ゲイン設定完全ガイド:録音・ミックス・ライブで音を最適化する方法
はじめに — なぜゲイン設定が重要か
ゲイン設定(ゲイン・ステージング)は、レコーディングやミキシング、ライブサウンドの基礎にして最も重要な工程の一つです。適切なゲイン設定ができていればノイズを抑え、歪みやクリッピングを回避し、後工程でのダイナミクス処理やイコライジングが効果的に機能します。逆に不適切だと、どれだけ高性能なマイクやプラグインを使っても望んだ音質は得られません。
ゲインとは何か — 基本概念の整理
ゲインとは信号の振幅を増幅または減衰させる量を指します。オーディオチェーンにはマイクプリやインターフェースの入力トリム、プリアンプ、DI、機材間のラインレベル調整、DAW内のフェーダーやプラグインの入力ゲインなど、複数のゲイン・ポイントが存在します。重要なのは各段でのレベル(ヘッドルーム)を意識し、最適なゲイン構造(ゲイン・ステージング)を作ることです。
アナログとデジタルの違い
アナログ領域では、ある程度のオーバーロードが温かみ(テープ飽和や真空管の歪み)につながることがありますが、デジタル領域では0 dBFSを超えると瞬時にクリッピングしひどく不快な歪みになります。そのためデジタル録音では特にヘッドルーム確保が重要で、一般的な推奨はピークが-6〜-3 dBFS、あるいは平均レベルで-18 dBFS前後に収めることです(環境や目的により調整)。
レベル基準とメーターの種類
- ピークメーター:瞬間的な最大振幅を示す。デジタルクリッピングを防ぐのに必須。
- RMS / LUFS / VU:実際の音量感(平均)を示す。ミックス感やラウドネス管理に重要。ITU-R BS.1770に基づくLUFSは放送・配信での標準。
- True Peak:インターサンプルピークによる過渡的なクリッピングを捉えるために有用。
入力レベルの最初の一手 — マイクからDAWまで
録音開始時はマイクプリのゲインを調整して、ピークが過度に高くならない範囲でできるだけ高いレベル(良好なS/N比)を確保します。ボーカルやアコースティック楽器はダイナミクスが大きいのでピークが-6〜-3 dBFSになるように設定するのが安全です。打ち込みやシンセのライン信号は+4 dBuなどアナログライン基準に合わせて整えます。
ゲイン構造(Gain Structure)の作り方 — 実践手順
- 入力ソース(マイク/インスト)を正しく選定し、適切なポジショニングとパッド(必要なら)を設定する。
- マイクプリ/インターフェースの入力トリムでピークが安全域(-6〜-3 dBFS)に入るよう調整する。
- DAWのトラック入力レベルをチェックし、クリッピングがないことを確認。プラグインは入れる前に余裕を持ったレベルを維持する。
- 各トラックの平均RMS/LUFSも確認して、全体のダイナミクスが適正か判断する。
- バス(グループ)やマスターでは更なるヘッドルームを残し、バス処理やマスタリング用に余裕を持たせる。
コンプレッサーやEQを使うときのゲインの扱い
プラグインは入力レベルに敏感です。コンプレッサーのスレッショルドは信号レベルを基準に作動するため、インプットゲインが高すぎると過剰にコンプがかかります。EQで大きなブーストを行うとピークが上がるため、その後にクリッピングしないようにカットや出力ゲインで調整します。一般的にプラグインの入力は0 dBメーターの近辺でなく、-18〜-12 dBFS付近を目安にすることが多いです(メーカーやプラグインにより推奨は異なる)。
デジタルで気をつけるポイント
- デジタルクリッピング:一度デジタルでクリップすると元に戻らない。録音時/ミックス時にピークが0 dBFSを超えないようにする。
- インターサンプルピーク:リサンプリングやプラグイン処理でのピーク上昇に注意。True Peakメーターを使うと安全。
- ビット深度:24bit録音であれば充分なダイナミックレンジが得られるため、やや低めのレベルで録ってもS/Nは問題になりにくい。マスタリングではビット深度とditherを理解しておく。
ライブサウンドでのゲイン管理
ライブでは複数の入力が同時に存在し、突発的なピークやフィードバックリスクが高いです。以下が基本的な流れです。
- 入力のゲイン(フィード)をステージの実際の音量で調整する。ピークメーターでクリップを避ける。
- チャンネルEQやゲートで不要な帯域やノイズを削減する。
- サブグループやマスターのヘッドルームを確保し、PAの出力に余裕を持たせる。
- モニター出力はフロアモニターやIEMごとに調整。過度の音量はハウリングを引き起こす。
ミックスでのゲインの流儀(トラック・バランスとヘッドルーム)
ミックスの初期段階では各トラックのフェーダーで大まかなバランスを作るより前に、各トラックが最適なクリッピング余裕とS/N比を持つようにトリムまたはクリップゲインで合わせます。ボーカルは平均レベルを揃え、バス処理(ドラム群やギター群)で全体のステージを作ります。バスでの処理後もマスターには必ずヘッドルーム(-6〜-3 dBFSピーク)が残るようにします。
よくある失敗とその対策
- 失敗:録音時にゲインが低すぎノイズが多い。対策:マイクプリのゲインを上げ、不要なマイクの感度や距離を見直す。
- 失敗:クリッピングを修正しようとデジタルでのリダクションしか行わない。対策:最初の録音レベルを見直し、可能なら再録を行う。リサンプリングやデジタルでの戻しは限界がある。
- 失敗:プラグインごとに入力レベルを無視。対策:プラグインの推奨入力レンジを確認し、インプット/アウトプットで調整する。
マスタリング前のゲイン調整
マスタリングエンジニアに渡す際は、マスターに十分なヘッドルーム(ピークで-6 dB〜-3 dBFS程度)を残しておくのが一般的です。また、最終的なラウドネスはマスタリングで決めるため、ミックスで過度にラウドネスを稼いでしまわないことが肝心です。
ワークフローのチェックリスト
- 録音前:マイク位置→パッド→ゲイン調整→テスト録音。
- 録音中:ピークと平均レベルを監視、必要に応じトリムを微調整。
- ミックス時:各トラックのインサート前に適正レベルを設定、プラグイン後のレベル変化を補正。
- マスター前:バスとマスターでヘッドルームを確認、True Peakもチェック。
高度なトピック(サチュレーション、サイドチェイン、インピーダンス)
サチュレーションは意図的にアナログ風味を付加しS/Nを改善する技法として使えますが、過度だと位相やダイナミクスが崩れます。サイドチェイン処理では送る側(キー信号)のレベルが処理の効き具合に直結するため、ここでも正しいゲイン設定が求められます。またマイクやギターのピックアップと機材の入力インピーダンスの組み合わせも音色に影響するため意識しましょう。
まとめ — ゲイン設定の本質
ゲイン設定はテクニカルな作業であると同時に、音楽的判断も必要とする工程です。基本は「十分なS/N比を得つつ、クリッピングや過度の歪みを避ける」こと。そして各段でのレベルが次工程の処理を適切に受け取れるように整えることです。適切なメーターを使い、標準的なリファレンス(-18 dBFS 付近の平均や-6〜-3 dBFSのピーク)を基準に作業すると、安定した結果が得られます。
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参考文献
- Sound on Sound — Gain Staging
- iZotope — The Basics of Gain Staging
- Focusrite — What is Gain Staging?
- Shure — Gain Staging
- ITU — BS.1770 (Loudness measurement)
- Wikipedia — VU meter
- Wikipedia — Headroom (audio)
- iZotope — What is Dither?
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