シンセウェーブ入門:起源・音作り・サブジャンル・文化的影響を詳細解説
はじめに — シンセウェーブとは何か
シンセウェーブ(Synthwave)は、1980年代のシンセポップ、映画音楽、ビデオゲーム音楽、イタロディスコなどに影響を受けたエレクトロニック・ミュージックの潮流で、レトロフューチャリズムやネオンカラー、サイバーパンク的な美学と結び付いて広がりました。2000年代後半から2010年代にかけてインターネットを中心に台頭し、ヴィジュアルと音楽が密接に結びついたカルチャーとして定着しています。
歴史と起源
シンセウェーブの源流は1980年代のアナログ・シンセサイザーやデジタル初期の音色、映画音楽(特にヴァンゲリスやジョン・カーペンターのスコア)、そしてアーケードや家庭用ゲーム機のサウンドトラックにあります。1990年代〜2000年代にはノスタルジアを主題にした作品群が徐々に登場し、2000年代後半からYouTubeやBandcamp、SoundCloudといったプラットフォームを介してシーンが形成されました。2010年代初頭、フランスのアーティストやYouTubeチャンネル(NewRetroWaveなど)によるキュレーションでジャンルの認知が拡大し、映画『Drive』(2011年)への楽曲提供(例:Kavinskyの"Nightcall")が商業的にも注目を集める契機となりました。
音楽的特徴
- シンセサウンド:アナログ寄りのリードやパッド、ポリフォニックなコード、厚みのあるベースライン。Roland Juno、Jupiter、Korg M1、Yamaha DX7といった80年代機の音色を想起させるサウンドが多用されますが、現代ではこれらをソフトシンセやプラグインで再現するケースが一般的です。
- リズム:ドラムはTR-808/TR-909由来のキックやハイハット、スネアにゲートリバーブを効かせたスネア・クラップを組み合わせることが多く、中速〜ミドルテンポ(概ね80〜120BPM前後)が基本です。
- ハーモニーとメロディ:シンプルで記憶に残るシンセリードのメロディ、コード進行はメジャー/マイナーの直感的な展開が中心。マイナー寄りの情緒や郷愁を帯びた旋律が多く、アルペジオやシーケンスを使った動きが曲の推進力になります。
- プロダクション手法:コーラスやフェイザー、ディレイ、リバーブで空間感を作り、テープ飽和やアナログモデリングで温かみと「古さ」を演出します。サイドチェインでのポンピングやステレオ幅の調整も重要です。
代表的なサブジャンル
- アウトラン(Outrun)/フューチャーシンセ:レースゲーム『OutRun』的な高速感とネオンの映像美を想起させるサブスタイル。エネルギッシュでドライブ感のあるトラックが多い。
- ダークシンセ(Darksynth):よりヘヴィで攻撃的、メタルやインダストリアルの要素を取り入れた方向性。映画やゲームのサウンドトラック寄りに進化することが多く、暗めの雰囲気を強調します。
- ドリームウェーブ/エモーショナルシンセ:アンビエント寄りでメロウ、ボーカルやチルなテクスチャを重視するスタイル。恋愛や郷愁を強調した楽曲が多い。
キーパーソンと作品
ジャンルを象徴するアーティストやプロジェクトには、Kavinsky(フランス)、College(David Grellier)、Gunship(イギリス)、Carpenter Brut(フランス)、Mitch Murder(スウェーデン)、FM-84(Col Bennettらのプロジェクト)、Dance With The Dead(米)などが挙げられます。Kavinskyの"Nightcall"やCollege & Electric Youthの"A Real Hero"(『Drive』収録)は、シンセウェーブ/ニュークラシックな80s再解釈が広く知られるきっかけとなった曲です。
ヴィジュアルとカルチャー
シンセウェーブは音楽だけでなくビジュアル表現と密接に結びついています。ネオンカラー、夕暮れの海岸線、ピクセルアートやVHSノイズ、フルCGや光沢素材のスポーツカーといったイメージが一貫したアイデンティティを作ります。ファッションや映像作品、ライブパフォーマンス(大きなスクリーンでのVJと連動した演出)にも影響を及ぼしています。
プロダクション・ガイド(初級~中級)
- シンセの選択:アナログ系の温かみを再現できるプラグイン(Arturia V Collection、u-he Divaなど)や、DAW内蔵のシンセでノコギリ波/矩形波をベースに作る。FM系(DX7的なエレピ系)も併用すると80s感が増します。
- ドラム:808/909系のサンプルをベースに、スネアに短めのリバーブとゲートをかける。ハイハットは開閉の組み合わせでグルーヴを作る。
- 音像の作り方:レイヤーでリードやパッドを厚くし、ディレイやコーラスで広がりを付ける。微妙なピッチモジュレーションやビブラートで生っぽさを演出。
- ミックスのコツ:サイドチェインで低域を整理し、サチュレーションで存在感を与え、マスタリング時にテープやアナログシミュレーションで“古さ”を付加する。
シンセウェーブと他ジャンルとの比較
しばしばヴェイパーウェーブ(Vaporwave)と混同されますが、両者は音楽的志向が異なります。ヴェイパーウェーブは既存音源のリサンプリングや遅延、ループによる解体と社会批評的側面が強いのに対し、シンセウェーブはオリジナル作曲によるノスタルジックな感情喚起と映像的な高揚に重点を置きます。また、ダークシンセはメタルやインダストリアル寄りで激しさを求める層に支持されます。
商業的・文化的影響
『Drive』のサウンドトラックやインディーゲーム『Hotline Miami』など、映画・ゲームを通じてシンセウェーブ的サウンドは主流メディアにも浸透しました。さらにテレビシリーズ『Stranger Things』の成功は80年代シンセサウンドへの関心を再燃させ、映画や広告、ファッションの世界でも80sモチーフが再評価される一因となりました。
現在のシーンと未来
近年はシンセウェーブが単に懐古趣味にとどまらず、新しい表現と融合する動きが進んでいます。生楽器やボーカルの導入、ハイブリッド化(ギターやオーケストレーションとの併用)、そしてリアルタイム映像と同期したライブ表現など、ジャンルは成熟期に入りつつあります。AIや高度なサウンドデザイン技術の登場により、過去のサウンドを再現しつつ新しい質感を生み出す試みも増えています。
聴きどころ・入門盤(例示)
- Kavinsky — "OutRun"(アルバム)/"Nightcall"(シングル)
- College & Electric Youth — "A Real Hero"(Drive サウンドトラック)
- Gunship — "Gunship"(アルバム)
- Carpenter Brut — "Trilogy"(コンピレーション)
- FM-84 — "Atlas"(アルバム)
まとめ — シンセウェーブの魅力
シンセウェーブは、技術的には古い音色の模倣から始まったものの、それを現在の制作技法と結び付けることで独自の文化を形成しました。ノスタルジアに訴える情感、映像的なイメージ、DIY的なシーン形成—これらが複合してジャンルとしての生命力を保っています。初心者は代表曲を聴くだけでなく、BandcampやYouTubeのキュレーターを辿ってプレイリストを作ると、現行の多様な表現を素早く掴めるでしょう。
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参考文献
- Synthwave - Wikipedia
- OutRun (video game) - Wikipedia
- Drive (2011 film) - Wikipedia
- Kavinsky - Wikipedia
- Carpenter Brut - Wikipedia
- Gunship - Wikipedia
- NewRetroWave - YouTube
- Bandcamp: Synthwave tag
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