独立性を損なうとされる。
- 不協和音(導音やテンション)は近接的に解決する。特に導音は上方に解決するのが通例。
- 共通音を維持すると和声の連続性が保たれる(共通音進行)。
- 声部はできるだけ小さな動きをする(最小移動の原則)。
不協和・装飾音(異和声音/非和声音)の扱い
非和声音(passing tone, neighbor tone, appoggiatura, suspension, retardationなど)は和声進行に緊張と色彩を加えます。サスペンションは和音の音を保持したまま下の和音の協和音に一拍遅れて解決する技法で、和声的効果が大きい。一方で装飾的非和声音は拍子や拍価に依存して分類され、分析では機能的意味(和声的役割)と表現的意味を区別して扱います。
和声進行とカデンツ(終止形)
終止(カデンツ)はフレーズや楽曲の区切りを示す和声の並びです。代表的なカデンツは完全終止(V→I)、半終止(任意の和音→V)、偽終止(V→Iのように聞こえるが継続する)、斜終止(IV→Iなど)があります。ロマン派以降は拡張された終止感(例:副属和音→V→I)や装飾的な終止も増えました。
転調とモジュレーションの技法
転調(モジュレーション)は調の中心を移動することです。直接転調(突然の新調へ)から、共通和音を経由する共通和音転調、共通音を利用する共通音転調、機能的に近い調への段階的転調(例えば:属調へ→属の属へ)などの方法があります。モジュレーションを滑らかに行うには、準備和音や借用和音、増四の変換(同主音の別解釈)を用いることが多いです。
クロマティック和声と応用和音
古典的なダイアトニック範囲を超える和声として、二次ドミナント(V/Vなどの応用和音)、借用和音(平行調や近親調からの和音の借用)、ネアポリタン(♭II)や増六和音(フレンチ、イタリアン、ドイツ式の各種)などがあります。これらは調性的機能を一時的に変化させ、色彩的な緊張をもたらします。二次ドミナントは一時的な属和音として対象の和音を強化し、しばしば和声的推進力を生みます。
進行の具体例と解析の手順
和声分析を行う際の実務的手順は以下です。
- 調性の確定(移行的な調性や多調性に注意)。
- メロディーの導音・主音を確認して調号を確定。
- 各小節ごとに和音を同定し、ローマ数字で表記(転回形や属七も明記)。
- 非和声音や修飾的進行は括弧や注で示す。
- 機能進行(T,S,Dの流れ)とボイスリーディングの遵守・例外点を評価。
実例として、I–vi–ii–V–I はポピュラーな循環進行で、T→T(変化)→S→D→T の流れを持ちます。各和音の扱い(リズム的配置、ベースラインの動き、テンションの有無)で印象は大きく変わります。
19世紀〜20世紀初頭の和声拡張と近代和声
ロマン派は長調・短調の枠を越え、非機能和声(色彩的和声)やコードの連続的変化、調を曖昧にする技法を多用しました。ドビュッシーやラヴェルはモードや五音音階、並行和音、オクタトニック・スケールを利用して新たな和声世界を切り開きました。20世紀前半以降の十二音技法や和声の解体は、「和声法則」を絶対的な規則ではなく様式的なガイドラインとして再評価させました。
教育上のアプローチと練習法
和声を学ぶ際は、理論と実践の両輪が重要です。基本的な練習例は以下の通りです。
- 四声体の和声書法(バス・テノール・アルト・ソプラノ)で基本進行を和声記述する。
- 短いフレーズの類推や転回形の練習でボイスリーディングを習得する。
- 二次ドミナントや借用和音を使った小課題でクロマティック処理に慣れる。
- 実際の楽曲(古典〜ロマン派〜近現代)のスコア分析と耳コピーを繰り返す。
耳を鍛えることは特に重要で、和音の種類や進行を聴き分ける訓練が即戦力となります。
よくある誤解と注意点
和声法を「絶対のルール」として扱うのは誤りです。歴史的・様式的文脈が最も重要で、例えばバロックの対位法で許されない進行も、浪漫派や印象派では美的効果として使われます。また、ポピュラー音楽では声部の独立性よりもベースラインやリズム、音色が重視されるため、和声法の適用は柔軟です。分析では常に作曲家や時代背景を考慮してください。
実践的なアレンジ・作曲への応用
和声法則は単に「守る」ためのものではなく、創作のための語彙です。以下は実用的な応用例です。
- メロディーに対する和音付け:共通音を活かしながら機能的に配列する。
- ドラマティックな強調:二次ドミナントやネアポリタン、増六和音で一時的な転調感を出す。
- 雰囲気づくり:並行和音やペダルポイントで静的・浮遊感を作る。
また、和声のルールを“逸脱”することで意図的に新たな表情を作ることもできます。重要なのは効果を意識して選択することです。
まとめ — 和声法則の本質
和声法則は、和音の構造と進行、声部の連結を通して音楽の流れと緊張・解決を生み出すための理論体系です。古典的な規則は基礎練習や分析に不可欠ですが、時代や様式、表現意図に応じて柔軟に運用することが創作と理解を深めます。最終的には「耳」で確認し、数多くのスコアと実践を通して身につけることが最も確実な学習法です。
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参考文献
- 和声 - Wikipedia(日本語)
- 機能和声 - Wikipedia(日本語)
- 二次ドミナント - Wikipedia(日本語)
- 対位法 - Wikipedia(日本語)
- Harmony (music) - Wikipedia(English)
- Voice leading - Wikipedia(English)
- Teoria — Music Theory Tutorials (英語・実践的教材)
- Walter Piston, Harmony(教本・参考書の検索) - Google Books
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