リファレンスマスター完全ガイド:目的・作り方・配信対応までの実践手順

リファレンスマスターとは何か

リファレンスマスター(reference master)とは、アルバムやシングルの最終的な音像・音量・ダイナミクスの基準として作成・保存されるマスター音源のことです。単に「良い音のサンプル」を指す場合もありますが、制作現場では複数トラックや異なる配信フォーマットに対して一貫した仕上がりを保つための“基準ファイル”として扱われます。これによりリリース前に品質確認を行い、マスター間の整合性(音色、ラウドネス、ダイナミクス)を担保します。

リファレンスマスターの目的とメリット

  • 一貫性の担保:EP/アルバム内の曲ごとに音質差が出ないようにする。

  • コミュニケーション:マスタリングエンジニアや配信チームとの“目標値”として機能する。

  • 配信最終チェック:各配信サービスの正規化やエンコーディングによる変化に備えたチェック用音源になる。

  • アーカイブ:将来の再マスタリングやリミックス時に参照できる記録となる。

リファレンスマスターと商業リファレンス曲の違い

商業リファレンス曲(プロの市販音源)を比較対象にするのは有効ですが、リファレンスマスターは『そのリリース固有の目標』を示すためのファイルです。商業曲を単にコピーするのではなく、ジャンル、曲構成、制作目的に沿った音色やダイナミクスを自作品に適用していきます。

作成前の準備:適切なリファレンストラックの選び方

  • 同ジャンルかつ似た編成の曲を選ぶ。

  • 制作・配信予定のターゲット(ストリーミング、CD、ハイレゾなど)を明確にする。

  • 商業曲を使用する場合は、あくまで“参照”であり転載や編集を配布しないこと(著作権の観点)。

具体的な作成手順(ワークフロー)

  1. ミックスの最終調整:位相、低域の整理、クリッピングの除去を確認する。リファレンスマスターはクリーンなミックスを前提とする。

  2. ヘッドルームの確保:通常、0dBFSから-3〜-6dBの範囲でピークを収める。マスタリングで処理する余地を残すため。

  3. トーンとバランスの決定:EQで低域〜高域のバランスを整え、リファレンス曲との比較で狙いを確認する。

  4. ダイナミクス処理:必要に応じて軽いコンプやマルチバンド処理を行い、アルバム内での統一感を出す。

  5. ステレオイメージの調整:幅やセンターのバランスを確認し、モノラル互換性もチェックする。

  6. ラウドネスのターゲット設定:配信先に応じたLUFS目標を設定。多くのプラットフォームはラウドネス正規化を行うため、極端な過剰ラウドネスは逆効果になる。

  7. トゥルーピーク管理:変換時のインターサンプルピークを避けるため、トゥルーピークを監視し、一般的には-1.0 dBTP前後の余裕を持たせる。

  8. フォーマットと書き出し:原則24ビット/サンプリングレートはプロジェクト基準(44.1kHzまたは48kHzが一般的)で保存。CD用なら16ビットにディザを施したファイルも用意する。

ラウドネスと正規化(LUFS, True Peak など)

音量評価にはLUFS(ラウドネス単位)とトゥルーピーク(dBTP)が必須です。LUFSはITU-R BS.1770やEBU R128で規定された基準で、放送・配信の正規化に使われます。ストリーミング各社の傾向を踏まえ、作品の特性に合わせて統一的なリファレンスLUFS値を決めます。注意点として、単にLUFSを下げるだけでは音像が変わるため、EQやアタック感の調整も並行して行う必要があります。

配信サービス別の扱い(注意点)

各サービスは音量正規化やエンコードで結果が変わるため、リファレンスマスターは配信先を想定したチェックを行います。以下は一般的な指針です(この数値は各社の仕様変更があるため、常に公式情報で確認してください)。

  • Spotify:統合ラウドネス-14 LUFS付近を参照にするプラクティスが多い(公式ドキュメントを参照)。

  • Apple Music(Sound Check):-16 LUFS程度を基準にする場合があるが、Sound Checkの挙動は配信と再生環境で異なる。

  • YouTube:-13〜-14 LUFSの範囲を目安にするケースが多い。

重要なのは、リファレンスマスターで想定したラウドネスが各サービスでどのように変換されるかを試聴し、必要ならマスターを別仕様で書き出すことです。

メタデータと納品形式

配信/流通においては、ファイル形式とメタデータの管理が重要です。一般的な納品物は以下の通りです。

  • WAV 24-bit 44.1kHz(マスター原盤)

  • WAV 16-bit 44.1kHz(CD用、ディザ付)

  • 高解像度版(96kHzなど)が必要な場合は別途用意

  • メタデータ:ISRC(楽曲識別)、トラック名、著作権表示、アーティスト名など

実践チェックリスト(リファレンスマスター作成後)

  • 主要スピーカーとヘッドホン、スマホスピーカーでのA/B確認を行ったか。

  • LUFSとTrue Peakの値を記録し、目標と合致しているか。

  • 位相反転/モノラルでの低域消失がないか確認したか。

  • エンコーダテスト(MP3、AACなど)でアーチファクトが悪化していないか確認したか。

  • 配信プラットフォームごとに最終ファイルを書き出す必要がある場合は別バージョンを用意したか。

法律・著作権上の注意点

商業音源を参照用に使うこと自体は制作上一般的であり、私的なリファレンス使用は問題にならないことが多いです。ただし、商業曲を編集・公開・配布する行為は著作権侵害に当たるため、リファレンスはあくまで内部での参照に限るべきです。リファレンスマスターを第三者に渡す場合は、契約上の取り決めを明確にしておきましょう。

よくある誤解とトラブル回避

  • 「商業曲より大きければ良い」は誤り。過剰なラウドネスはストリーミングで正規化され、逆に音質が損なわれる可能性がある。

  • 単一のリファレンスに固執するとバイアスが生まれる。複数曲を参照し、中間的な目標を設定するのが望ましい。

  • マスタリングは耳だけでなく測定器と組み合わせること。数値と主観の両輪で判断する。

まとめ:リファレンスマスターは品質保証の核

リファレンスマスターは単なる「かっこいい音源」ではなく、リリースの品質を保証し、関係者間で共通目標を持つための実務的なツールです。適切なリファレンス選定、数値目標の設定、複数フォーマットでの確認を習慣化することで、配信後の想定外の劣化や不整合を未然に防げます。

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参考文献