コンプレッション比とは?音楽制作で押さえるべき仕組みと実践ガイド

コンプレッション比とは何か(定義と基本原理)

コンプレッション比(比率、英: compression ratio)は、オーディオコンプレッサーがしきい値(Threshold)を超えた音量の変化をどれだけ圧縮するかを示す基本的なパラメータです。一般に「4:1」「2:1」「∞:1(リミッター)」といった表記で表され、入力がしきい値を何デシベル(dB)上回ったとき、出力がその超過分を何分の一にするかを意味します。

数学的には次のように表せます。入力レベルがしきい値よりΔin dB上回っているとき、出力でしきい値上の量Δoutは、Δout = Δin / R(Rは比率)となります。したがって、ゲインリダクション(実際に減らされる量)はΔin - Δoutです。例:しきい値-20dB、信号-8dB(Δin=12dB)、比率4:1ならΔout=3dB、出力はしきい値+3dB=-17dB、ゲインリダクションは9dBとなります。

なぜコンプレッション比が重要か(音楽的・技術的な意味)

比率は単なる数値ではなく、音の“押し出し方”や“ダイナミクスの扱い方”を決定します。低い比率(1.5:1〜2:1)は音の自然さを保ちながらダイナミクスを整えるため、ボーカルやマスター段でよく用いられます。中〜高い比率(4:1〜8:1)はドラムやバス系でピークを抑え、トランジェントのコントロールや音像のまとまりを作ります。非常に高い比率(10:1以上、∞:1)はリミッティング的に働き、ピークをほとんど出させない用途に使われます。

ソフトニーとハードニー:比率の性格変化

同じ比率でも、ニー(Knee)の設定によって音の挙動は大きく変わります。ハードニーはしきい値を超えた瞬間から比率が全開になり、急激な圧縮感を生じさせます。ソフトニーはしきい値付近で徐々に圧縮が始まり、比率の効果が滑らかに増していくため、より自然で透明な圧縮感になります。ボーカルやアコースティック楽器にはソフトニーが好まれることが多く、パンチのあるスネアや特殊効果にはハードニーが選ばれます。

アタックとリリースと比率の相互作用

比率はアタックとリリースと必ず連動して考える必要があります。アタックが速すぎるとトランジェント(音の立ち上がり)が潰れ、音がこもったり迫力が失われます。逆にアタックが遅すぎるとピークがそのまま通り抜けてしまい、期待するダイナミクス制御が得られません。比率が高い場合はアタック/リリースの影響がより顕著になり、設定ミスは耳障りなポンピングや歪みを招きます。

比率の具体例と現場での目安

  • ボーカル:1.5:1〜4:1(自然さを保ちつつダイナミクスを整える)
  • スネア:3:1〜6:1(パンチの維持とピークコントロール)
  • ドラムバス:4:1〜8:1(グルーヴを持たせつつまとまりを作る)
  • バス/ステレオバス(ミックスバス):1.5:1〜2:1(自然な接着感、過度な圧縮は禁物)
  • マスタリング:1.2:1〜2:1(透明性重視。専用のマスターコンプやリミッター併用)

これらはあくまで目安で、曲調、楽器編成、エフェクトチェーン、最終的な音量(ラウドネス方針)によって変わります。

パラレルコンプレッションと比率の使い分け

パラレル(ニューヨーク)コンプレッションは、元のドライ信号と強く圧縮したウェット信号を混ぜる手法です。ここでは濃い圧縮(高比率、短いリリースなど)を極端にかけても、ドライ信号と混ぜることでトランジェントを残しつつサウンドの密度を上げることができます。例えばドラムに10:1で強くかけ、元音と50:50で混ぜる、といった処方はアタック感を維持しつつ圧縮感(重さ)を加えるのに有効です。

ダウンワードとアップワード圧縮、比率の解釈

一般的なコンプレッションはダウンワード圧縮(大きい信号を下げる)ですが、近年はアップワード圧縮(小さい信号を持ち上げる)をエミュレートするプラグインやアルゴリズムもあります。アップワードの場合、比率という概念は直接的には適用しにくいですが、どのくらい下位レベルを持ち上げるかを制御するパラメータが同等の役割を果たします。結果としては同じくダイナミクスの平滑化を達成しますが、音の透明性を保ちやすいのが特徴です。

コンプレッサーの種類と同じ比率でも出る音が違う理由

同じ比率設定でも、VCA、FET、オプティカル、バリミュー(真空管)などハードウェア/アルゴリズムの特性により音は大きく変わります。FETは速いアタックでアグレッシブ、VCAは精密でクリア、オプティカルは動作が滑らかで倍音的に柔らかく、バリミューは温かみを付与します。比率は数値上同じでも、コンプレッサーの「色」が音楽的な印象を左右します。

測定とメーターの読み方:ゲインリダクションとラウドネス

比率設定の効果を客観的に把握するには、ゲインリダクションメーター(dB表示)とラウドネスメーター(LUFS/RMS)を併用します。ゲインリダクションは瞬間的・平均的な圧縮量を示し、LUFSは最終的な主観的ラウドネスを示します。高い比率で長時間ゲインリダクションがかかっていると、音圧は上がっても音像は平坦化し、耳疲れやステレオ感の損失を招くことがあります。

よくある失敗と対処法

  • 過度な比率によるトランジェント潰れ:アタックを遅めに調整、もしくはパラレルでトランジェントを補う。
  • ポンピング(不自然なレベル上下動):リリースを曲のテンポに合わせる、サイドチェインフィルターで低域を無視する。
  • 音の“つぶれ”や歪み:入力ゲインを下げる、比率を下げる、またはI/Oゲイン構成を見直す。

マスターとラウドネス時代における比率の役割

現在のストリーミング環境ではLUFS基準での正規化が行われるため、単純に比率を上げて音圧を稼ぐ手法は限界があります。マスタリングでは低めの比率(1.2:1〜2:1)で透明性を保ちつつ、最終段でリミッターを使ってピークを整えるのが主流です。また、マルチバンドコンプレッサーを用いて周波数ごとに異なる比率を適用することで、低域の締まりと高域の透明性を同時に達成できます。

メジャーな実践テクニック

  • スレッショルドと比率を同時に調整:高い比率にしてしきい値を浅くすると極端な抑え込みになるため、目的に応じて両方を微調整する。
  • オートメーションを利用する:比率やスレッショルドを曲のセクションごとに変えることで、自然なダイナミクスを維持しつつ必要箇所にのみ圧縮をかけられる。
  • イコライザーで先に不要帯域を削る:低域の一時的ピークがコンプレッサーを過剰に動かす場合、サイドチェインフィルターや先行EQで対処する。

まとめ:比率をどう使い分けるか

コンプレッション比はダイナミクスコントロールの中心的概念であり、その数値が直接的にサウンドの性格を作ります。しかし数値はあくまで出発点で、ニー、アタック、リリース、コンプレッサーの種類、チェーン内での位置、最終的なラウドネス方針などとの総合的判断が必要です。耳を頼りにしつつ、ゲインリダクションメーターやLUFSメーターで裏付けを取り、過度な圧縮を避けることが健全なミックス/マスタリングへの近道です。

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参考文献