現場で役立つセッション録音の極意 ─ 機材・運用・権利まで徹底解説
はじめに
セッション録音は、スタジオやライブ会場、リモート環境で複数のミュージシャンが同時に演奏する場面を記録する作業を指します。単なる音の記録に留まらず、演奏の空気感、アンサンブルの微妙なニュアンス、そして後工程での編集/ミキシングのための素材を得るための高度な準備が求められます。本稿では、セッション録音の基本概念から実践的な機材選定、運用手順、ポストプロダクション、法的留意点、アーカイブの方法までを詳しく解説します。
セッション録音とは何か
セッション録音は大きく分けて「同時録音(ライブセッション)」と「個別録音(トラックごと)」に分類できます。前者は全員が同時に演奏し、空間の響きや相互作用を重視する場合に用いられます。後者は各パートを個別に録ることで修正や差し替えが容易になり、ポストプロダクションでの自由度が高まります。どちらを選ぶかは音楽ジャンル、アーティストの希望、スケジュール、予算、最終的なサウンドイメージによって決まります。
録音の基本設計
目的と成果物の明確化:最終的に求める音質(ラフミックス、マルチトラック、ステレオマスター)を明確にし、それに合わせたサンプリング周波数、ビット深度を選びます。一般的にはCD品質なら44.1kHz/24bit、プロ用途やアーカイブ目的では48kHz/24bit以上が推奨されます。
トラック割り当て:各楽器やマイクごとに最低1トラックを確保します。ドラムはキック、スネア、オーバーヘッド、ルームなど複数トラックが一般的です。ステレオペアを用いる場合も、個別のモノラルトラックを追加すると後処理が楽になります。
フェーズとゲイン構成:マイク配置時に位相の干渉が起きやすいので、常に位相確認を行い、適切なゲインステージング(-18〜-12dBFSを目安)を維持します。
機材とセッティングのポイント
マイク選定:ダイナミック、コンデンサー、リボンなど楽器や目的に応じて使い分けます。ボーカルには多数の場合コンデンサーが選ばれますが、ライブ感や耐久性を重視する場面ではダイナミックが有効です。
プリアンプとインターフェース:低ノイズでヘッドルームのあるプリアンプを選ぶこと。インターフェースは同時に扱うチャンネル数とAD変換品質(サンプル精度、クロック)を確認してください。
モニタリング:演奏者用のカスタムミックス(インイヤーやヘッドフォン)を用意し、クリックやガイドトラックの有無を事前に決めます。録音担当は別系統のモニターで実際の録音をチェックするのが望ましいです。
ルームと音響処理:録音環境の響きをコントロールすることは極めて重要です。リフレクションフィルター、吸音パネル、拡散体を適切に配置し、望ましいルームトーンを作ります。
録音前の準備(セッションプランニング)
サウンドチェック:各楽器ごとにソロ状態でレベル、EQ、位相を確認します。最終的にアンサンブルでのバランスをとり、録音中のクリッピングや過小録音を避けます。
メトロノームとテンポ管理:クリックを使うかどうか、曲中のテンポチェンジやルブレやリタルダンドの扱いを事前に決めます。クリックを使わない場合は後処理でタイムワープが必要になりやすいです。
セッションフォーマットの共有:サンプリング周波数、ビット深度、ファイルフォーマット(WAV/FLAC)、ファイル命名規則、トラックレイアウトを参加者と共有します。
録音中の運用とエチケット
セッション中は演奏者と録音スタッフの間に明確なコミュニケーションラインを設けます。録音の開始・停止、テイクの区切り、メモ取り(良いテイクのメモ、問題点)を行う人を決めておくと効率的です。セッションミュージシャンには必ず休憩と水分補給の時間を与え、録音環境(温度、照明)にも配慮してください。
リモートセッションとファイルベースワークフロー
近年はリモートで各自が別場所から録音して送るワークフローが主流になりつつあります。リモートセッションでは以下の点が重要です。
テンポとクリックトラックの共有。統一したテンポマップと空白(プリロール)を含むシンクファイルを用意します。
ファイル形式とレベル基準。48kHz/24bitのWAVが汎用性高く推奨されます。ファイル命名規則(曲名_パート_テイク.wavなど)を事前に決定します。
データ転送と管理。大容量ファイルはクラウドストレージ(例:Dropbox、Google Drive、専用のファイル転送サービス)で受け渡し、メタデータ(テイク番号、機材情報)を必ず添付します。
遅延とモニタリング。リアルタイムの演奏合わせが必要な場合は低遅延プラットフォームや専用ソフト(Jamulusなど)を検討しますが、遅延は完全には解消できないため録音手順を工夫する必要があります。
ポストプロダクションの実務
収録後の作業は、編集(ノイズ除去、タイミング修正、コンピング)、ミックス(EQ、ダイナミクス、空間処理)、マスタリングという流れが基本です。編集段階ではオリジナルのマルチトラックを保管したまま非破壊で作業することを推奨します。ノイズリダクションやタイムワーピングは過度に行うと自然さを失うため、原理と適用範囲を理解して使いましょう。
保存・バックアップ・メタデータ
録音データは複数の物理メディア(外付けHDD、RAID、クラウド)に分散して保管します。ファイルには必ずメタデータを添え、少なくとも曲名、アーティスト、セッション日、トラック割り当て、サンプリングレート、機器リストを記録してください。長期保存のためにはWAVなどの非圧縮フォーマットでの保存が望ましく、アーカイブ用にチェックサムを作成するとデータ劣化を検出できます。
権利関係と法的注意点
録音に関わる権利は複雑です。日本では著作権法に基づき、楽曲(作詞作曲)には作詞作曲家の著作権、音源や演奏録音には演奏者やレコード製作者の著作隣接権が関わります。セッション録音を商用利用する場合、参加者の同意(書面)を得ておくこと、必要に応じて出版社や権利管理団体(例:JASRAC)への手続きを行うことが重要です。また、セッションミュージシャンやエンジニアのクレジット、報酬や印税の配分を明確にした契約(セッションワークシートや契約書)を作成してください。
テクニカルチェックリスト(実践用)
事前にサンプリング周波数・ビット深度を決定
マイク配置と位相チェックを実施
プリゲインを適正に設定(-18〜-12dBFSを目安)
クリックやガイドの有無を全員で確認
トラック命名規則とバックアップ手順を共有
テイクごとにメモ(良テイク、問題点)を残す
まとめ
セッション録音は技術と人間関係の両面をバランス良くマネジメントする作業です。事前の設計とコミュニケーション、適切な機材選定、そして録音後の堅牢な保存と権利処理があれば、クオリティの高い素材を効率良く制作できます。現場では臨機応変な判断が求められますが、上に挙げたポイントを押さえておけばトラブルを大幅に減らせます。
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参考文献
- Audio Engineering Society(AES) — 録音と技術に関する学術記事や基準情報
- Sound on Sound — 録音技術、機材レビュー、チュートリアル(英語)
- Shure — マイク選定とマイク配置に関する実践ガイド
- iZotope — ノイズリダクションやポストプロダクションツールの情報
- 一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC) — 日本における著作権管理団体の公式情報
- 日本国著作権法(e-Gov 法令検索) — 日本の法的枠組みの参照


