IFC(Industry Foundation Classes)徹底解説:BIMの相互運用性を支える標準と実務への応用

概要:IFCとは何か

IFC(Industry Foundation Classes)は、建築・土木・設備などの建設分野におけるデジタル情報の相互運用を目的としたオープンなデータモデルです。開発と管理は buildingSMART(ビルディングスマート)が主導しており、IFCはプロジェクト関係者間で設計、解析、施工、運用段階の情報を共有するための共通言語を提供します。IFCはプロプライエタリなファイル形式に依存しないため、長期保管やライフサイクル管理にも適しています。

歴史と国際標準化

IFCの開発は1990年代後半から始まり、以降複数のバージョンがリリースされてきました。代表的なスキーマには IFC2x3 と IFC4 があり、IFC4 以降はより多様な建築要素、属性、ジオメトリ表現をサポートしています。IFCは buildingSMART によって維持され、国際標準(ISO)として整備・公開されています。これにより、各国や各ベンダーが共通の仕様へ適合させる基盤が提供されています。

IFCのデータモデルの特徴

IFCはオブジェクト指向的なエンティティ群で構成されています。主な特徴は次の通りです:

  • エンティティとプロパティ:IfcWall、IfcWindow、IfcDoor といった構造化されたエンティティに加え、Pset(Property Set)などを使って属性情報を付与できます。
  • 関係性の表現:IfcRel(例:IfcRelDefinesByProperties、IfcRelAggregates)を利用してオブジェクト間の意味的な関係性(包含、所有、参照など)を表現します。
  • 幾何表現:IFCは複数の幾何表現(サーフェス、ソリッド、メッシュ、ボリュームなど)をサポートし、複数の表現を併存させることができます。代表的な表現手法には、IfcExtrudedAreaSolid、IfcFacetedBrep、IfcPolyline などがあります。
  • コンテキストと座標系:IfcGeometricRepresentationContext によって座標系や単位系を定義し、モデル間での位置合わせや単位の不整合を防ぎます。

ファイル形式とデータ交換

IFCデータは複数の物理形式で保存できます。代表的なものは以下です:

  • IFC-SPF(.ifc):STEP Physical File 形式のテキストベースで広く利用されている標準的な形式。
  • IFC-XML(.ifcxml):XMLベースで、XMLツールとの親和性が高く、スキーマ検証がしやすい。
  • ifcZIP(.ifczip/.ifc.zip):圧縮格納用。SPF や補助ファイルをまとめられる。
  • ifcJSON:近年普及している JSON ベースの表現。Webアプリケーションや軽量クライアントでの利用が期待される(実装状況はバージョンやツールにより差があります)。

MVD(Model View Definition)と実務ワークフロー

IFCは非常に柔軟である一方、全てを含めると冗長になるため、特定用途に必要な要素だけを規定する「Model View Definition(MVD)」が重要です。MVDは、どのエンティティやプロパティ、表現方法を用いるかを定めることで、実務上の互換性を向上させます。代表的なViewには以下があります:

  • Coordination View(IFC2x3 Coordination View):意匠・構造間の干渉チェックなどで広く使われる。
  • Reference View(IFC4 Reference View):IFC4 の標準的なサブセットを定め、より堅牢なデータ交換を可能にする。
  • COBie View:設備管理(FM)向けに必要な属性を抜き出すビュー。

プロジェクトでは、事前にMVDを合意しておくことが成功の鍵です。これにより、無駄な情報の出力や解釈のずれを減らし、検証プロセス(モデルチェックや干渉チェック)を効率化できます。

ソフトウェアと実装状況

主要なBIMツール(Autodesk Revit、Graphisoft ArchiCAD、Tekla Structures、Nemetschek Allplan、Bentley 系など)は IFC の入出力機能を提供していますが、サポートするIFCバージョンやエンティティ範囲はツールごとに異なります。実務では次の点に注意する必要があります:

  • ベンダーごとのエクスポート設定:プロファイル、Pset のマッピング、マテリアルやレイヤー情報の扱いが異なる。
  • 検証ツールの活用:Solibri、Simplebim、IfcOpenShell、xbim などのツールでエクスポート結果を検証する。
  • オープンソースライブラリ:IfcOpenShell(Python/C++)、xbim(.NET)などを使ってカスタム処理や自動チェックを構築できる。

実務での活用例

  • 設計フェーズ:異なる設計者間での干渉チェック、意匠・設備・構造の調整。
  • 施工フェーズ:施工図との整合、数量算出のベース(※ただし精度は実装依存)。
  • 維持管理(FM):設備情報や属性を引き継いで管理システムに取り込む(COBie 連携など)。
  • 解析連携:構造解析、エネルギー解析へジオメトリと属性を受け渡す際のインタフェースとして利用。

課題と限界

IFCは万能ではありません。導入と運用にあたっては以下の課題が存在します:

  • ベンダー間での実装差異:同じIFCでも各ソフトの出力・読み取り仕様差により情報欠落や誤解釈が起きる。
  • ジオメトリの表現差:パラメトリック情報が失われ、ソリッド→フェーセット変換に伴う精度低下が発生することがある。
  • 取扱う情報のスコープ:スケジュール(4D)、コスト(5D)、設備運用情報等を完全に標準化するには追加の仕様やMVDが必要。
  • 検証の負荷:IFCファイルは大規模化しやすく、検証やデバッグに専門的な知識が求められる。

実務での導入ポイント(チェックリスト)

  • MVDの事前合意:利用するIFCバージョンとMVDをプロジェクト開始時に定める。
  • エクスポート設定のテンプレート化:各アプリの設定をテンプレ化して再現性を担保する。
  • 座標・単位の整合:共有座標、単位系、原点の扱いを明確化する。
  • プロパティルールの定義:必須プロパティ、分類体系(Uniclass/OmniClass等)を事前指定する。
  • 検証プロセスの確立:モデルチェック(干渉、階/ゾーン整合性、必須属性の有無等)を定期的に実施する。
  • ネイティブデータの保持:IFCは交換用として利用し、編集は原則ネイティブファイルで行う運用が安全。

今後の展望

IFCは開発が継続しており、インフラ、道路・土木向けの拡張、より軽量なWeb対応フォーマット(ifcJSON)やセマンティクスの強化、FM向けの充実などが進んでいます。加えて、クラウドベースのコラボレーションやオープンデータ利活用の潮流により、IFC の重要性はさらに高まると期待されます。

まとめ

IFCは建設ライフサイクル全体の情報連携を可能にする強力な標準ですが、実務での効果を得るにはMVDの合意、エクスポート設定の管理、検証体制の整備が不可欠です。オープンで国際的に整備された仕様として、適切に運用すれば長期的な資産管理や異業種連携の基盤となります。

参考文献