ファンコイルユニットの完全ガイド:仕組み・種類・設計・施工・維持管理と省エネ対策
はじめに — ファンコイルユニットとは何か
ファンコイルユニット(Fan Coil Unit, FCU)は、冷温水を用いて室内の空気を加熱または冷却する末端空調機器です。主に建築物の個別空調(ゾーニング)に使われ、天井内や床置き、壁掛けなど多様な設置形態があります。利点はシンプルな構造、個別制御のしやすさ、初期コストの比較的低さとメンテナンスの容易さです。
構成と主要部品
代表的な構成要素は以下の通りです。
- 熱交換コイル(冷却・加熱用): 冷水または温水を通して空気の温度を変化させるフィン付きチューブコイル。
- 送風ファン: 空気をコイルに通すための遠心ファンまたは斜流ファン。
- フィルター: 室内空気中の埃や粒子を捕集する。取り外しと清掃が可能。
- ドレンパンおよびドレン配管: 冷房時の凝縮水を集め排水する。
- 弁類: サーモスタットに連動する2方弁や3方弁、バイパス弁など。
- 制御器・サーモスタット: オン/オフ、段数制御、PID制御、BMS連携等の制御。
種類と特徴
ファンコイルは構造・機能でいくつかの分類が可能です。
- 配管方式: 2パイプ(冷房または暖房のどちらかを切替)と4パイプ(同時暖冷動作が可能)。2パイプはコスト面で有利だが季節により運転が限定される。4パイプは利便性が高く、ホテルや複合用途ビルで多用される。
- 設置形態: 天井カセット型、天井埋込型(薄型)、床置型、壁掛型、縦型(立形)など。設置空間や用途に応じて選定される。
- ファン方式: 遠心ファン、横流ファン、斜流ファンなど。風量・静圧・騒音特性に違いがある。
設計上のポイント
適切なFCU選定と性能発揮のために検討すべき点を列挙します。
- 必要冷負荷・暖負荷の算定: 部屋の熱負荷に基づき必要能力(kW)を決定する。内部発熱、人影、日射、外壁熱貫流などを考慮。
- 供給水温と温度差: 冷房側の供給冷水温は一般に6〜12°Cのレンジ、加熱側の温水は40〜70°C程度が用いられることが多い。ユニットの設計ΔT(例えば5°C)に基づき流量を決定する。
- 水流量の算出: 熱量Q(kW)と温度差ΔT(°C)から、Q[kW]=4.186×m_dot[kg/s]×ΔTで質量流量を求める。実務ではQ[kW]=4.2×V[m3/h]×ΔT ÷3600等の換算式を用いる。
- 圧力損失とポンプ選定: コイル・弁・配管の圧力損失を合算して必要揚程を算出し、適切なラインで効率の良いポンプと吐出量制御(VFD)を選ぶ。
- 空調計画との整合: 換気風量や気流パターンを考慮し、FCUの設置位置と風向を決定する。局所ドラフトや室内短絡(吹出口から吸込への直流)を避ける。
配管・施工の注意点
配管や施工の良否が性能とトラブルに直結します。
- 水配管ルート: ドレンや空気かくはんを避けるため勾配とエアベントの配置が重要。常に逆勾配やサドルでのトラップを避ける。
- ドレン配管: 凝縮水が滞留しないよう勾配(1/100程度)を確保し、トラップやドレンポンプを必要に応じて設置する。凍結対策も検討。
- バイパスと弁選定: 2方弁でオン/オフ制御する場合、流量変動によりコイル出口温度が変動するので全体の水量バランスを考慮。3方弁は温度制御に有利だが熱量制御の比例性が落ちる場合がある。
- ストレーナー・空気分離: システムに汚れや気泡が残るとコイル閉塞や腐食の原因となるため、循環回路にストレーナーやエアセパレーターを組み込む。
- 電気配線とアース: モータや制御の電気系は規程に従って設置し、安全のためディスコネクトを各ユニットに配置する。
運転制御とビル監視システム(BMS)連携
制御戦略はエネルギー消費と居住性に直結します。
- オン/オフ制御: シンプルでコストが低いが、快適性や省エネ面では劣る。
- 段数制御・無段階制御: ファンの段数やVFDによる無段階制御で需要に応じた風量調整が可能。圧力制御や温度追従制御と組み合わせる。
- PID制御: ユニットのサーモスタットでPID制御を行うと温度安定性が向上する。
- BMS連携: BACnet、Modbus等のプロトコルで中央監視を行い、ゾーン別の運転スケジュール、異常検知、エネルギー管理を実現する。
維持管理(メンテナンス)
定期的な点検で性能低下や故障を防ぎます。一般的な項目と周期は以下の通りです。
- フィルター清掃・交換: 1〜3ヶ月毎。使用状況に応じて頻度を上げる。
- コイル清掃: 年1回以上。表面に埃や油汚れが蓄積すると熱交換性能が低下する。
- ドレンパン・ドレン配管点検: 詰まりや悪臭、カビ発生を防ぐ。必要に応じて洗浄剤やドレンヒーターを設置。
- ファン・モータ点検: ベアリングの点検、振動・騒音の確認、電流値の監視。
- 弁・配管の漏れ点検: 接続部やバルブの漏れ・固着を確認。
- 制御機器の動作確認: サーモスタットやセンサの較正、BMS通信の健全性確認。
騒音・空調音対策
FCUはファンと気流による音が発生します。ホテルやオフィスでは低騒音化が重要です。対策例は次の通りです。
- 静圧の最適化: 送風口やダクト長さを設計して局所の速度音を低減。
- 吸音材・消音器の導入: 風路内への吸音材や消音ボックスを活用する。
- ファンの選定: 低回転・高効率のファンや外付けインバータで回転数を下げる。
- 振動対策: マウントや防振ゴムを用いてモータ伝搬音を低減。
省エネ・効率化の技術
省エネのポイントは機器単体とシステム全体の両面で検討します。
- 可変流量熱源と組合せる: チラーやボイラを可変流量で運転し、ポンプにVFDを用いることで部分負荷時のエネルギーを削減。
- ファン制御の最適化: 給気負荷に応じたVFD制御で風量を最適化する。
- ゾーニングとスケジュール制御: 利用時間帯に応じてゾーンごとに運転を制御する。
- 同時冷暖房の活用(4パイプ): 建物内部での熱移動を抑え、熱源効率を高める場合がある。
- 熱交換コイルの高効率化: フィン形状やチューブ配置の最適化で熱伝達率を向上させる。
主なトラブルと診断・対処法
現場でよくある問題と対応例です。
- 冷房能力不足: 供給冷水温が高い、水流量不足、コイル汚れ、フィルター目詰まりなどを確認。
- 異音・振動: ファンのアンバランス、ベアリング摩耗、取り付け不良を点検。
- ドレンの逆流・悪臭: ドレン勾配不足や詰まり、トラップ不良。定期清掃とトラップ設計の見直しを行う。
- 温度制御不安定: サーモスタットの設置位置誤り、制御バルブの誤動作、PIDパラメータの不適切設定。
- 水漏れ・腐食: 水質管理不足(腐食性水やスケール)によるコイル損傷。水処理や陽極保護を検討。
リニューアル・更新時の留意点
既存ビルの改修ではFCUの更新で性能改善や省エネ化が期待できますが注意点があります。
- 配管・スペース制約: 既存配管や天井高の制約を考慮した機器選定が必要。
- 水質・配管の洗浄: 旧配管内の汚れを新機器に入れないためのフラッシングが重要。
- 制御インターフェースの統合: BMSや建物の運用手法に合わせて制御プロトコルを統合。
- 段階的更新と運用継続: 大規模更新では運転停止を最小化する工程管理が重要。
規範・設計基準(概説)
設計・施工に当たっては各国のガイドラインや業界標準を参照します。代表的な資料としてASHRAEハンドブック、CIBSEガイド、国内の建築設備関連の指針やメーカー技術資料が挙げられます。法令やローカルルール(防火、騒音、排水基準等)にも従ってください。
まとめ — 適材適所の選定と運用が鍵
ファンコイルユニットは個別空調の有力な手段であり、適切な選定・設計・施工・運用で快適性と省エネを両立できます。ポイントは熱負荷の正確な算定、配管・ドレン施工の確実性、定期メンテナンス、そしてBMS等を活用した制御の高度化です。特に改修案件では既存配管や水質管理を軽視すると新機器の性能を発揮できないため、十分な現地調査と工程管理を行ってください。
参考文献
- ASHRAE - American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers
- CIBSE - Chartered Institution of Building Services Engineers
- 国土交通省(建築設備関連情報)
- ダイキン工業 - ファンコイルユニット製品・技術資料
- ウィキペディア — ファンコイルユニット
投稿者プロフィール
最新の投稿
ビジネス2025.12.28実践的「新商品戦略」ガイド:市場理解からスケーリングまでのロードマップ
全般2025.12.28パッドコントローラー完全ガイド:制作・ライブ・選び方まで深掘り解説
全般2025.12.28デタッチェ:弓の“分離”で紡ぐ表現—技術・歴史・実践ガイド
全般2025.12.28周波数バランスを極める:ミックスとマスタリングで音を整える実践ガイド

