併殺(ゲッツー)の全て:ルール・戦術・練習法を徹底解説

併殺とは何か — 野球における“試合を変える”プレー

併殺(へいさつ)、通称「ゲッツー」は一度の守備側のプレーで二人の打者・走者がアウトとなる状況を指します。攻守両方にとって試合の流れを大きく左右するプレーであり、得点機を潰す最強の守備手段であると同時に、攻撃側にとっては最大級のリスクとなります。ここではルール的な基礎から戦術、技術、練習法、統計的評価までを詳しく掘り下げます。

併殺の種類とプレーの分類

  • 典型的なゴロの併殺(6-4-3、4-6-3、5-4-3 など):内野手がグラウンドボールを処理し、一塁・二塁間で送球して二人を順に刺す形。数字はスコアリングでの守備番号を表す(6=ショート、4=二塁、3=一塁)。
  • 無理のない一塁手の一人併殺(unassisted):例えば三塁走者の飛び出しを刺すときに一塁手が二塁でタッチして二人目もアウトにするような場面。
  • 挟殺プレー(ランダウン):走者を複数の守備位置で挟んでアウトを取る場面。併殺とは区別されることもあるが、状況によっては併殺に繋がる。
  • 送球ミスや捕手のプレーでの併殺:セカンドへの送球後の連携やタッチプレーで二つのアウトが生まれる場合。
  • フォースプレーとタグプレーの混在:併殺の多くはフォースプレー(走者に進塁義務がある場合)を絡めて成立するが、タグで二人目を取るケースもある。

ルールとスコアリングのポイント

併殺成立の基本は「一度の連続した守備行為で二人がアウトとなる」ことです。スコアブックでは併殺に関わった守備者へ「刺殺(putout)」「補殺(assist)」が記録され、併殺自体はチームや投手の統計でも管理されます。なお、併殺は機会(runners on first, less than two outs など)によって発生確率が大きく変わるため、選手やチームの併殺数を評価する場合は「機会あたりの効率(double-play efficiency)」を考慮するのが一般的です。

守備側の戦術と技術

併殺を確実に取るための守備側の要素は大きく分けてポジショニング、フィールディング、送球の精度、そして連携です。

  • ポジショニング:打者・走者の傾向、投球の配球、ゲーム状況に応じて守備位置を微調整。セカンドはセカンドベース寄り、ショートは一塁側に深めに入るなど。
  • フィールディング:グラブさばき、ボールの取り方、体の向き。確実に足を使って処理し、次の動作(起き上がり→投げる)に無駄がないこと。
  • 送球とピボット:セカンドの「ピボット(回転)」動作は併殺の中心。左投げ・右投げの違い、足の踏み込み、グラブの返し方でタイムが大きく変わる。
  • コミュニケーション:誰が一塁へ投げるか、または一塁へ向かう時の声かけを徹底すること。

打者・走者側の戦術(併殺回避)

攻撃側は併殺を避けるために状況判断を行います。代表的な対策は次の通りです。

  • バントやセーフティーバントでゴロを避ける。
  • ピッチャーゴロ狙いの打ち方を避け、外野に飛ばす意識を持つ。
  • 走者は次の塁へのスタートを早めない、或いはタブを使って一塁到達を速める。
  • 特定の打者はGIDP(Grounded Into Double Play)の発生率が高いことを踏まえ、作戦で打順の配置や代打を検討する。

併殺阻止のルール的留意点

近年は走者の“妨害”や“悪質なスライド”を巡るルール整備が進んでおり、守備の安全や審判の判定基準が明確になっています。MLBでは中堅内野手保護のためのスライド規定(bona-fide slide / takeout slide rule)が導入され、審判が危険なスライドやブロッキングを厳格に裁くようになりました。NPBでも同様に選手の安全確保に関する規定があり、併殺をめぐるプレーでの違反行為は逆に攻撃側に利益を与える可能性があります(判定による進塁や打者の出塁など)。

サバーメトリクスから見た併殺の評価

統計的には、併殺はその発生機会(走者の存在、投手のゴロ率、打者の傾向)を考慮しないと評価が歪みます。代表的な指標は以下の通りです。

  • GIDP(Grounded Into Double Play):打者が何回併殺に打ち取られたか。
  • GB%(Ground Ball Rate):投手や打者のゴロ割合。ゴロが多いほど併殺の可能性が上がる。
  • DP turned / DP opportunities:守備側が与えられた併殺機会に対して実際に何回併殺を取ったかを比べる効率指標。

また個人評価では併殺の数だけでなく、その背後にある「守備機会」を標準化して評価するのがポイントです。守備指標(UZR、DRS 等)や打者指標(GIDP/PA)と組み合わせて分析することで、併殺が選手に与える影響をより正確に把握できます。

練習法:併殺を確実に取るためのドリル

併殺の能力は反復練習で磨かれます。代表的なメニューは次の通りです。

  • ピボットドリル:セカンドで正確に回転し、一塁へ速く正確に投げる反復。
  • 短距離送球練習:二塁→一塁間の短い送球の正確さとタイミングを向上させる。
  • 連携練習(シャトル式):ショートとセカンド、またはセカンドと一塁手の連携を強化する。
  • ライブシチュエーションでの反応トレーニング:ゴロのバリエーションに応じた第一歩の踏み方を習得。

実戦での読みと配球:投手の役割

投手には併殺を誘発する重要な役割があります。一般にシンカーや速い低めの速球はゴロを打たせやすく、ゴロ率の高い投球が併殺の確率を高めます。ただし、単にゴロを打たせればよいわけではなく、打者の左右や走者のスタートを想定した配球、内野手の位置取りとの兼ね合いが重要です。監督や捕手と連携して「ゴロでアウトを取りにいく」配球プランを共有することが肝要です。

併殺にまつわる誤解と注意点

よくある誤解として「速い打者がいると併殺は起きにくい」というものがありますが、速い打者でも内野ゴロで送球ルートが良ければ併殺は成立します。また、スライディングで足を当てれば併殺を必ず阻止できるわけではなく、MLBやNPBのルールで危険なスライドや故意の妨害はペナルティ対象となります。したがって安全かつルールに沿った技術で併殺回避を図ることが重要です。

まとめ — 併殺を味方にするために

併殺は野球の中でも最もドラマティックで効率的な守備の武器です。守備側は確実なフィールディング、鋭いピボット、正確な送球、そして練度の高い連携で併殺を量産できます。攻撃側は状況判断と技術で併殺のリスクを下げ、必要に応じて戦術(バント、代打、打順の配置)を駆使します。統計的には機会を考慮した評価が不可欠であり、選手育成では具体的なドリルを通じて併殺力を高めることが近道です。

参考文献