アングル金具の選び方と設計・施工ポイント|素材・耐食性・接合方法を徹底解説
はじめに — アングル金具とは何か
アングル金具(一般に「アングル」「Lアングル」「L字金物」等と呼ばれる)は、建築・土木分野で部材どうしを接合・支持するために広く使われる金物です。鋼材を90度に曲げた断面がL字形状のものを指す場合が多く、棚受け、筋交いの取り付け、木材やアルミ材の補強、設備支持など多用途に用いられます。本コラムでは、材料選定、形状・規格、接合方法、耐食対策、設計上の注意点、施工・維持管理までを実務目線で詳しく解説します。
アングル金具の種類と形状
- 等辺アングル(L×L): 両辺の幅が同じで汎用性が高い。多くの一般用途で使用されます。
- 不等辺アングル(L×W): 一方の辺を長くしたタイプ。支持幅や取り付け面に応じて使い分けます。
- 孔あきタイプ(ボルト穴付き): 取付けをボルト・ナットで行うための穴があらかじめ開けられているもの。施工性が良い。
- 補強リブ付き・ガセット(台形プレート)併用: 高荷重部ではリブやガセットプレートで剛性を高めた製品が使われます。
- 調整型・可動継手タイプ: 現場で角度や長さを調整できる金具もあり、プレハブ工事や軽微な傾斜対応に便利です。
材料と表面処理(耐食性)
アングル金具の材料は用途により大きく異なります。一般的には以下の選択肢があります。
- 普通鋼(一般構造用鋼材): 経済的で強度も確保しやすいが、雨ざらしや湿気の多い場所では腐食対策が必要です。
- ステンレス鋼(SUS304、SUS316等): 耐食性に優れ、屋外・海岸部・薬品雰囲気下での使用に適する。価格は高め。
- アルミ(押出形材): 軽量で非磁性、耐食性もあり外装や内装の目立たない支持金具として用いられる。
表面処理としては、亜鉛めっき(電気めっき・溶融亜鉛めっき)、電着塗装、粉体塗装などがあります。めっきは防錆効果が高く、特に溶融亜鉛めっきは厚付けで長寿命ですが、継手部や加工切断面の処理が重要です。ステンレスはめっき不要ですが、周囲の金属との接触で腐食(接触腐食)を招くことがあるため、材質の組合せに注意してください。
接合方法:ボルト・ねじ・溶接・アンカー
- ボルト接合: 施工性と維持管理性が良く、点検や取り外しが可能。適切な座面処理(ワッシャー等)や締め付けトルク管理が重要です。
- タッピンねじ・木ねじ: 木材や薄板材への簡易固定に使われる。引張や剪断力が大きい箇所では太径・長さの選定に注意。
- 溶接: 恒久的な接合が可能で剛接合として有利。ただし現場溶接では熱歪みや表面処理の損傷、溶接部の耐食性低下に配慮する必要があります。
- アンカー(コンクリート固定): コンクリートへ取り付ける際は、適切なアンカーボルトの種類(化学アンカー、機械式アンカー)と埋め込み長さを確認します。
設計時の基本的注意点
アングル金具を設計・選定する際には以下の点を確認します。
- 荷重の種類: 引張・圧縮・剪断・曲げ・組合せ荷重を分解して評価する。特に偏心による曲げモーメントが発生する場合は見逃さない。
- 座屈・横座屈: 細長いアングル部材は局部座屈や横座屈を起こす可能性があるため、必要に応じて補強やガセットを検討する。
- 締結部の強度: ボルト孔周りの有効断面や孔配置、ボルトのせん断耐力、ねじ部の損傷等を考慮する。
- 接合部の可視・点検性: 定期点検が必要な構造では、取り外し可能な接合(ボルト等)を採用するのが合理的です。
- 耐食設計: 周囲環境(海岸・薬品・屋内外)に応じて材料・表面処理を選定し、塗膜の破れや切断面の防錆処理を考慮する。
施工上のポイント
- 製品の穴位置や寸法精度を現場条件と合わせて確認し、現場加工が必要な場合は切断面の防錆処理を行う。
- ボルト締結時は適正なトルクで均等に締め付け、座面の変形や過大締付けを避ける。高強度ボルト使用時は指定の締付け管理を行う。
- 溶接施工では、溶接熱による焼鈍やひずみ、めっきや塗膜の損傷を考慮し、必要ならば後処理を行う。
- アンカー打設では基礎コンクリートの強度やアンカーの許容荷重、取り付け角度を確認する。
維持管理と点検
アングル金具は比較的目視点検が容易ですが、以下の点を定期的にチェックしてください。
- 腐食や塗膜の剥がれ、めっきの粉吹き(白錆)や赤錆の発生。
- ボルトの緩み・座面の塑性変形・亀裂の有無。
- 溶接部の割れや疲労損傷。
- アンカー周囲のコンクリートの剥離やひび割れ。
必要に応じて再防食処置、ボルトの交換、補強プレートの追加などを行います。特に海岸部や化学薬品附近では点検間隔を短くすることが推奨されます。
用途別の選定例
- 屋内の軽荷重取付: 電気配線トレーや軽設備の支持には亜鉛めっきした薄鋼板製の孔あきアングルが使われることが多い。
- 外装・屋外荷重支持: 溶融亜鉛めっきやステンレス製を使用。取り付け部は防水処理を行う。
- 構造補強・高荷重: 厚肉の等辺/不等辺アングル+ガセット+高強度ボルト、必要なら溶接を併用。
設計基準・法令との関係
アングル金具自体は規格化された製品が多数ありますが、建築構造物として用いる場合は建築基準法や各種設計基準(例えば鋼構造に関する設計規準等)に従い、荷重計算・耐力検証を行う必要があります。特に避難・安全に関わる設備支持や外壁支持などは構造設計の専門家による確認を推奨します。
まとめ — 選定と実務的アドバイス
アングル金具はシンプルながら多用途であり、材料選定、表面処理、締結方法、施工管理の四つを適切に選ぶことが長寿命で安全な取り付けに直結します。設計段階で荷重条件や環境条件を明確にし、必要に応じて余裕を持った断面や補強、耐食対策を行いましょう。現場では製品仕様書やメーカーの施工指針に従い、点検記録を残すことが重要です。
参考文献
- 一般社団法人日本工業標準調査会(JISC)
- 亜鉛めっき - Wikipedia
- ステンレス鋼 - Wikipedia
- ねじ - Wikipedia
- 一般社団法人日本建築学会(AIJ)
- MISUMI(製品選定・寸法表の参考)


