Acquia Dev Desktop徹底解説:機能・導入・運用・移行までの完全ガイド

概要:Acquia Dev Desktopとは何か

Acquia Dev Desktopは、Drupalサイトのローカル開発を容易にするためにAcquiaが提供していたローカル開発環境パッケージです。Apache、MySQL(またはMariaDB相当)、PHPを一つにまとめたスタックと、Drupalサイトのインストール・管理・バックアップ・Acquia Cloudとの連携機能などをGUIで提供していました。開発者は手作業で各ソフトウェアを組み合わせることなく、ローカルでDrupalサイトを素早く立ち上げて開発・テストを行うことができました。

歴史的な位置づけと利用シーン

AcquiaはDrupalに深く関わる企業であり、エンタープライズ向けのAcquia Cloudなどクラウドサービスを提供しています。Acquia Dev Desktopは、特に以下のようなケースで有用でした。

  • 新規Drupalサイトのローカルプロトタイプ作成
  • 既存サイトのローカルでのデバッグ・テーマ開発
  • Acquia Cloudで稼働するサイトとローカル間での同期・簡易的なバックアップ

近年はDockerベースの開発ツール(Lando、DDEV、Docker Compose等)が普及したため、プロジェクト要件やチームのワークフローによってはこれらに移行するケースも増えています。

主な機能と特徴

  • ワンパッケージのLAMP/LEMPスタック(OSネイティブのApache、MySQL、PHP相当環境を手軽に提供)
  • GUIベースのサイト作成・インポート機能(既存のDrupalフォルダやSQLダンプを簡単に取り込める)
  • Acquia Cloudとの連携(Cloudへのプッシュ/プル、Cloudからのデータ取り込み、認証連携など)
  • 複数サイトの同時管理とポート設定、ローカルホスト名のマッピング
  • SSL(自己署名証明書)対応やPHPのバージョン切替(提供バイナリの範囲内で)
  • DrushやDrushコマンドの統合(設定による)
  • サイトのエクスポート・バックアップ作成機能

インストールと初期セットアップ(概略)

基本的なインストールの流れは次のとおりです。

  • 配布パッケージのダウンロード(Windows/Mac向けのインストーラが提供されていた)
  • インストールウィザードに従い、ローカルスタックを配置
  • 初回起動後、GUIから「Create New Site」や「Import Site」を選択し、データベース名・Drupalフォルダ・サイト名などを入力
  • 必要に応じてAcquia Cloudアカウントを連携し、Cloud上のサイトをローカルに取り込む

インストーラはローカルのhostsファイルにエントリを追加して、ブラウザでホスト名指定のアクセスが可能になるよう設定することが一般的でした。

典型的なワークフロー例

ローカルでのテーマ開発やモジュール開発における典型的なワークフローは以下の通りです。

  • Acquia Dev Desktopでローカルサイトを作成/インポート
  • IDEやエディタでコードを編集(サイトのルートを編集対象にする)
  • ローカルでPHPやDrushコマンドを実行してキャッシュクリア、DB更新、テストなどを実行
  • 問題がなければ、変更をバージョン管理(Git等)でコミットし、CI/CDやAcquia Cloudへデプロイ

利点(メリット)

  • セットアップが簡単:個別にApacheやMySQL、PHPを用意する必要がない
  • Acquia Cloudとの連携がスムーズ:Cloudユーザーには便利な統合機能がある
  • GUIがあるため、コマンド操作に不慣れな開発者でも導入障壁が低い
  • 複数プロジェクトを並行して扱いやすい

注意点と制約(デメリット)

Acquia Dev Desktopは手軽さが魅力ですが、以下の点に注意が必要です。

  • 本番環境ではない:ローカル開発用であり、セキュリティやパフォーマンス面で本番運用に適さない
  • 提供されるPHP/MySQLのバージョンはパッケージ依存:最新のDrupalコアやモジュールが要求するバージョンに対応していない場合がある
  • Docker系ツールに比べると、本番環境との差異が大きくなる可能性がある(環境差による「動く/動かない」問題)
  • チームで同一のローカル環境を厳密に再現するには限界がある(設定やバージョン差で挙動が変わり得る)

トラブルシューティングのポイント

よく起きる問題と対処法の概要です。

  • ポート競合:ローカルで既にApache等が起動している場合、ポート(80/443)が競合する。Dev DesktopのGUIでポートを変更するか、既存のサービスを停止する。
  • hostsファイルの書き換え権限:Mac/Windowsではhostsの編集に管理者権限が必要。インストーラ実行時や初回設定時に権限を与える。
  • データベースの互換性:インポートしたSQLダンプの文字セットやエンジンの違いでインポートに失敗することがある。ダンプ作成時に互換性を確保するか、手動で調整する。
  • PHPバージョン依存のエラー:パッケージに含まれるPHPのバージョンが古い場合、モジュールやコアがエラーになる。必要に応じて手動で環境を調整するか、別の環境へ移行する。

セキュリティ上の注意

ローカル環境とはいえ、次の点は遵守してください。

  • ローカル環境を外部公開しない(開発用の認証やファイアウォール設定を行う)。
  • 機密情報(APIキーや本番DBのクレデンシャル)をローカルに平文で置かない。ローカルに取り込む場合は取り扱いに注意する。
  • 自己署名SSLを利用する場合、ブラウザの警告や証明書ストアの取り扱いに注意する。

移行の検討:Dockerベースのツールとの比較

近年はLando、DDEV、Docker Composeなどのコンテナ技術を用いたローカル開発ツールが主流になっています。これらとAcquia Dev Desktopの主な違いは以下の通りです。

  • 再現性:Dockerはコンテナ化により、開発環境をコードとして定義でき、チーム間での再現性が高い。
  • 本番環境との親和性:本番がコンテナベースであれば、ローカルも同様の構成にできるため本番差異が減る。
  • 拡張性:複数のサービス(Redis、Solr、Elasticsearch等)を容易に追加できる。
  • 学習コスト:Docker系はコンテナ概念の理解や設定が必要で、初期学習コストはやや高い。

既存プロジェクトを長期的に保守する場合やチームで同一環境を厳密に再現したい場合は、LandoやDDEVへの移行を検討すると良いでしょう。Acquiaのドキュメントやコミュニティ記事でも移行手順が共有されています。

移行手順(概略)

Acquia Dev DesktopからDockerベースの環境へ移行する際の基本的な流れは次の通りです。

  • 現在のサイトをエクスポート(コードはGit、データベースはSQLダンプ、ファイルはsites/default/filesなどを取得)
  • Dockerベースツール(Lando/DDEV等)のプロジェクト設定を作成(PHPバージョン、DB種別、追加サービスを定義)
  • 新環境でサイトを立ち上げ、SQLダンプのインポートとファイルの配置を行う
  • 動作確認とDrush/Cron等の設定調整を行い、必要に応じてパフォーマンスやキャッシュ設定を変更
  • 問題なければ、チーム用のREADMEや起動手順を整備して共有する

ベストプラクティス

  • 環境構築はスクリプト化・ドキュメント化しておく(後から再構築できるようにする)
  • 本番DBをローカルに取り込む際は機密情報のマスクを行う(PII保護)
  • ローカルでのPHPやDBのバージョンを可能な限り本番に合わせる
  • チームで使う場合は、環境差異についてのルールを作成する(例:開発はDocker、個人はローカルGUIツール等)

まとめ

Acquia Dev Desktopは、Drupal開発を手早く始めたい個人や小規模チームにとって非常に便利なツールであり、GUIで簡単にローカルサイトを作成・管理できる点が大きな強みです。一方で、本番環境との差異やパッケージのバージョン制約、チーム開発での再現性の面ではDockerベースのツールに分がある場面もあります。プロジェクトの規模や要件、チームの経験に応じて、Acquia Dev Desktopの採用・継続利用か、Lando/DDEV等への移行かを判断してください。常に最新情報は公式ドキュメントやコミュニティ情報で確認することをお勧めします。

参考文献

Acquia - Acquia Dev Desktop(公式製品ページ)

Drupal.org - Local development(ローカル開発に関する公式ドキュメント)

Lando - Documentation(Lando公式ドキュメント)

DDEV - Documentation(DDEV公式ドキュメント)

Acquia Documentation(Acquia公式ドキュメント)